いつか賢者になる僕は、追放された勇者パーティから溺愛をうけていた!?〜ごめん、女神様とパーティーを組んでるから戻れません〜

花野りら

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   第二章  火の女神リクシスの加護

  9   ミスリルシリーズを装備する

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「とりあえず、これくださ~いっ!」

 ドサッとリクシスさんは布袋をカウンターに置いた。
 中身は大量の金貨。十万フバイ。
 店主のおじさんは金貨の輝きを確かめつつ頬をゆるめ、
 
「まいどあり~」

 と、言って売買を成立させた。
 ここは帝国フバイの首都。灯された夜景が目に染みる。
 メインストリートにある商店街。往来する人間や亜種たちの喧騒。
 高級な武器や防具が店先に売りにだされていたのだが。
 今ならたいていの物は買えそうだ。
 結局、あれから僕たちは魔物を狩りまくった。
 大量殺戮たいりょうさつりくである。
 魔物と言えど、あんなにふうにずっと血を見ていると、だんだん感覚が麻痺してきて僕の頭のなかは殺戮することに順応していく。そしていつしか、“る”ことに快感さえ覚えていった。
 上級の火炎魔法で火だるまになって踊る魔物たちの暗澹あんたんたる光景。
 そのリアルすぎる現象に、初めは頭を悩ませたが、隣で笑うリクシスさんを見ていると、まぁ、いっか……どうせ魔物だし、というような、思い切った態度が取れるようになっていたのだ。それはまるで、“虫ケラを掃除するような”そんな血も涙もない薄情な感覚が、僕の手のなかに残っていた。魔物だって生きているのに……。

 強さとはなんだろう。
 本当の強さとは……。

「はい、二万フバイのおつりだよ」

 と、店主から受け取った金貨をリクシスさんは布袋に入れた。
 
「八万も使っちゃった。てっへへ」

 カウンターに並べられたのは、キラキラに輝く装備品。
 ミスリルシリーズだ。
 鉄よりも硬い物質で、中級の冒険者にとって頼りになる存在である。
 ミスリルヘルムにミスリルメイル、切れ味抜群のミスリルソード……。
 それと、青く光るクリスタルピアスも買っていた。
 僕はそのピアスを持って、リクシスさんの耳につけてあげる。
 リクシスさんはくすぐったそうに身をよじり、「あんっ」と甘い息を漏らす。

「……っあん、 んもう、耳は弱いんです。ゆっくりやってくださいよぉ」
「わ、わかりました……」
「でも、いいんですか? 私にプレゼントなんて」
「はい。リクシスさんがいなかったら、僕は死んでますから、あはは」

 ……。
 
 リクシスさんは急に黙って目を細めた。
 クリスタルピアスが透き通る美しさで輝くが、リクシスさんの美しさにはとうてい敵わない。彼女はこのアステールの大地に火の魔力をもたらす熱い情熱をもった女神様。いま、僕の目の前にいることは、奇跡的ゆえに幸運なことだ。しかも、この可愛いらしい笑顔である。最高かよ……生きててよかった。
 
「うふふ、ありがとっ、ラクトくん。どう? 似合うかな?」
「はい。似合ってます。可愛いです」
「てへへ~、ありがとう」
「いえいえ、これからもよろしくお願いしますね。リクシスさん」

 うん、とうなずいたリクシスさんは鏡を見つめていた。
 今の自分の姿を、いったいどのように思っているのだろうか。
 鏡よ鏡……このアステールの大地で一番美しいのは……だれ?
 と、鏡に質問しているみたいだ。
 そんなリクシスさんは、青く光るクリスタルピアスを指先で弾き、うふっと笑う。なんだか嬉しそうだ。釣られて僕まで頬がゆるむ。ふいに、僕のほう見つめるリクシスさんは訊いた。
 
「ねえ、友達だからこういうことするの?」

 え? 僕はリクシスさんの質問の意味がわからず、ただ呆然と彼女の美しさだけを確認していた。リクシスさんは髪をかきあげ、ピアスがよく見えるように紐でポニーテールにまとめ、
 
「こんな素敵なプレゼント、なんだか好きな人にするみたい……」

 と、ささやいた。
 僕を見つめるその赤銅色の瞳は、なにを求めているのだろうか。
 火の女神は人間のように笑うとつづけた。
 
「ねえ、ラクトくんもさっそく装備してください」
「ミスリルシリーズにですか?」
「うん、ラクトくんなら似合うよ」
「そうかな……」

 リクシスさんに「ほらほら」と強引に更衣室へと運ばれた僕。
 とりあえず、新しい装備に着替え、外にでた。
 
「おお! 孫にも衣装だね」

 僕は照れ笑いを浮かべた。
 いやあ、こういうカッコイイ系の装備には慣れていない。

「どうかな?」
「うん、かっこいいよ! シルバーの光沢が鮮やか。でも目立つ感じではありません。センスのいい刻まれた竜の紋章がイイ感じにアクセントになってます。うん、似合う似合う」

 リクシスさんは、ぱちぱちと手を叩いてにっこり笑う。
 すると、横から歩いてきた店主が、ほう、とつぶやくと顎に手をあて口を挟んだ。
 
「よかったな、少年っ! カノジョ、大喜びじゃないか」

 カノジョ? 僕は耳を疑った。
 そういうふうに見えるのか? 僕とリクシスさんのことが……。
 ミスリルシリーズを装備したとたん、周囲の反応が変わった。
 やはり、人は見た目で判断をする、ということか。
 店主は固まっている僕を見て、なんだこいつ、って感じに首をひねった。
 するとそのとき……。
 
「やだぁ、カノジョ、じゃないですよぉ~」

 と、リクシスさんが頬をバラ色に染めながら否定した。
 あ、そうなんだ、と店主は苦笑いを浮かべ、

「失礼しました~」

 と言って店の奥へと去っていく。
 リクシスさんは相変わらず、恥ずかしそうにもじもじしていたが、やがて真剣な表情になると口を開いた。

「よし、私きめました」
「……なんですか? 急に」
「君の願いが叶うように、私は全力で加護を与えます」
「え? 僕の願いはリクシスさんと友達になることですが……」
「はい。私に相応しい友達になれるよう、がんばりましょう、ラクトくん」

 ドキッとした。
 あれ? これって僕とリクシスさんの関係はまだ……。
 
 “友達じゃない!”
 
 にっこりと笑うリクシスさんは、僕のことをまだ友達だとは思っていないようだ。僕のほうはすでに、リクシスさんのことを友達だと思っていたのに。ああ、どうやら僕の願いはまだ叶っていない。
 それなら、僕はリクシスさんに相応しい友達になれるのだろうか。
 それとも、僕はリクシスさんと友達にならないほうがいいのだろうか。
 願いを唱えておいて、今更ながら、僕はわからなくなっていた。

 友達になるか、それとも……。
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