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   第三章  勇者パーティの没落

 11  ラクトのお母さんとアフロ

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「火の神殿に行ってきます。お母さん、どうもおじゃましました」
「あら、なんのおかまいもなく」
「いえいえ、私たちは冒険者ですから気を使わなくてけっこうです、それでは……」

 アフロ様はそう言うと、踵を返して颯爽と歩きだした。
 わたしはすぐに追いかけて、ほどよく家から離れたことを見計らってから、「あの……」と尋ねた。

「なんだ? ノエル」
「アフロ様とラクトくんのお母さんは、どういう関係なのですか?」
「ん? 気になるのか?」

 はい、とうなずいたわたしは、あざとく上目使いをしてアフロ様を見つめた。満更でもなく嬉しがるアフロ様は、「仕方ないな」と言ってからつづけた。
 
「彼女は寂しい未亡人だ。あと、お金も必要でね……とするならば、ノエル、おまえも大人ならもうわかるだろ?」
「……身体を売っているのですか?」

 あはははは! アフロ様は大声で笑う。
 そこに駆けよってきた、アーニャさんとミルクちゃんが驚いて目を剥いた。

「バカか! ノエルはやっぱり変態だな」
「……ええ? じゃあ、どうやってお金を?」
「副業だよ。本職である食堂の店員をするかたわら、旦那がいなくて時間に余裕のある未亡人の趣味は“お絵かき”だった。彼女は夜な夜な晩餐会に出かけては絵画を売っていたんだよ。そうするとだな、ノエルみたいな変態なことを考える伯爵のおじさんがいるわけだ」
「うぅ……なにがあったのですか?」
「あれはまだラクトがパーティに入る前のことだ。とある公爵家の晩餐会にて、俺は彼女が襲われているのを見つけてな。助けてやったってわけだ。そこで彼女から実はラクトって息子がいてと紹介されて……と、まあ、そういう関係だ。期待に添えなくて悪かったな」
「そうだったんですか……それでも、いつしかアフロ様はラクトくんに言ってたじゃないですか、お母さんがしていることを知ったら“おまえは自殺もんだ”って……あれはどういう意味だったんですか?」

 ん? と、頭をかいたアフロ様は面倒臭そうに口を開いた。
 
「母親の稼いだ金だけで暮らしているからだよ。親のすねをかじって生きるなんて情けない。俺なら死んだほうがマシだ」
「……あの、お言葉ですが、家族で助け合うのはあたりまえのことでは?」
「家族がいたならなっ!」

 アフロ様は眉間に皺をよせてわたしをにらむと、足早に歩きだし、アーニャさんに声をかけた。
 
「おい、アーニャ! 火の神殿まで案内しろっ」

 はい、と元気よく言ったアーニャさんはアフロ様の前を歩いた。すると、わたしの横に立ったミルクちゃんが、ふぅーとため息を吐きつつ声をかけてくる。
 
「ノエルちゃん、ダメですよ。幼い頃に両親を失ったアフロ様にそういうことを言っては」
「……ごめんなさい」
「んもう、ノエルちゃんとアフロ様の二人は幼なじみのはずでは?」
「はい……よく覚えてる。アフロ様はずっと一人でした……学園でも寮でも……」

 ですよね、彼は孤高の勇者でした……とささやくミルクちゃんは遠くの空を見つめた。

 ああ、ダメだ。こんなわたしではダメだ。
 
 身体の傷は魔法で癒すことはできても、心の傷は癒すことができない。
 
 本当の優しさとはなに?
 本当の愛とはなに?
 
 ああ、もうわけがわかない。
 人を愛したいし、愛されたいはずなのに……。
 神様、教えてください。わたしはどうしたらいいのでしょうか?
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