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第三章 勇者パーティの没落
20 魔王軍竜騎士サーラ&マティウス
しおりを挟む『 西の砦を魔族から奪還せよ! 』
と、皇帝から下されたクエストの報奨金は十億フバイ。
一生遊んで暮らせる金額なのだが、その任につく勇者様は四名であった。
しかし、すでに二名は離脱し、現在はアフロ様とガイル様だけが残っている。
二人は手柄を立てようと必死になって魔族との戦闘を始めていた。地上にいたオークやゴブリンたちを、華麗な剣術と魔法攻撃で片付けていく。もちろん仲間のパーティたちも、隊列を組んで魔物に挑んでいたのだが……。
「おい! ノエルは砦の戦士たちを回復してやってくれ」
「わかりました」
ヒーラーのわたしは広域に回復魔法を放出させることができる。もちろん、魔物たちはのぞいてだ。指先で魔力をコントロールしながら、瀕死になった戦士たちみんなの傷を癒していた。と同時に、戦況を見てみる。
砦のなかは十数名の戦士がまだ生きており、ひとりの赤胄を装備した魔王軍竜騎士と戦闘していた。そこに、わたしたちが加勢する、という対立の構図であった。
「アフロ様っ!」
戦士たちは叫んだ。
同胞である勇敢な勇者の登場に、彼らの暗かった表情が一気に明るくなる。かたや、膝から崩れ、わんわんと泣きだす戦士もいた。安堵したのだろう。
「もう大丈夫だっ! よく戦ったな、あとは俺たちにまかせろ」
しかし、「いいえ」と否定する戦士たち。
「我らも戦います」
「こいつに仲間たちの多くを殺されましたっ!」
戦士に指をさされたのは赤胄の竜騎士。鬼のような兜をグイッと引きあげ、周囲に視線を走らせる。顔は人間のようだが、歪む口もとが大きく開くと、恐ろしい牙が見え隠れしている。
「なんだ? 人間が増えたな……ん? おっおおおお!」
竜騎士は突然、目を剥き、顔を赤くして喜んだ。
「人間の女じゃねぇかぁっ! 戦場にいるなんてラッキー! しかもなんだあの装備は、すげぇ、おっぱいが半分見えちゃってるぅ……ゴクリ、やっべ……」
その視線は完全にアーニャさんだった。
「えっ、なんなの? やだ……」
アーニャさんはとっさに腕を組んで胸を隠した。
だったらそんな水着みたいな胸甲、ビキニアーマーを装備しなきゃいいのに、とわたしは心のなかでツッコミを入れておく。すると、次の瞬間に、
「いただきま~すっ!」
と、言って竜騎士は飛びあがった。
装備している槍を振りかぶり、ブワッとうなる強風とともにアーニャさんに襲いかかる。しかし、アーニャさんは、サッと竜騎士の攻撃を見切ってバックステップで交わすと、正眼の構えから渾身の一刀を振った。
ガチンと鳴る金属音。竜騎士は腕一本でアーニャさんの攻撃を弾き返す。魔力で肉体を硬化しているのだろう。
「強化系魔法か……」
とつぶやいたガイル様は、しゅんと音速とともに姿を消した。あっという間に颯爽と掛け、切り裂く風魔法を竜騎士にめがけて放つ。だが、竜騎士が、ぶんっと振った槍の風圧によって緑色の風は相殺され、すっと無風に変わった。
「ば、バカな、僕のウィンドカッターが……」
すかさず、ガイル様のパーティにいる魔法使いのひとりが詠唱し、ガイル様の魔力を増加させるバフをかけた。ガイル様の背後に風魔法のシンボルカラーである緑色のオーラが揺らめいた。すると……。
ではこちらも、と言って竜騎士は呪文を唱え始めた。
突然、ヒューと吹いた風により空気が冷たくなる。
そのとたん、竜騎士のまわりに刃の氷が現れた。
「とりあえず、男どもはくたばれ……」
ぶんっと振った竜騎士の槍の風圧により、氷の刃が物凄いスピードで四方八方に飛んだ。
グサグサグサ、と砦にいた戦士たちがえぐられていく。
残酷な光景に、一瞬、戸惑うわたしにミルクちゃんが声をかける。
「アイスニードルです。ノエルちゃん、こっち」
わたしはミルクちゃんのほうに走った。
ガイル様パーティの魔法使いと僧侶たちは魔法シールドを張り、戦士は盾で防御する。だが……!
「わぁぁ」
「ううっ」
「ぐひゃぁ」
氷の刃の魔力は凄まじく、あっけなく魔法シールドと盾を突き破り、男たちの身体をえぐっていく。とても目が当てられない。それほどの、赤い鮮血が流れている。
「うわぁぁ!」
ガイル様は叫んだ。
仲間たちの無残な光景。
それを目の当たりにしたのだから無理もない。
しかし、無情にも氷の刃は止まることなく襲いかかる。わたしとミルクちゃんは、後方の壁に身を隠していた。アーニャさんとガイル様は剣を振って迫りくる氷の刃を打ち砕く。
そんななか、アフロ様がひとり立ち尽くし、竜騎士をにらんでいるではないか。飛んでくる氷の刃を切ろうともしないで、見切って半身を傾けてギリギリで交わす。何か作戦でもあるのだろうか? やがて、氷の刃が静かになると、アフロ様はミルクちゃんのほうを向いて口を開いた。
「おい! 俺の剣に火炎魔法を付属させろ」
「わかりました」
「インフェルノ級のやつをたのむ」
「はいっ」
ゆらり、手のひらを踊らせ詠唱を始めたミルクちゃん。
「いっけ~!」
ボワッと虚空に現れた巨大な火球を操り、アフロ様めがけて投げた。すると、アフロ様の装備するソードが火炎の螺旋を描き、ファイヤーソードになる。
「アイス系の魔法を使うならば、属性的にみて炎に弱いだろう? なあ、魔族の竜騎士よ」
うぅ……と曖昧に答える竜騎士は眉をひそめた。
その瞬間、アフロ様の姿が煙だけを残して消える。目で追いかけると、すでに竜騎士と激闘を繰り広げていた。槍対剣では剣のほうが圧倒的に不利なのだが……。
ブンッ!
と、竜騎士の振った槍を垂直に飛んで交わしたアフロ様は、そのまま虚空で振りかぶったファイヤソードで大振りに斬る。ザンッ! と空気が切り裂かれた爆音とともに、半月を描いた炎の斬撃が飛び、竜騎士を襲う。
「むんっ」
竜騎士は手をかざして青白い魔法のバリアを放ち防御体制をとる。しかし、炎はインフェルノ級の爆炎。ドガガガッと黒い煙幕をあげながら竜騎士の身体ごと吹っ飛ばす。
「ぐはっ」
竜騎士から鈍い声が漏れたと同時に、魔法バリアが消えた。その瞬間、竜騎士は火炎に飲みこまれ吹っ飛び、ドガッと壁に激突した。瓦礫に埋もれ、片膝をついている竜騎士は、「ぐっ……」と唸り、痛々しく眉をひそめる。すると……。
シュッ!
ガイル様が風のように駆けている。
装備しているのは、漆黒のダガー。
その刃には緑色に輝く風魔法が付属させてある。
ガイル様は竜騎士の首めがけ、黒と緑の魔力が混じるダガーを薙ぎ払う。
シュパッ!
「仲間たちの仇だ……」
銀髪が風に揺れるガイル様は、そう吐き捨てた。
竜騎士の身体の一部だったものが放物線を描いて落下。やがて、ゴロゴロと地面を転がっていく。すると、歩いて来た人物の足下で止まった。そこには、魔族の男、二人組が立っていた。
赤胄を装備した、暗黒の禍々しいオーラを放つ竜騎士が二体。
ふいに、一方の男が、グイッとその生首を持ちあげ、
「あらら、人間にやられるなんて予想外……」
と言った。
「下っ端にやらせといて、よく言うぜ、サーラ様」
「戦う前に敵情を見ておくことが、もっとも大事なのだよ、マティウス」
サーラ様と呼ばれた赤胄の竜騎士は、長い黒髪を垂らす、すらりと背の高いイケメン。彼はふいに持っていた生首をぶん投げ、砦の窓から放り投げた。
「土に還るがいい」
そう吐き捨てたサーラの隣にいるのは、マティウスと呼ばれた竜騎士。彼はガチムチの筋肉マン。わたしたちを見て驚いている様子がうかがえる。その目線がなんだか、ハートマークにも見える。
( 嘘でしょ……魔族なのに人間に対して欲望を抱き、興奮しているのだろうか? )
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