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第二章 火の女神リクシスの加護
13 リクシスの年齢は一万歳
しおりを挟むノエルさんの顔色が、ぱっと明るくなった。
「ラクトくん……戻ってきてくれるの?」
「はい。やっぱりノエルさんにはちゃんとした料理を食べて欲しいし、綺麗な服も着てもらいたいですから……」
と、僕が言った瞬間だった。
「なにかってに話しかけてるんだ? ラクト」
「っひ……あ、すいません」
「うちの僧侶ノエルに気安く話しかけるな……次、話しかけたら……」
カチャ、とアフロは剣を握った。
「切るぞ」
「わ、わわわ、わかりました」
ふん、とアフロは鼻で笑うと、まあいい、と吐き捨てた。
「火の女神の加護なんて、もはやどうでもいい。俺の力さえあれば魔族なんて蹴散らしてやるぜ」
あ、すいません、って感じでアーニャさんは火の女神に頭をさげた。
「あ、彼、こんなこと言ってますが強いので加護は必要ないと思います」
リクシスさんは、むすっとした表情でアフロをにらみ、
「絶対絶対ぜっ~たい、あんたには加護を与えないっ!」
「ああ、逆にいらないぜ。だいたい女に守ってもらうなんて気持ち悪いしな。マザコンかよ」
「ハア? あなた何様?」
「勇者様だが?」
そこで、アーニャさんがアフロの肩を叩いて、
「まあまあ」
と言ってなだめた。
横にいるミルクちゃんが、ぽつりとつぶやく。
「結論から申しますと、おばさんの加護はキモいとのことです」
ぷるぷると肩を震わすリクシスさん。
下を向いているが、その表情は鬼のようだった。こわ……。
「だれがおばさんかなぁ? 猫耳族のお嬢ちゃ~ん」
「あなたのことですが、なにか?」
ミルクちゃんはすっとリクシスさんを指さし、
「なぜなら、女神の年齢は推定一万年を超えてます。よって……おばさんなのです」
「猫耳……女神に喧嘩売るなんていい度胸していますねっ!」
「事実を言っているだけですが、なにか?」
うわぁ、熱いっ!
と思ったら、リクシスさんの背後が燃えていた。
本当に、メラメラと炎が踊っている。
あ、これはマズいと察した僕は、ぎゅっとリクシスさんの手を握り、
「では、失礼します」
と言って一礼しつつ、僕はリクシスさんの腕を引いて歩いた。
かなりイラついている様子のリクシスさん。
おばさん、というワードは禁句のようだ。もっとも、見た目はまったくおばさんではない。二十代中盤くらいに見える。あれ? 十五歳のミルクちゃんにとってはおばさんか? まあ、そんなことはどうでもいい。リクシスさんの瞳は赤く燃えたままだ。
ん?
ふと、振り向くと、ノエルさんの視線が痛いほど僕の背中に刺さっていた。
だが、僕は無視するしかなかった。
ごめんなさない、ノエルさん。
あなたに話しかけるとアフロに殺されそうなので、僕はこのまま帰ります。それでも、心のなかでは、ノエルさんのことを思ってます。言葉では伝えられないけど……。
さよなら、大好きだったノエルさん。
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