上 下
18 / 68
   第二章  火の女神リクシスの加護

  13  リクシスの年齢は一万歳

しおりを挟む
 
 ノエルさんの顔色が、ぱっと明るくなった。
 
「ラクトくん……戻ってきてくれるの?」
「はい。やっぱりノエルさんにはちゃんとした料理を食べて欲しいし、綺麗な服も着てもらいたいですから……」

 と、僕が言った瞬間だった。
 
「なにかってに話しかけてるんだ? ラクト」
「っひ……あ、すいません」
「うちの僧侶ノエルに気安く話しかけるな……次、話しかけたら……」

 カチャ、とアフロは剣を握った。

「切るぞ」
「わ、わわわ、わかりました」

 ふん、とアフロは鼻で笑うと、まあいい、と吐き捨てた。
 
「火の女神の加護なんて、もはやどうでもいい。俺の力さえあれば魔族なんて蹴散らしてやるぜ」

 あ、すいません、って感じでアーニャさんは火の女神に頭をさげた。
 
「あ、彼、こんなこと言ってますが強いので加護は必要ないと思います」

 リクシスさんは、むすっとした表情でアフロをにらみ、
 
「絶対絶対ぜっ~たい、あんたには加護を与えないっ!」
「ああ、逆にいらないぜ。だいたい女に守ってもらうなんて気持ち悪いしな。マザコンかよ」
「ハア? あなた何様?」
「勇者様だが?」

 そこで、アーニャさんがアフロの肩を叩いて、

「まあまあ」

 と言ってなだめた。
 横にいるミルクちゃんが、ぽつりとつぶやく。
 
「結論から申しますと、おばさんの加護はキモいとのことです」

 ぷるぷると肩を震わすリクシスさん。
 下を向いているが、その表情は鬼のようだった。こわ……。
 
「だれがおばさんかなぁ? 猫耳族のお嬢ちゃ~ん」
「あなたのことですが、なにか?」

 ミルクちゃんはすっとリクシスさんを指さし、
 
「なぜなら、女神の年齢は推定一万年を超えてます。よって……おばさんなのです」
「猫耳……女神に喧嘩売るなんていい度胸していますねっ!」
「事実を言っているだけですが、なにか?」

 うわぁ、熱いっ! 
 と思ったら、リクシスさんの背後が燃えていた。
 本当に、メラメラと炎が踊っている。
 あ、これはマズいと察した僕は、ぎゅっとリクシスさんの手を握り、
 
「では、失礼します」

 と言って一礼しつつ、僕はリクシスさんの腕を引いて歩いた。
 かなりイラついている様子のリクシスさん。
 おばさん、というワードは禁句のようだ。もっとも、見た目はまったくおばさんではない。二十代中盤くらいに見える。あれ? 十五歳のミルクちゃんにとってはおばさんか? まあ、そんなことはどうでもいい。リクシスさんの瞳は赤く燃えたままだ。
 ん?
 ふと、振り向くと、ノエルさんの視線が痛いほど僕の背中に刺さっていた。
 だが、僕は無視するしかなかった。
 ごめんなさない、ノエルさん。
 あなたに話しかけるとアフロに殺されそうなので、僕はこのまま帰ります。それでも、心のなかでは、ノエルさんのことを思ってます。言葉では伝えられないけど……。
 
 さよなら、大好きだったノエルさん。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...