いつか賢者になる僕は、追放された勇者パーティから溺愛をうけていた!?〜ごめん、女神様とパーティーを組んでるから戻れません〜

花野りら

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   第二章  火の女神リクシスの加護

  16  母への手紙

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 翌朝。
 赤く燃える太陽におはようと挨拶をする僕は、朝食を作っていた。るんるん、と鼻歌を鳴らしながら。

「ファイヤー」

 と、詠唱して熱したフライパンにベーコン三枚を焼く。そこに卵三つを落とす。火が通ったら、「ウォーター」と詠唱し、指さきに浮いた少量の水をフライパンに注ぎ蓋をして、しばし蒸す。
 そのあいだに、パンに塩とバターをつけ、また「ファイヤー」を唱えて焼く。飲み物は紅茶を淹れた。ダージリンの芳しい香りに誘われてか、

「おはようございます」

 と、リクシスさんが朝の挨拶をしながら起きて来た。ピンクのパジャマ。ボサッとした寝癖。寝ぼけ眼をこするその仕草がなんとも、か、かわいい……。
 
「あれ? お母さんまだ帰ってきてないんですね」
「うん、どこかに泊まったのかも。うちの母はいつもそうなんです」
「そっか……あっ! 今日はラクトくんが私のうちに泊まってくださいね」
「本当にいいんですか? 火の神殿ですよね」 
「いいですよ。昼間は参拝者がいますが、夜は私しかいませんから」

 へ~、と無関心に僕は答えたが、内心ではガッツポーズしていた。
 よっしゃ! 一人暮らしのお姉さんの家にお泊まりだ、ひゃっほう!
 思わず、にんまり笑みがこぼれる。ぐへへ。

「どうしました? ラクトくん」
「……あ、なんでもないです。母に手紙を書いておこう」

 僕はダイニングテーブルにあったメモ帳に筆をとった。

『リクシスさんの家に泊まります。あと、もし新しいパーティに就職できたらそのまま冒険の旅にでるかもしれません。それでは、いってきます。 ラクト』

 これでよしと。
 帰宅した母が手紙を読めば、心配することもないだろう。
 母のぶんの朝食も用意しておいてあげるか。
 すると、横から手紙を読んでいたリクシスさんが、「字が上手ですね」と褒めてくれた。僕は微笑みで返し、

「では、朝食にしましょう」

 と、言ってテーブルに料理を並べた。ベーコンエッグに焼いた塩バターパン。つけあわせにトマトサラダ。ティーポットには熱い紅茶が淹れてある。
 
「わっ、おいしそ~いただきます」
「いただきます」

 僕とリクシスさんはテーブルに向かい合って座り、食べ始めた。
 もぐもぐと咀嚼しているリクシスさんを見ていると、僕はなんだか、まるで、同棲しているような気分を味わえた。
 ああ。
 なんて幸せなのだろう。リクシスさんの美味しそうに食べる顔を見ているだけで、僕の心は嬉しみであふれた。もしも彼女ができて、結婚したらこんな感じなのかな? 僕は頭のなかで、ぽわわんとありえない妄想をした。ほんとにありえないことだが……。

「いい……リクシスさんと結婚か……いい」
「ラクトくん? 食べたらすぐ出発ですよ」

 え? と僕はリクシスさんの言葉で現実に戻された。
 あはは、いい夢見れたな……。
 僕は紅茶をすすって気持ちをリセットする。

 ぱぱっと朝食を済ませた僕とリクシスさんは家をでると、ギルド館に向かった。
 ここはフバイ帝国の首都。
 メインストリートの往来は朝が早いにも関わらず、人間やモフモフした亜種たちの往来は激しくて、リクシスさんは目をまわしていた。
 
「へ~、やっぱり都会はすごいですね、ラクトくん」
「そりゃあ、ここはフバイ帝国の首都ですからね。いろいろな民族であふれていますよ」
「うわぁ、あれを見てください。爬虫類系の亜種がいる。げっ! あっちに豚さんが歩いていますよ?」
「ああ、あれはトロルと呼ばれる魔物ですね」
「え? 魔物がいるのですか? やばっ……駆逐せねばっ!」
「いやいや、あの魔物は優しくて戦闘力がほぼありません」
「あ、そうなのですか……時代は変わりましたね」
「はい。悪いのは魔族の極一部であって、優しい魔物もいますから……」

 そうですか、と納得したリクシスさんはつづけた。
 
「で、ギルド館でなにをするんですか?」
「職探しです」
「ふぅん、ラクトくんは働いたら負けってタイプだと思っていましたけど、偉いですね」
「あたりまえです。母を楽にしてあげたいですから……」

 なるほど、と言ってリクシスさんは両手を組んで伸びをした。

「お母さん思いですね。優しいなぁ、ラクトくんは」
「母には女でひとつで僕を育ててくれたから恩返しがしたいんです」
「……でしたら、いっぱい稼ぐことですね」
「そうですね……でも、職があるかな……」

 僕は後頭部をかきながらギルド館に入っていった。
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