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   第二章  火の女神リクシスの加護

  26  十億の報償金

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「お疲れ様でした。こちらが報奨金の一億です」

 毎度おなじみ、ギルド館の受付嬢であるエウカさんは爽やかにそう言うと、ドサッ、と白い布袋をカウンターに置いた。さぞ重かったようで、ピンク色に染まる頬に流れる汗を手の甲でぬぐう。綺麗なお姉さんなのに、かなり腕力がありそうだ。昔、冒険者だったのだろうか。
 さっそく、リクシスさんは布袋の紐をといて中身を確認すると、満面の笑みを浮かべた。
  
「ピカピカ金貨ですよ~ラクトくん」
「は……はい、一億なんて夢みたいです……」

 うふふ、と笑うリクシスさんは、パチンと指を弾いた。
 一億の金貨が入った布袋は音もなく消え、異次元空間へと保管されたようだが、そのような不思議な魔法を目の前で見せつけられたエウカさんは、「うわぁぁ!」とびっくり仰天。もちろん、周りにいた冒険者たちも驚いて腰を抜かしている。目を丸くするエウカさんは、リクシスさんのことを指さして尋ねた。
 
「な、ななな、何者ですか? あなたは?」
「申し遅れました。私は火の女神リクシスです」
「ひひひひ、火の女神? うわぁぁ!」

 騒然とするギルド館。
 すると、カウンターの後ろから館長が現れた。見た目は筋骨隆々、腕や頬にある古傷が元冒険者だったことをうかがわせる。彼はギロリと僕のことをにらむと口を開いた。
 
「君がラクトくんか?」
「あ……はい、そうですが、なにか?」
「君の雇い主である勇者、グラディウスだが、さっき入ってきた騎士団からの情報によるとオロトス村で死亡が確認された。心当たり、あるよな?」

 はい、と僕はうなずいていたが、内心では、デカブツってそんなかっこいい名前だったのかと思った。隣にいるリクシスさんは、口もとを手で隠し、込みあげる笑いを抑えている。それを見た館長は泣いていると勘違いしたか、強面を崩して微笑みを浮かべた。
 
「まあ、災難だったな。他の仲間たちも全滅か。冒険をしている以上、こういう悲しい経験はつきものだろうが、ぜひ前を向いて歩いてくれ」

 こくり、と僕はうなずいた。
 だが内心では、特に悲しくない。
 隣にいたリクシスさんがついに、「ププッ」と笑った。
 ダメですってリクシスさん、自粛してください。
 しかし、自分の慰めの言葉でリクシスさんが微笑んだと勘違いした館長の話はつづく。それにしても、さっきからこの人は勘違いしてばかりだな……。
 
「だがラクトくん、君だけ生き残り、サキュバスを討伐したなんてすごいじゃないか! “いずれ賢者になる”と言う噂は本当だったんだな」

 あはは、と僕は薄ら笑いを浮かべながら、隣にいるリクシスさんをチラっと見つめた。すべて、彼女の加護のおかげなのだから。しかし、そんなことなど露ほどに知らないギルド館長は、ガハハと豪快に笑い、

「まあ、この調子でがんばってくれ。クエストをどんどん受付嬢から受注してくれよなっ」

 と言って、エウカさんの肩をぽんっと触れた。びくっと驚いたエウカさんが、「はい」と言って姿勢を正す。ギルド館って上下関係が厳しいのかもしれない。クスッと鼻で笑っていたリクシスさんが、唐突にエウカさんに尋ねる。
 
「さらに高額な報奨金がでるクエストはありませんか? 私たちもっと稼ぎたいのですが」
「あらあら……」

 エウカさんは、受付嬢らしい清々しい笑顔になると、クエストボードをめくる。その手さばきは高速で、膨大にある案件を頭のなかで網羅しているようだ。
 
「そうですね……たしか、さっき届いたばかりのクエストなのですが……」

 なんですか? と訊くリクシスさんがカウンターに身を乗りだす。僕は内心で、もっと稼ぐ必要なんてあるのかな? と思っていた。だってもう一億もあるのだから、当分は働かなくても遊んで暮らせる。その一方で、真剣な顔をしているエウカさんは、一枚のクエストボードをさらに読みこんでから説明を始めた。
 
「フルール王国の要地である西の砦が魔物に襲われた報告が入ってます。まだ、正式なクエストにはなっていませんが、推定される報奨金は……」

 僕たちは真顔になって耳を傾けた。館長や周りにいた冒険者も固唾を飲んでこちらを見つめている。みんなの視線が集まるなか、エウカさんのさっぱりした声が響く。
 
「十億フバイです」

 すると、ギルド館にいた全員が大きな声をあげた。

「「「「「「じゅうおくぅぅぅぅ!」」」」」」
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