上 下
10 / 68
   第二章  火の女神リクシスの加護

  5   幼女を助けるそして女神様と会う

しおりを挟む

「雨か?」

 ゴゴゴゴゴ、嵐のごとく雨脚が走る。
 すっと炎が消えていく。
 煙の色が黒から白に変わる。溶けるようにそっと。
 もう熱くない。
 ずぶ濡れになった僕は、ゆっくりと歩きだした。
 まるこげになった柱をさけながら、玄関をでる。
 外は……。
 嘘みたいにまぶしい青空が広がっていた。
 晴れているのに、雨が降っている!
 思わず、目を疑った。
 ガヤガヤと騒然とする都民たちのなかを僕は歩いた。
 人形のような幼女を抱きしめながら。
 誰も僕に近寄ろうとしない。
 黒い煤をかぶった僕のことを、誰もが驚いた目で見つめている。
 死んだな、と思われていたのだろう。当然のように、幼女も。
 ふと仰げば、上空からは相変わらず大粒の雨が降り注いでいた。
 蒼穹のなかに雨が降っている。嘘みたいに。
 白い雲が泳ぎ、虹がかかる。
 不思議なこともあるもんだ。おかげで助かったが。
 するとそこへ、ぞろぞろと騎士団と魔法使いの軍が到着した。
 
「遅い」

 と、民たちからやじられている。
 そんな騎士たちは、口々におかしな点をあげていた。
 
「なんだったんだあの嵐は?」
「だれか水魔法を使ったか?」

 首を振る魔法使いたちは、狐につままれたように口を開く。
 
「あれだけ大量の水を発生できるのは賢者ぐらいですよ」
「だな……アイスストームとトルネイドの重ね技だと思われる」
「ありえないほどの魔力だ……いったい誰が?」
「それな……」

 最後尾にいる髭を生やす一番偉そうな騎士が、
 
「犠牲者は?」

 と、母親に訊いてきた。
 おそらく、彼が騎士団長だろう。
 僕はゆっくりと近寄った。幼女を抱いた手は震えているが、筋肉が固まっていて逆に動かない。真っ黒になった僕の存在に気づいた騎士団長が驚いた目で見つめ、
 
「その子は?」
「うちの子です」

 母親が駆けだしていた。
 僕から幼女を奪い取るような形で抱きあげた。
 言葉のでない僕は、ただ立ち尽くすのみ。
 すると……。
 
「ううう……」
 
 幼女は瞬きをした。
 すぐに母親が声をかける。
 
「あ、生きてるっ! マリ! マリっ!」

 マリ、という名前だったのか。
 可愛いな。
 どうやら、幼女は気を失っただけだったようだ。よかった……。
 僕は、ほっと胸をなでおろした。
 すると、騎士団長が僕を見て、ビシッと敬礼。
 それに倣って、他の騎士たち魔法使いたちが敬礼。
 民の拍手は絶えることがなさそうだ。
 僕は後頭部をかく。こういうのには慣れていない。
 母親が深く頭をさげた。
 
「ありがとうございます……」

 いえ、と僕はぺこりと頭をさげ、ゆらゆらと歩きだした。
 微動だにしない敬礼。
 鳴り止まない拍手。それに、湧きあがる歓声。
 僕は苦笑いを浮かべながら、歩きだした。
 元気がでない。体力、精神力、そして魔力を極限までに消耗していた。歩くのがやっと、というような状態……もう、倒れそう。ふらふらで、向かった先は河原だった。
 
 道具袋に入れていた薬草はすべて焼け焦げた。
 すぐに身体の火傷を回復してやらないといけない。
 あいにく、僕の魔力は枯渇している。薬草に頼るしか方法はない。僕はふらふらと気を失いそうになるなか、膝を曲げ、はいつくばる。むしり、むしり、薬草を採取して、ねりつぶし、火傷した足に塗った。触れた瞬間、染みて、痛みが走った。だが、すぐに薬草が利いてくる。
 よし……なんとか、傷は癒えそうだ。
 やれやれ、と思い腰を下ろす。
 いや、腰が砕けたと言ったほうが正解かも。
 ふと、手を見ると真っ黒だ。
 はいつくばり、流れる川の水で手を洗う。そよそよと、冷たい感覚とともに、身も心も洗っていると、水面に人の影が映っていることに気づいた。
 ん、誰だ?
 と思って振り返ると、ひとりの女が立っているではないか。その女の姿を見た瞬間、ドキッと心臓が飛び跳ねた。
 ふつうの人間じゃなかったからだ。
 宙に浮いている。ふわふわと舞うように。赤銅色の瞳をこちらに向け、サラサラとした金髪が風に揺れている。
 
「女神様……」
 
 かな? と思いながら、僕は彼女を観察する。兜、胸甲、円盾、手には槍を装備しているが、軽装なので白い肌が露出している。僕に見られて、ちょっと恥ずかしかったのか、純白のマントをひるがえし、女らしい曲線を隠した。そんな彼女は、うふふっと笑うと口を開く。
 
「ありがとうございます」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...