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9.決着、そして

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「ピカリっちには悪いけど、ワガハイが君たちを倒しちゃうのにゃん!」
 ミケが走りながらペイント弾を構えている! 狙いはレーゲンくんのようだ!
「ごめんレーゲンくん!」
「うおおおおぉっ!?」
 私はレーゲンくんを足払いして転ばせた! 直後、さっきまでレーゲンくんの頭があった場所をペイント弾が通過していくのが見えた!
「仕留めたと思ったのに……。中々やるにゃん!」
「そっちこそ! 初めての割には良い動きだねっ!」
 良い動きを見せてくれたお礼をしなきゃ! 私はミケに銃口を向けて引き金を引いた!
 ――横にジャンプされて回避されちゃった! まずい、反撃が来る! 一か八か! スライディングして突っ込んでみよう!
「んにゃ?」
 パン、とペイント弾を撃った音が聞こえたけれど、私には当たらなかった! どうやら、ミケは頭を狙って撃つクセがあるみたい!
「隙ありっ!」
 スライディングしつつ、私は引き金を引いた!
 ……よし! 今度は当たったよ! ミケを仕留めた!
「ありゃりゃ。やられちゃったのにゃん。……でも、狙い通りにゃん」
 ミケがそう言った瞬間、私たちの頭上に何かが飛ぶのが見えた。
 まずい、急いで起き上がらなきゃ。そう思ったけど、間に合わなかった。私のお腹の辺りに、赤いペイント弾が弾ける。
「ふふっ。どう? すごいジャンプ力だったでしょう?」
 私のすぐそばにピカリちゃんが着地し、砂煙が舞った。
 ミケと戦い、隙だらけになった私をピカリちゃんが仕留める。多分、あらかじめそういう作戦を立てていたんだ! ミケと一緒にピカリちゃんが姿を現さなかったのはおかしいと思っていたんだよね!
 ……にしても、まさか上空から撃たれるなんて思わなかった。普通、あんなに高くジャンプすることはできないよ。やはり、BPの力は侮れない!
「あーあ。撃たれちゃったかー。元から強かったのに、BPでパワーアップさされたら手が付けられないよー」
「BPの素晴らしさが分かったようで何より。……でも、負けたのにあまりくやしそうじゃないのはなぜ?」
「んー、だって、ピカリちゃんは私の推しだし。推しと全力で戦って撃たれたのなら、悔いはないかなーって。それに……」
 そこまで言って、私は思わず笑ってしまった。だって……
「私たちはまだ負けていないよ?」
 ピカリちゃんは私を撃って勝利を確信したみたいだけど、それは大きな間違いだ。
「……おかしいにゃん。あの男の子の姿が見えないのにゃ」
「今頃気づいても遅いぜ」
 すぐそばから、レーゲンくんの声がした。直後、ピカリちゃんの背中に赤いペイント弾が直撃する。
「えっ?」
 ピカリちゃんは、何が起きたのか分からないといった表情を浮かべている。それもそうだよね。姿が見えない相手に撃たれたんだもん。
「ハハッ。見事に油断してやがったな。ペイント銃以外で攻撃するのはルール違反。だが、持ち込みのアイテムを使うのはダメなんてルールはねえよなあ? そっちだって、BPを使ってるしな」
 砂の模様が浮かぶ布を投げ捨てながら、レーゲンくんが姿を現した。
「何? どういうこと?」
 困惑するピカリちゃんに、レーゲンくんは得意げな表情を浮かべながらこう答える。
「俺特製の、周りの景色と同化できるアイテムを使ったのさ。いわゆる隠れ身の術みてえなもんだ」
 カメレオンクロス。お城の潜入調査をした時に使ったアイテムだね。レーゲンくんはそれをもう一枚持っていたのだ。
「ピカリちゃんは私に気を取られてレーゲンくんへの注意がおろそかになる。予想した通りだったね」
 ここに転移する前にレーゲンくんから聞いた良い考え。それは、ピカリちゃんたちが私に気を取られている内にレーゲンくんがカメレオンクロスで姿を隠し、隙を見てペイント銃で相手を撃つというものだった。
 つまり、私がレーゲンくんを転ばせたのも作戦の内……ってわけではなく、あれは完全にアドリブだったけどね。あの時点でミケにレーゲンくんが撃たれていたら負けていたのは私たちだっただろうなあ。
「そんな、BPがあれば負けないと思ったのに……」
「個人戦ならピカリちゃんが勝っていたかもね」
「チーム戦を選択したのが運の尽きだったな。俺とフラムのコンビは負け知らずなんだ」
 そう。私たちはエージェントとしての任務を失敗したことがない。レーゲンくんといっしょなら、どんな任務も成功させることができるんだ。
「……ねえ、ピカリちゃん。詳しく教えてよ。半年間もメタバースに隠れて留まっていた理由と、BPにこだわる理由を」
 メタバース内で一番になるために、ピカリちゃんはBPに手を出したと言った。でも、それだけが理由ではない気がする。ただの勘だけど。
「いいよ。全てを話す」
「ピカリっち。良いのにゃん?」
「あたしは敗者だもん。勝者の言葉には従わないと」
 私たちの体が赤い光に包まれる。
 ゲームが終わったから、フィールドの外に転移されるみたい。
 外に出たら、ピカリちゃんのお話を聞こう。

 §

 フィールドの外に転移した私たちは、コールマンスコップエリアの外れにある小さな小屋の中で話し合いをすることになった。
「ざっくり言うと、あたしは病気なの。全身の筋力が徐々に落ちる難病だって。だから半年間、BPをこまめに投与してメタバース内で問題なく動くためのトレーニングをしていたの」
 小屋に入ってすぐに、ピカリちゃんがそう語る。
「もしかして城の地下に沢山居た人たちも……」
「病気だったり怪我だったりで体を上手く動かせない人たちね。みんな、あたしと似たような境遇よ」
 メタバース内での身体能力は現実と同じ。つまり、現実で病気や怪我をして動きづらい人たちは、メタバースでも動きづらい状態になる。
「ワガハイはそんな人間のために何ができるか考えたのにゃん」
「そんで、BPに手を出したってわけか」
「その通りにゃん」
 ミケはミケなりに、困っている人間を助けようとしたみたい。それ自体は悪いことじゃないと思うけど……。
「困っているヤツを助けようとするのはいいが、BPを使ったらまた別の問題があるだろ。脳に負担がかかって、下手すりゃ死んだような状態になるんだから。いくら負担軽減を図ろうが、絶対の保証なんてねえし」
「にゃーん……」
 ミケのもふもふの耳がぺたりと垂れる。反省している様子だ。
「あたしは、少しでもメタバースで自由に過ごせるのなら、死んだっていいと思っている」
 ピカリちゃんがとても低い声でそう呟く。
 脳に負担がかかって死んでしまったとしても、BPを使いたいという意思が伝わってくる発言だ。
「……私はピカリちゃんに死んでほしくない」
「なんで? あなたとあたしは赤の……」
「他人なんかじゃない。ピカリちゃんは私に自信をくれた、最高の推しだよ。つまり、ピカリちゃんはアイドルで私はファン。ね? 他人じゃないでしょ?」
 一年間前、ペイントガンナーズで戦った後にピカリちゃんが褒めてくれたから、今の私が在るんだ。
「だから、推しのピカリちゃんにはこれからもずーっとメタライバーとして活躍してもらわないと困る! 死んじゃイヤだ!」
「そ、そんなことを言われても……」
「とにかく死ぬのはナシ! ナシったらナシ!!」
「あなた、ワガママすぎない……?」
 呆れたようにそう言ったピカリちゃんに、私は笑顔でこう返す。
「内気だった私を変えたのは、ピカリちゃんの言葉だよ。だから私をワガママにしたのはピカリちゃん!」
 ピカリちゃんは一瞬真顔になった後、少し微笑んだ。
「まったく。とんだファンを生み出しちゃったみたいだね。あたし。そんなことを言われたら……」
 長生きしてずっと活動したくなっちゃう。とても小さな声で、ピカリちゃんがそう呟いたのが聞こえた。

 ……しばらくの間、長い沈黙が辺りに漂う。
 その沈黙を破ったのは、ミケだった。
「……ワガハイは、これからどうしたらいいのにゃん?」
 心底困ったような声でそう呟いたミケに、レーゲンくんがこう答える。
「俺はしかるべき場所にお前らのことを報告する。そんで、罪を償ってもらう」
「レーゲンくん……」
「同情はするが、悪事に手を染めたヤツは許さねえ。それが俺たちの仕事だろ。フラム」
 エージェントは、メタバースの平和を守るために悪を許さない。だから、レーゲンくんの言うことは正しい。……正しいはずなのに、やるせないや。
「なら、ワガハイは処分されるかもしれないにゃ。悪事を働いたと判断されたメタロイドはそうなる運命のはず……」
「それは流石に罰が重すぎるし、そうならねえように俺が上司とかけ合う。それと……」
 レーゲンくんは背筋をピッと伸ばした後、こう言葉を続けた。
「俺はクリエイターだ。怪我や病気で苦しんでいるヤツがBPに頼らなくても、メタバース内で快適に動けるアイテムを開発してみせる。もちろん、脳に負担がかからないことを前提とした、安全なのを。時間はかかるかもしれねえが、必ず作る」
 レーゲンくんの目に、決意の光が宿っていた。それを見た私は、思わずドキリとする。
 元からかっこいいレーゲンくんが、よりかっこよく見えちゃった。
「レーゲンさん、だっけ。あなた、口は悪いけど意外と優しいんだ」
「でしょ! 優しくてかっこいい、私の自慢の相棒だよ!」
 ピカリちゃんの言葉に、私は全力で同意する。
「も、持ち上げても何も出ねえからな」
 レーゲンくんが顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。どうやら照れているみたい。かっこいいけど、かわいいなあ。
「フラムさんも、ありがとう。あたしを推しって言ってくれて、嬉しかった」
「どういたしまして」
 私は、ピカリちゃんに嬉しかったと言われて嬉しい。心から、そう思った。
「ミケ。罪を償った後は、俺の物作りに協力してもらうからな。覚悟しておけよ」
「分かったにゃん! ワガハイは今度こそ、人間が幸せに過ごせるように働くのにゃ!」
 ミケが耳をピンと立てて、そう宣言する。
「あたしも、考えてみる。BPがなくても、メタライバーとしてみんなを喜ばせる方法を」
「ファンとして楽しみにしているね! ピカリちゃん!」
「うん。期待に応えられるよう、頑張る」
 笑顔を浮かべるピカリちゃんに、私は右手を差し出した。するとピカリちゃんは大きく頷いた後、私の手を握り返してくれた。
 ああ。最高のファンサだなあ。推しと握手できて、今の私はとっても幸せ!
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