いつか賢者になる僕は、追放された勇者パーティから溺愛をうけていた!?〜ごめん、女神様とパーティーを組んでるから戻れません〜

花野りら

文字の大きさ
上 下
57 / 68
   第三章  勇者パーティの没落

 20  魔王軍竜騎士サーラ&マティウス

しおりを挟む

『 西の砦を魔族から奪還せよ! 』

 と、皇帝から下されたクエストの報奨金は十億フバイ。
 一生遊んで暮らせる金額なのだが、その任につく勇者様は四名であった。
 しかし、すでに二名は離脱し、現在はアフロ様とガイル様だけが残っている。
 二人は手柄を立てようと必死になって魔族との戦闘を始めていた。地上にいたオークやゴブリンたちを、華麗な剣術と魔法攻撃で片付けていく。もちろん仲間のパーティたちも、隊列を組んで魔物に挑んでいたのだが……。
 
「おい! ノエルは砦の戦士たちを回復してやってくれ」
「わかりました」

 ヒーラーのわたしは広域に回復魔法を放出させることができる。もちろん、魔物たちはのぞいてだ。指先で魔力をコントロールしながら、瀕死になった戦士たちみんなの傷を癒していた。と同時に、戦況を見てみる。

 砦のなかは十数名の戦士がまだ生きており、ひとりの赤胄を装備した魔王軍竜騎士と戦闘していた。そこに、わたしたちが加勢する、という対立の構図であった。
 
「アフロ様っ!」

 戦士たちは叫んだ。
 同胞である勇敢な勇者の登場に、彼らの暗かった表情が一気に明るくなる。かたや、膝から崩れ、わんわんと泣きだす戦士もいた。安堵したのだろう。
 
「もう大丈夫だっ! よく戦ったな、あとは俺たちにまかせろ」
 
 しかし、「いいえ」と否定する戦士たち。
 
「我らも戦います」
「こいつに仲間たちの多くを殺されましたっ!」

 戦士に指をさされたのは赤胄の竜騎士。鬼のような兜をグイッと引きあげ、周囲に視線を走らせる。顔は人間のようだが、歪む口もとが大きく開くと、恐ろしい牙が見え隠れしている。

「なんだ? 人間が増えたな……ん? おっおおおお!」

 竜騎士は突然、目を剥き、顔を赤くして喜んだ。
 
「人間の女じゃねぇかぁっ! 戦場にいるなんてラッキー! しかもなんだあの装備は、すげぇ、おっぱいが半分見えちゃってるぅ……ゴクリ、やっべ……」

 その視線は完全にアーニャさんだった。
 
「えっ、なんなの? やだ……」

 アーニャさんはとっさに腕を組んで胸を隠した。
 だったらそんな水着みたいな胸甲、ビキニアーマーを装備しなきゃいいのに、とわたしは心のなかでツッコミを入れておく。すると、次の瞬間に、
 
「いただきま~すっ!」

 と、言って竜騎士は飛びあがった。
 装備している槍を振りかぶり、ブワッとうなる強風とともにアーニャさんに襲いかかる。しかし、アーニャさんは、サッと竜騎士の攻撃を見切ってバックステップで交わすと、正眼の構えから渾身の一刀を振った。
 ガチンと鳴る金属音。竜騎士は腕一本でアーニャさんの攻撃を弾き返す。魔力で肉体を硬化しているのだろう。

「強化系魔法か……」

 とつぶやいたガイル様は、しゅんと音速とともに姿を消した。あっという間に颯爽と掛け、切り裂く風魔法を竜騎士にめがけて放つ。だが、竜騎士が、ぶんっと振った槍の風圧によって緑色の風は相殺され、すっと無風に変わった。
 
「ば、バカな、僕のウィンドカッターが……」

 すかさず、ガイル様のパーティにいる魔法使いのひとりが詠唱し、ガイル様の魔力を増加させるバフをかけた。ガイル様の背後に風魔法のシンボルカラーである緑色のオーラが揺らめいた。すると……。

 ではこちらも、と言って竜騎士は呪文を唱え始めた。
 突然、ヒューと吹いた風により空気が冷たくなる。
 そのとたん、竜騎士のまわりに刃の氷が現れた。
 
「とりあえず、男どもはくたばれ……」

 ぶんっと振った竜騎士の槍の風圧により、氷の刃が物凄いスピードで四方八方に飛んだ。
 グサグサグサ、と砦にいた戦士たちがえぐられていく。
 残酷な光景に、一瞬、戸惑うわたしにミルクちゃんが声をかける。
 
「アイスニードルです。ノエルちゃん、こっち」

 わたしはミルクちゃんのほうに走った。
 ガイル様パーティの魔法使いと僧侶たちは魔法シールドを張り、戦士は盾で防御する。だが……!
 
「わぁぁ」
「ううっ」
「ぐひゃぁ」

 氷の刃の魔力は凄まじく、あっけなく魔法シールドと盾を突き破り、男たちの身体をえぐっていく。とても目が当てられない。それほどの、赤い鮮血が流れている。
 
「うわぁぁ!」
 
 ガイル様は叫んだ。
 仲間たちの無残な光景。
 それを目の当たりにしたのだから無理もない。
 しかし、無情にも氷の刃は止まることなく襲いかかる。わたしとミルクちゃんは、後方の壁に身を隠していた。アーニャさんとガイル様は剣を振って迫りくる氷の刃を打ち砕く。
 
 そんななか、アフロ様がひとり立ち尽くし、竜騎士をにらんでいるではないか。飛んでくる氷の刃を切ろうともしないで、見切って半身を傾けてギリギリで交わす。何か作戦でもあるのだろうか? やがて、氷の刃が静かになると、アフロ様はミルクちゃんのほうを向いて口を開いた。
 
「おい! 俺の剣に火炎魔法を付属させろ」
「わかりました」
「インフェルノ級のやつをたのむ」
「はいっ」

 ゆらり、手のひらを踊らせ詠唱を始めたミルクちゃん。
 
「いっけ~!」

 ボワッと虚空に現れた巨大な火球を操り、アフロ様めがけて投げた。すると、アフロ様の装備するソードが火炎の螺旋を描き、ファイヤーソードになる。
 
「アイス系の魔法を使うならば、属性的にみて炎に弱いだろう? なあ、魔族の竜騎士よ」

 うぅ……と曖昧に答える竜騎士は眉をひそめた。
 その瞬間、アフロ様の姿が煙だけを残して消える。目で追いかけると、すでに竜騎士と激闘を繰り広げていた。槍対剣では剣のほうが圧倒的に不利なのだが……。
 
 ブンッ!
 
 と、竜騎士の振った槍を垂直に飛んで交わしたアフロ様は、そのまま虚空で振りかぶったファイヤソードで大振りに斬る。ザンッ! と空気が切り裂かれた爆音とともに、半月を描いた炎の斬撃が飛び、竜騎士を襲う。
 
「むんっ」

 竜騎士は手をかざして青白い魔法のバリアを放ち防御体制をとる。しかし、炎はインフェルノ級の爆炎。ドガガガッと黒い煙幕をあげながら竜騎士の身体ごと吹っ飛ばす。

「ぐはっ」

 竜騎士から鈍い声が漏れたと同時に、魔法バリアが消えた。その瞬間、竜騎士は火炎に飲みこまれ吹っ飛び、ドガッと壁に激突した。瓦礫に埋もれ、片膝をついている竜騎士は、「ぐっ……」と唸り、痛々しく眉をひそめる。すると……。
 
 シュッ! 

 ガイル様が風のように駆けている。
 装備しているのは、漆黒のダガー。
 その刃には緑色に輝く風魔法が付属させてある。
 ガイル様は竜騎士の首めがけ、黒と緑の魔力が混じるダガーを薙ぎ払う。
 
 シュパッ! 

「仲間たちの仇だ……」
 
 銀髪が風に揺れるガイル様は、そう吐き捨てた。
 竜騎士の身体の一部だったものが放物線を描いて落下。やがて、ゴロゴロと地面を転がっていく。すると、歩いて来た人物の足下で止まった。そこには、魔族の男、二人組が立っていた。
 赤胄を装備した、暗黒の禍々しいオーラを放つ竜騎士が二体。 
 ふいに、一方の男が、グイッとその生首を持ちあげ、
 
「あらら、人間にやられるなんて予想外……」

 と言った。
 
「下っ端にやらせといて、よく言うぜ、サーラ様」
「戦う前に敵情を見ておくことが、もっとも大事なのだよ、マティウス」

 サーラ様と呼ばれた赤胄の竜騎士は、長い黒髪を垂らす、すらりと背の高いイケメン。彼はふいに持っていた生首をぶん投げ、砦の窓から放り投げた。
 
「土に還るがいい」

 そう吐き捨てたサーラの隣にいるのは、マティウスと呼ばれた竜騎士。彼はガチムチの筋肉マン。わたしたちを見て驚いている様子がうかがえる。その目線がなんだか、ハートマークにも見える。
 
( 嘘でしょ……魔族なのに人間に対して欲望を抱き、興奮しているのだろうか? )
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...