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   第二章  火の女神リクシスの加護

  6   火の女神リクシス降臨

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「幼女をよく助けてくれましたね。心から感謝します」

 さらり、突如現れた女性は風に揺れるブロンドの髪をかきあげる。その仕草がなんともセクシーで、僕の心は踊った。
 なんて綺麗なお姉さんだ!
 
「人間にしては勇気がありますね。君の名前は?」
「僕はラクトです」

 ラクト……いい名前、と彼女はつぶやき、感心した様子で目を細める。
 美しい。
 ああ、それにしても、彼女はいったい何者だ?
 
「あの、お姉さんは?」
「私は火の女神リクシス」

 火の女神? と、僕は訊き返した。
 
「はい、このアステールの大地で火の魔法が使えるのは私のおかげです」
「え? そうだったんですか……リクシスさんのおかげ……」
「そうです。わたしの お か げ うふふ」
「リクシスさんってすごいんですね」
「はい。でもまあ、ちょっとドジっちゃうこともあります……」
「どうしたんですか?」
「いやあ、さっきの火事ですが……実はあれは……」
「え? なんですか?」

 えっと……とつぶやきながら、もじもじする女神リクシスさん。

「大きな声では言えませんが……」

 僕は首を傾けた。
 大人のお姉さんなのに、なんだか可愛いんだけど……どうした?
 
「天界で花火をしていたら、誤って、ひとつ落っことしちゃったんです……てへへ」
「……てへへって、リクシスさん! なにしてるんですか? 危うく幼女を殺すところでしたよ」
「いやあ、ごめんなさい。でもよかったぁ、ラクトくんが幼女を助けてくれて」
「んもう、大変でしたよ~、僕も死にかけたんですから……」
「またまたぁ、謙遜しちゃってぇ」

 え? 僕は目を丸くした。
 リクシスさんは満面の笑みを浮かべている。
 
「ラクトくんが魔法で火を消してくれたんですよね~どうもありがとう」

 ん? 僕はきょとんとした。
 そんな記憶はない。
 勘違いしているようだが、火の女神は話しをつづける。
 
「水魔法と風魔法を混ぜたみたいですね。いやあ、あれはすごかったなぁ。まるで賢者様みたいですね~。おかげで、クレーネちゃんに貸しをつくらずによくなりました~。本当にありがとうございます。ラクトくん」
「あの……どういうことですか?」
「ああ、クレーネちゃんは水の女神。で、私の妹。だから、いざとなったらクレーネちゃんに水をぶっかけて消火してもらおうと思っていたのですが……」
 
 突然、ぎょっと目を剥いたリクシスさん。

「ああああ! クレーネちゃんが降臨しちゃってるぅぅ!」
「あの、リクシスさん。僕はなにもやってませんよ。そんな恐ろしい攻撃魔法は使えませんし」

 と、僕が反論したが、リクシスさんは聞く耳を持たない。

「うわぁ、なんで降臨しちゃったかな……」

 降臨? また女神様がくるのか?
 やがて、背後から可愛い女の子の声があがった。
 
「お姉ちゃん、呼びだしておいてなに? どこも火事ってないじゃないっ!」

 プリプリと怒るのは水の女神クレーネちゃん。
 群青のツインテール。瞳の色は海のようなマリンブルー。
 ピンクの水着姿だった。
 ぷるんとしたおっぱい。引き締まったウエストにある可愛いおへそ。意外と大きなヒップ……。うーん、可愛いを超えて尊い。

「クレーネちゃん……やっぱり降臨しなくていいってママに言っておいたけど、聞いてないの?」
「聞いてないわよ。ママ寝てたし」
「……えええ、ママぁ」
「っていうか、お姉ちゃん、また火事ったの?」
「……うう」
「あ~あ、これママに言ったら叱られるだろうなぁ、お姉ちゃんお尻ぺんぺんだよぉ」

 ぐっと眉根を寄せたリクシスさん。
 クレーネちゃんは、ひゅう、と口笛を吹いて後ろで手をくむ。
 
「まっ、ボクはいいけどねっこの話しは水に流してあげる~」
「ありがとう、さすが水の女神クレーネちゃん。流すのがうま~い」
「水だけにねっ……ってボクになにを言わすのっ!」

 え? まさかのボクッ娘ですか? 僕は耳を疑った。
 水の女神クレーネちゃん……すごく個性的。
 でも……と言ったクレーネちゃんが僕のほうを見つめてつづけた。
 
「この少年が誰かにしゃべっちゃうかもね……そしたら噂が広まってさ……うふふ、また今年の駄女神ランキングNo.1はお姉ちゃんで決まりだね~」

 やだぁぁぁぁ! と半ベソをかくリクシスさん。
 すると、クレーネちゃんはにっこり笑うと僕を指さした。
 
「この少年の願いを叶えてあげたら?」

 ふぇ……? 願い? 僕は耳を疑った。
 女神が僕の願いを叶えてくれると言うのだろうか?
 嘘だろ? マジ?
 
「なるほど、口止めとして願いを叶える……さすが妹よ、ナイスアイデア」
「どういたしまして」

 と、言ったクレーネちゃんは、ドボン! 川に飛びこんで……消えた。
 すご……。水の女神はクールだ。
 感心していた僕の横顔を見つめる火の女神は、ふわり、浮いていた足を地面に落とし、ゆっくりと僕のほうに近づいてくる。
 ドキッとした。
 甘い花の香りが漂う。
 火の女神は、完全にお姉さんフェロモンを解放していた。
 頭がくらくらするほどの妖艶たる芳香ほうこう
 やがて、顔をスレスレまで肉薄させ……。
 
 え? キスされる?
 
 かと思って、僕は身構えた。
 ファーストキスが女神とか……うわぁ、刺激が強すぎるっ。
 目を閉じていた僕だったが、「さあ」と女神の声が聞こえてきた。
 
「ひとつだけ願いを叶えよう」
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