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   第二章  火の女神リクシスの加護

  27  クリスタルシリーズを装備する

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「どうですか? 似合いますか……」

 ここは、以前訪れたことのある武器と防具の店。
 リクシスさんに質問していた僕は、さらに強い装備品に新調していたのだが。
 
「わっ、かっこいいです。ラクトくんじゃないみたい……」
「てへへ、なんだか照れます」
「うふふ、性格はかわいいラクトくんのままなのに装備が最強なんて、ギャップ萌えです」
「もう、そんな褒めないでくださいよ。リクシスさん」
「だって、これで私のクリスタルピアスとおそろいになったんだもん、嬉しくてつい」

 そう言ったリクシスさんは、耳についているピアスを指先で触れた。揺れる、ブルーの水晶がきらりと輝きを宿す。すると、横から歩いてきた店主が声をかけてきた。相変わらず、お節介なおじさん。
 
「そりゃあ、クリスタルシリーズだからな。かっこよくて当然だ」
「いくらですか?」リクシスさんは訊く。
「そうだな、メイル、ヘルム、リング、ソード、すべてセット価格で……」
 
 店主は手もとにある手帳と僕のことを交互に見比べながら総額を計算して、

「一億フバイだ」

 と、重い声で言った。
 僕はびっくりして叫んでしまう。
 
「いっ、一億ぅぅっ!」

 あまりにも桁違いの金額に僕は度肝を抜かれた。
 一億と言ったらオロトス村をサキュバスから救った報奨金と同じ額じゃないか。それを、まるっと僕の装備につぎこむなんて、リクシスさん、あなた何を考えているんですか?
 しかし、隣で笑うリクシスさんは、
 
「とりあえず、これください」

 そうクールに言い放った。
 まいどあり~、なんて快活に答える店主はつづけた。
 
「このまま装備していくかい?」

 え? と驚いた僕は即答できないまま立ち尽くしていた。
 嘘だろ……。
 僕はいま、一億フバイの価値がある装備をしているのか。そう思うと、なんだか本当に自分じゃないような気がしてきた。
 新しい自分。リクシスさんに相応しい友達……。
 透明感のあるクリスタルメイルは、僕の身体にしっかりとフィットしており、なかなか動きやすかった。小手であるクリスタルリングは、まるで鏡のようで、不思議そうに見つめる僕の顔を映しつつ、青く光り輝いている。
 
 僕はクリスタルシリーズの取説を読む。
 
 防具はあらゆる魔法攻撃を軽減する効果があるそうだ。
 一方、武器であるクリスタルソードはフバイ帝国で最強の名を誇り、その特殊効果も絶大な威力を持つ。硬い魔物であるデーモンや竜など、または同じクリスタル系の魔物に、より高いダメージを与えられる。
 その他の特徴としては、片手剣としては小振りなほうで、女性でも装備できると評判である。
 その見た目は、神秘的なブルーの輝きを宿す鋭い刃渡りをしており、現在、剣の気持ちを表現するなら、いまかいまかと戦闘の舞台に解き放たられるのを待ち望んでいるかのように思えた。
 
「はい、装備していきます。それと、ミスリルシリーズは買い取ってくれませんか?」

 リクシスさんの問いに、あいよ、と快活に答える店主はリクシスさんと商談を成立させた。その間に、僕はクリスタルソードを手にとり、グリップを強く握ってみる。
 
「フバイ帝国最強の武器か……僕に扱えるのだろうか……」

 精算を済ませたリクシスさんが歩いてきた。僕の不安げな心境を察してか、明るい声をかけてくれる。
 
「ラクトくん、大丈夫ですよ。武器や防具は装備していれば、いずれ慣れてきますから」
「……はい。でも、クリスタルシリーズって首都フバイで最強の装備品ですよね」
「そうですね、それがなにか?」
「いや、こんなに僕を強くしてどうするのかなって……」

 やれやれ、とリクシスさんは肩をすくめた。
 
「いいですかラクトくん。もう何度も議論したと思いますが、あえて言いますね」
「はい」
「ラクトくんは、私と“友達になる”という願いを唱えました」
「……はい」
「したがって、私の友達として相応しくなってもらなわいと困ります。いずれママやパパにラクトくんを紹介することになるかもしれませんし……」
「え? そうなんですか?」
「あたりまえです。私だってラクトくんのお母さんにご挨拶したじゃないですか」
「たしかに」
「なので、修行をします」

 リクシスさんは両手で拳を作り顔の横で、ぶんぶんと降って、がんばれってアピールしてくる。うっ、見た目の年齢は二十六歳の大人のお姉さんなのに、なんだこの可愛い仕草は、か、かわいい♡  思わず僕は訊き返した。
 
「あの、修行をしてどうするんですか?」
「はい。レベル99を超えてもらいますからそのおつもりで、うふふ」
「ハア? レベル99をぉぉ! いやいや、無理ですってリクシスさん」
「いいえ、ラクトくんならできます。私にまかせてください。ばっちり加護を与えますから」
「あの……クリシスさん、なんだか生き生きしてませんか?」
「だって、ラクトくんを育てるの楽しいんだもん♡」

 そうなのか? と僕は内心で疑問を抱いた。
 ふと、横を通りすぎた店主は、僕たちを交互に見据え、さりげなく言い放つ。
 
「あんたたちって本当にお似合いのカップルだな」
 
 かぁぁぁっ、とリクシスさんは顔を赤く染め、
 
「やだぁ! 付き合ってませんってばぁ」

 と叫び声をあげると僕の背中を、バシッと叩いた。なかなか強烈な一撃で、一瞬で僕は弾き飛ばされ、ズドンと壁に激突してしまう。
 
「イッテ~」

 倒れたまま僕はなげいた。
 棚にあった道具が床に落ちて散乱している。それを見ていた店主がリクシスさんに向かって尋ねた。
 
「……おいおい、最強の防御力を誇るクリスタルメイルをビンタしただけで衝撃を与えるなんて……姉ちゃん、いったい何者だ?」
「申し遅れました。私は火の女神リクシスです」

 その瞬間だった。

「わぁぁぁ! 女神様ぁぁぁ」

 と言い放つやいなや、店主のおじさんは額を床に擦りつけるようにして、「はは~」と土下座を始める。

「ありがたや~ありがたや~戦いの女神がおれの店に来てくれた~やったぜー! これで商売繁盛だっ!」
「あの……店主、頭をあげてください」

 すいません、と言った店主は立ち上がり、カウンターの奥から一枚の紙と筆を持ってきた。
 
「あの、サインを書いてくれませんか?」
「いいでしょう。お名前は?」
「店の名前は『帝都のお宝屋さん』です」
「わかりました」

 リクシスさんは、サラサラと筆を走らせた。色紙にはアステールの古代文字でリクシスさんの名前であるサインと、下のほうに現代文字で『帝都のお宝屋さんへ』と添えられている。女神様ってやっぱり偉大なんだな、と僕は改めて思った。
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