5 / 20
第1章 誕生日と入学式と行方不明事件
4.正体をあばけ
しおりを挟む
――ベラの走りは、おっとりとしたしゃべり方からは想像もできないほど、速かった。しかも、めっちゃ揺れる。下手すれば酔いそうだ。
気を紛らわせるため、オレはシロー先輩に話しかけてみることにした。
「えっと、シロー先輩……?」
「ん? 何や?」
「どうして、城に向かうんですか?」
今、ベラは城に向かって走っている。けど、どうしてあの城に向かう必要があるんだろう。
「そりゃ勿論、このラビリンスに囚われた人を助けにいくためや!」
「さっき二宮も言ってたけど、ラビリンスって何なんですか?」
「なんや。ニナちゃん、説明してなかったんか?」
「ライオンさんが襲い掛かってきたから、ゆっくりと説明する暇がなかったんですよ。お城に到着するまでちょっと時間がありそうなので、今の内にササッと説明しちゃいましょうか」
こほんと咳払いをした後、二宮はオレの顔を見て話し始めた。
「このラビリンスは、簡単に言うとフラスピの心の中の世界です」
「心の中の世界だって?」
「はい。フラスピの心の中には、ラビリンスという世界が存在します。普通なら、フラスピの心の中の世界であるラビリンスに人間が迷い込むことはありません。ですが、例外があります」
「例外?」
「ええ。まず、フラスピは人間の影響を受けやすい存在ということを覚えてください。人間の感情や、人間が考え出した花言葉。基本的に、あらゆるフラスピはそれらの影響を受けています」
フラスピは人間の影響を受けやすい、か。それが、ラビリンスに人間が迷い込むことと何の関係があるんだろう。
「でも、人間の感情や言葉って良いモノだけじゃないですよね? 喜びや楽しみといった正の感情もあれば、怒りや悲しみといった負の感情もあります。フラスピが正の感情の影響を受けるのは何の問題もないんですが、負の感情の影響を受けると暴走することがあるんですよ」
「暴走……。ひょっとして、あのライオンのカイブツがそれか?」
「カズキさんの想像通りです。あのライオンさんは人間の強い負の感情を受けて暴走しています。あんな風に負の感情を受けて暴走したフラスピを、私たちはバグスピリット――略して、『バグスピ』と呼んでいます」
何てこった。つまり、あのライオンのカイブツは、元々シバのような花の精霊だったってことか。それが人間の悪い影響を受けて暴走し、バグスピと呼ばれる存在になってしまっているのか。
「で、困ったことにバグスピは人間をラビリンスに迷い込ませるという習性があるんですよねー。人間が、自分の正体を教えてくれると思っているようなので」
「どういうことだ?」
そういえば、さっきあのライオン頭のカイブツはオレにこう問いかけてきた。「我は何者なのだ」と。
「バグスピになると、自分自身が何者か分からなくなってしまうんじゃよ」
オレの隣にちょこんと座ったシバが、腕組みをしながらそう言った。
「シバさんの言う通りです。バグスピは、自分自身が何のお花の精霊なのかが分からなくなっています。それでバグスピは人間をラビリンスに迷い込ませて、こう質問するんです。『自分は何者なんだ』と」
「迷惑な話だな」
「でも、元々は人間のせいじゃろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「はいはい。誰が悪いかなんて考えるだけムダなのでやめておきましょう。大切なのは、これからですよ」
そう言って、二宮は両手をぽんと叩いた。
「私たちは、持てる力と知恵をふり絞ってラビリンスを脱出しなければなりません。そして、脱出するための方法はシンプル。ラビリンスの主であるバグスピの正体を推理してあばくだけです」
「バグスピの正体を推理してあばくだって?」
「はい。バグスピの姿形や発言、ラビリンスの景色などから手がかりを集めて推理して、元々何のお花の精霊だったかをあばけばいいんです。そうすればバグスピは正気に戻って、私たちはラビリンスから弾き出されます」
手がかりを集めて推理。そして、正体をあばく。そうすればラビリンスから出られる、か。なんか難しそうだ。
「でも、脱出する前にやらないといかんことがあるんや」
シロー先輩がオレとシバの肩をぽんと叩いてそう言った。
脱出する前にしなければならないことって何だろう。
「ケージに閉じ込められた人間を助けることじゃろ?」
「シバくんの言う通りや! バグスピに捕まった人間はケージ――つまり、牢屋に閉じ込められてしまうんや。だから、まずはケージに囚われた人を探して、助け出さなければあかんのや」
「厄介なことに、ケージに囚われたままの人がいる状態でバグスピを正気に戻すと、ケージに囚われたままの人は一生ラビリンスに閉じ込められてしまうみたいなんですよ。だから、バグスピを正気に戻す前にケージに囚われた人を助け出さなければなりません」
なるほど。バグスピを正気に戻した後に囚われた人を助けることはできないのか。難しいな。
「ま、ざっくりまとめると、まずはケージに囚われた人を探して、助け出す。その後に、バグスピの正体をあばいてラビリンスから脱出するというのが基本的な流れや」
「けど、ケージに囚われた人を探して助け出す作業を行う間に、バグスピは妨害をしてきます。なので、それの対処もしないといけないんです。カズキさんとシバさんが」
「……は!?」
思わず、オレは変な声を出してしまった。バグスピの対応をオレとシバでしろだって? どうして、オレたちが?
「だって、私とシローさんの鳴力は荒事に向いてないんですもん」
「せや。ワイはベラの相棒やけど、ワイとベラの鳴力は『探知と移動』に特化してるんや。狂暴なバグスピに襲われたら手も足も出せへん」
今、オレたちが乗っているフラスピ――ベラはシロー先輩の相棒だったのか。何となく予想はしていたけど、シロー先輩も共鳴者ってやつだったんだな。そして、シロー先輩たちの鳴力は『探知と移動』か。背中に乗って目的地に向かうことができるのが『移動』なんだろうけど、『探知』ってどんな能力なんだろう?
「シローさんとベラさんは、ラビリンスに迷い込んだ人間の数や場所が分かるという鳴力を持っているんですよ。それが、探知です」
「……お前、オレの心でも読めるのか?」
「いえ、これはアイドルの勘です」
オレが疑問に思っていたことを、二宮はさらっと答えてくれた。一瞬、オレの心が読まれたのかと思ってびっくりしたぞ。もしかして、オレって考えていることが顔に出やすいタイプなのかな。
「ちなみに、私も共鳴者ですよ。鳴力は、『融解』です」
「ゆうかい? それって、人をさらうことか? お前、物騒な力を持ってるんだな……」
「誘拐じゃありません! 融解です! 何でも溶かすことができる能力です! そもそも、人をさらうアイドルなんて存在するわけないじゃないですか!」
「何でも溶かすアイドルもお前以外に存在しないんじゃないかな……?」
どっちにしても物騒な能力だ。
二宮が言うアイドルって、歌って踊るあのアイドルだよな? 歌って踊って、ついでに何でも溶かすアイドル。……想像したら、怖すぎるな。
「というか、何でも溶かす鳴力も荒事には向いてるんじゃないか?」
「そうでもないんですよ。邪魔な障害物を取り除いたりするのには便利ですが、バグスピ相手に使うわけにはいかないので。殺生はアイドル的にも人間的にもダメです」
「あー。まあ、生き物相手に使うのは確かにダメだな。……ん? ちょっと待てよ。お前も共鳴者ってことは、シバみたいなフラスピが近くにいるのか?」
「何じゃカズキ。気づいておらんかったのか? お前の近くにおるじゃろ?」
「え?」
シバが、オレのすぐ後ろを指さした。指さした方向を見ると、ベラのもこもこしたオレンジ色の毛皮に、紫色のもふもふした物体が混ざっていた。
手を伸ばして、つんつんとつついてみる。すると、紫色の物体は突然動き出した!
「うわあっ!?」
ベラの毛皮から飛び出してきたもの。それは、シバと同じくらいの大きさの紫色の狐だった!
現れた狐は、シバと同じように二足で立つことができるようだ。そして、神社の巫女さんが着るような白い服を着ていた。
「紹介します。この子はジギタリスのフラスピである『タリス』ちゃん。私の相棒です」
ジギタリス。ベルの形に似た花だ。この花も様々な色のものがあるが、特に紫のものをよく見る。
見た目はキレイなんだけど、毒があるんだよな。そのせいか、ジギタリスには『不誠実』というあまり良くない意味の花言葉がある。確か、信頼できないとか裏切るとかそういう意味が込められている言葉だ。
他には、『熱愛』って花言葉もあったような気がする。そっちは、まあ悪くない言葉だよな。熱愛したことなんてないからいまいちよく分からないけど。
「……ん。よろしく」
そう言って、ジギタリスのフラスピ――タリスは一度ペコリと頭を下げた後、またベラの毛皮の中に埋まっていった。
「ああ。恥ずかしがりやさんなんです。気にしないでください」
「そ、そうか。それなら仕方ないな」
オレがそう言うのと同時に、ベラはぴたりと止まった。話している内に、城にたどり着いたようだ。
……近くで見ると、でっかいなあ。お殿様が住んでてもおかしくないような見た目をしている。
「よし、到着や! さあ、ラビリンスの攻略を始めるで!」
そう叫び、シロー先輩はベラから飛び降りた。続いて、オレとシバ、二宮とタリスも飛び降りる。
全員が背中から飛び降りた瞬間、ベラの体は突然もくもくとした煙に包まれた!
「おわっ!? シロー先輩! 何が起こってるんですか!?」
「ああ、心配せんでもええで。変身を解くだけやから」
しばらくすると、煙が風に流されて消える。煙が消えた後、そこに現れたのは小さなぬいぐるみのようなサイズになったベラだった。
小さくなったベラを、シロー先輩は両手でひょいと抱え上げる。
「ワイらの鳴力で、このラビリンスの中でケージに閉じ込められた人間は一人だと判明しとる。そして、その人間がこの城の中に居るのも探知済みや」
「つまり、この城の中にあるケージに閉じ込められた人間を助けて、その後であのライオンのバグスピの正体を暴けばこのラビリンスから出られるってことですか?」
「カズキくんは頭がええなあ。えらい! その通りや!」
褒められた。オレが人から褒められることはめったにないから、嬉しい。
「少し休んで、体力は戻ったようですね」
「ああ。もう大丈夫。けど、さっきはどうして体に力が入らなかったんだろう?」
オレがさっき刀に変身したシバを振るった後、体がものすごくダルくなった。もしシロー先輩とベラが来なかったらオレはあのライオンのバグスピに捕まっていただろう。
「強力な鳴力は体力を削るんですよ。だから、体力を考えながら鳴力を使ってくださいね」
「体力を考えながら鳴力を使えと言われても……。そもそも、どうやって鳴力を使うのかもいまいちわからないし」
「大切なのは『いめーじ』じゃよ。どれ、ちょっくら『れっすん』をしてみるかのう。丁度、あいつが来たようじゃしの」
そう言って、シバはオレの右手をぎゅっと握った。次の瞬間、オレの体は炎に包まれ、気が付くと刀を握っていた!
どうやら、シバがまた変身をしたようだ。
「追いついたゾ! 人間!」
「げっ!」
嘘だろ! ライオンのバグスピがすぐ近くに居る! もう追いついてきたのか!?
気を紛らわせるため、オレはシロー先輩に話しかけてみることにした。
「えっと、シロー先輩……?」
「ん? 何や?」
「どうして、城に向かうんですか?」
今、ベラは城に向かって走っている。けど、どうしてあの城に向かう必要があるんだろう。
「そりゃ勿論、このラビリンスに囚われた人を助けにいくためや!」
「さっき二宮も言ってたけど、ラビリンスって何なんですか?」
「なんや。ニナちゃん、説明してなかったんか?」
「ライオンさんが襲い掛かってきたから、ゆっくりと説明する暇がなかったんですよ。お城に到着するまでちょっと時間がありそうなので、今の内にササッと説明しちゃいましょうか」
こほんと咳払いをした後、二宮はオレの顔を見て話し始めた。
「このラビリンスは、簡単に言うとフラスピの心の中の世界です」
「心の中の世界だって?」
「はい。フラスピの心の中には、ラビリンスという世界が存在します。普通なら、フラスピの心の中の世界であるラビリンスに人間が迷い込むことはありません。ですが、例外があります」
「例外?」
「ええ。まず、フラスピは人間の影響を受けやすい存在ということを覚えてください。人間の感情や、人間が考え出した花言葉。基本的に、あらゆるフラスピはそれらの影響を受けています」
フラスピは人間の影響を受けやすい、か。それが、ラビリンスに人間が迷い込むことと何の関係があるんだろう。
「でも、人間の感情や言葉って良いモノだけじゃないですよね? 喜びや楽しみといった正の感情もあれば、怒りや悲しみといった負の感情もあります。フラスピが正の感情の影響を受けるのは何の問題もないんですが、負の感情の影響を受けると暴走することがあるんですよ」
「暴走……。ひょっとして、あのライオンのカイブツがそれか?」
「カズキさんの想像通りです。あのライオンさんは人間の強い負の感情を受けて暴走しています。あんな風に負の感情を受けて暴走したフラスピを、私たちはバグスピリット――略して、『バグスピ』と呼んでいます」
何てこった。つまり、あのライオンのカイブツは、元々シバのような花の精霊だったってことか。それが人間の悪い影響を受けて暴走し、バグスピと呼ばれる存在になってしまっているのか。
「で、困ったことにバグスピは人間をラビリンスに迷い込ませるという習性があるんですよねー。人間が、自分の正体を教えてくれると思っているようなので」
「どういうことだ?」
そういえば、さっきあのライオン頭のカイブツはオレにこう問いかけてきた。「我は何者なのだ」と。
「バグスピになると、自分自身が何者か分からなくなってしまうんじゃよ」
オレの隣にちょこんと座ったシバが、腕組みをしながらそう言った。
「シバさんの言う通りです。バグスピは、自分自身が何のお花の精霊なのかが分からなくなっています。それでバグスピは人間をラビリンスに迷い込ませて、こう質問するんです。『自分は何者なんだ』と」
「迷惑な話だな」
「でも、元々は人間のせいじゃろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「はいはい。誰が悪いかなんて考えるだけムダなのでやめておきましょう。大切なのは、これからですよ」
そう言って、二宮は両手をぽんと叩いた。
「私たちは、持てる力と知恵をふり絞ってラビリンスを脱出しなければなりません。そして、脱出するための方法はシンプル。ラビリンスの主であるバグスピの正体を推理してあばくだけです」
「バグスピの正体を推理してあばくだって?」
「はい。バグスピの姿形や発言、ラビリンスの景色などから手がかりを集めて推理して、元々何のお花の精霊だったかをあばけばいいんです。そうすればバグスピは正気に戻って、私たちはラビリンスから弾き出されます」
手がかりを集めて推理。そして、正体をあばく。そうすればラビリンスから出られる、か。なんか難しそうだ。
「でも、脱出する前にやらないといかんことがあるんや」
シロー先輩がオレとシバの肩をぽんと叩いてそう言った。
脱出する前にしなければならないことって何だろう。
「ケージに閉じ込められた人間を助けることじゃろ?」
「シバくんの言う通りや! バグスピに捕まった人間はケージ――つまり、牢屋に閉じ込められてしまうんや。だから、まずはケージに囚われた人を探して、助け出さなければあかんのや」
「厄介なことに、ケージに囚われたままの人がいる状態でバグスピを正気に戻すと、ケージに囚われたままの人は一生ラビリンスに閉じ込められてしまうみたいなんですよ。だから、バグスピを正気に戻す前にケージに囚われた人を助け出さなければなりません」
なるほど。バグスピを正気に戻した後に囚われた人を助けることはできないのか。難しいな。
「ま、ざっくりまとめると、まずはケージに囚われた人を探して、助け出す。その後に、バグスピの正体をあばいてラビリンスから脱出するというのが基本的な流れや」
「けど、ケージに囚われた人を探して助け出す作業を行う間に、バグスピは妨害をしてきます。なので、それの対処もしないといけないんです。カズキさんとシバさんが」
「……は!?」
思わず、オレは変な声を出してしまった。バグスピの対応をオレとシバでしろだって? どうして、オレたちが?
「だって、私とシローさんの鳴力は荒事に向いてないんですもん」
「せや。ワイはベラの相棒やけど、ワイとベラの鳴力は『探知と移動』に特化してるんや。狂暴なバグスピに襲われたら手も足も出せへん」
今、オレたちが乗っているフラスピ――ベラはシロー先輩の相棒だったのか。何となく予想はしていたけど、シロー先輩も共鳴者ってやつだったんだな。そして、シロー先輩たちの鳴力は『探知と移動』か。背中に乗って目的地に向かうことができるのが『移動』なんだろうけど、『探知』ってどんな能力なんだろう?
「シローさんとベラさんは、ラビリンスに迷い込んだ人間の数や場所が分かるという鳴力を持っているんですよ。それが、探知です」
「……お前、オレの心でも読めるのか?」
「いえ、これはアイドルの勘です」
オレが疑問に思っていたことを、二宮はさらっと答えてくれた。一瞬、オレの心が読まれたのかと思ってびっくりしたぞ。もしかして、オレって考えていることが顔に出やすいタイプなのかな。
「ちなみに、私も共鳴者ですよ。鳴力は、『融解』です」
「ゆうかい? それって、人をさらうことか? お前、物騒な力を持ってるんだな……」
「誘拐じゃありません! 融解です! 何でも溶かすことができる能力です! そもそも、人をさらうアイドルなんて存在するわけないじゃないですか!」
「何でも溶かすアイドルもお前以外に存在しないんじゃないかな……?」
どっちにしても物騒な能力だ。
二宮が言うアイドルって、歌って踊るあのアイドルだよな? 歌って踊って、ついでに何でも溶かすアイドル。……想像したら、怖すぎるな。
「というか、何でも溶かす鳴力も荒事には向いてるんじゃないか?」
「そうでもないんですよ。邪魔な障害物を取り除いたりするのには便利ですが、バグスピ相手に使うわけにはいかないので。殺生はアイドル的にも人間的にもダメです」
「あー。まあ、生き物相手に使うのは確かにダメだな。……ん? ちょっと待てよ。お前も共鳴者ってことは、シバみたいなフラスピが近くにいるのか?」
「何じゃカズキ。気づいておらんかったのか? お前の近くにおるじゃろ?」
「え?」
シバが、オレのすぐ後ろを指さした。指さした方向を見ると、ベラのもこもこしたオレンジ色の毛皮に、紫色のもふもふした物体が混ざっていた。
手を伸ばして、つんつんとつついてみる。すると、紫色の物体は突然動き出した!
「うわあっ!?」
ベラの毛皮から飛び出してきたもの。それは、シバと同じくらいの大きさの紫色の狐だった!
現れた狐は、シバと同じように二足で立つことができるようだ。そして、神社の巫女さんが着るような白い服を着ていた。
「紹介します。この子はジギタリスのフラスピである『タリス』ちゃん。私の相棒です」
ジギタリス。ベルの形に似た花だ。この花も様々な色のものがあるが、特に紫のものをよく見る。
見た目はキレイなんだけど、毒があるんだよな。そのせいか、ジギタリスには『不誠実』というあまり良くない意味の花言葉がある。確か、信頼できないとか裏切るとかそういう意味が込められている言葉だ。
他には、『熱愛』って花言葉もあったような気がする。そっちは、まあ悪くない言葉だよな。熱愛したことなんてないからいまいちよく分からないけど。
「……ん。よろしく」
そう言って、ジギタリスのフラスピ――タリスは一度ペコリと頭を下げた後、またベラの毛皮の中に埋まっていった。
「ああ。恥ずかしがりやさんなんです。気にしないでください」
「そ、そうか。それなら仕方ないな」
オレがそう言うのと同時に、ベラはぴたりと止まった。話している内に、城にたどり着いたようだ。
……近くで見ると、でっかいなあ。お殿様が住んでてもおかしくないような見た目をしている。
「よし、到着や! さあ、ラビリンスの攻略を始めるで!」
そう叫び、シロー先輩はベラから飛び降りた。続いて、オレとシバ、二宮とタリスも飛び降りる。
全員が背中から飛び降りた瞬間、ベラの体は突然もくもくとした煙に包まれた!
「おわっ!? シロー先輩! 何が起こってるんですか!?」
「ああ、心配せんでもええで。変身を解くだけやから」
しばらくすると、煙が風に流されて消える。煙が消えた後、そこに現れたのは小さなぬいぐるみのようなサイズになったベラだった。
小さくなったベラを、シロー先輩は両手でひょいと抱え上げる。
「ワイらの鳴力で、このラビリンスの中でケージに閉じ込められた人間は一人だと判明しとる。そして、その人間がこの城の中に居るのも探知済みや」
「つまり、この城の中にあるケージに閉じ込められた人間を助けて、その後であのライオンのバグスピの正体を暴けばこのラビリンスから出られるってことですか?」
「カズキくんは頭がええなあ。えらい! その通りや!」
褒められた。オレが人から褒められることはめったにないから、嬉しい。
「少し休んで、体力は戻ったようですね」
「ああ。もう大丈夫。けど、さっきはどうして体に力が入らなかったんだろう?」
オレがさっき刀に変身したシバを振るった後、体がものすごくダルくなった。もしシロー先輩とベラが来なかったらオレはあのライオンのバグスピに捕まっていただろう。
「強力な鳴力は体力を削るんですよ。だから、体力を考えながら鳴力を使ってくださいね」
「体力を考えながら鳴力を使えと言われても……。そもそも、どうやって鳴力を使うのかもいまいちわからないし」
「大切なのは『いめーじ』じゃよ。どれ、ちょっくら『れっすん』をしてみるかのう。丁度、あいつが来たようじゃしの」
そう言って、シバはオレの右手をぎゅっと握った。次の瞬間、オレの体は炎に包まれ、気が付くと刀を握っていた!
どうやら、シバがまた変身をしたようだ。
「追いついたゾ! 人間!」
「げっ!」
嘘だろ! ライオンのバグスピがすぐ近くに居る! もう追いついてきたのか!?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

中の人なんてないさっ!
河津田 眞紀
児童書・童話
奈々瀬紗音(ななせしゃのん)は、春から中学二年になる十三歳の少女。
幼い頃から歌が大好きで、子ども向け番組の『歌のおねえさん』になるのが夢だった。
しかし、七歳の時に受けた番組オーディションで不合格になり、そのショックで夢と歌から目を背けるようになる。
そんな時、大好きだった子ども向け番組が終了することを知り、紗音は気づく。
時間は永遠じゃない。
どんなに楽しいことも、いつかは終わりを迎える。
だから、"今"を精一杯生きなければならないのだ、と。
そうして紗音は、もう一度夢に向き合い、新しく始まる子ども向け番組のオーディションを受けた。
結果は、合格。
晴れて東京の芸能事務所に所属することになった。
期待に胸を膨らませて臨んだ、番組の打ち合わせ。
そこで紗音は、プロデューサーから衝撃的な言葉を言い渡される。
それは……
「マスコットキャラクターの着ぐるみと中の人が、失踪……?!」
『中の人』を捜索する中で、紗音は不思議な空間に迷い込む。
そこで彼女の前に現れたのは……
異星人を名乗る『青い狼人間』と、『お喋りなうさぎ』と、『角の生えた女の子』だった。
本物だらけのマスコットたちと『歌』を通じて絆を深める、ドタバタスペースファンタジー!
放課後モンスタークラブ
まめつぶいちご
児童書・童話
タイトル変更しました!20230704
------
カクヨムの児童向け異世界転移ファンタジー応募企画用に書いた話です。
・12000文字以内
・長編に出来そうな種を持った短編
・わくわくする展開
というコンセプトでした。
こちらにも置いておきます。
評判が良ければ長編として続き書きたいです。
長編時のプロットはカクヨムのあらすじに書いてあります
---------
あらすじ
---------
「えええ?! 私! 兎の獣人になってるぅー!?」
ある日、柚乃は旧図書室へ消えていく先生の後を追って……気が付いたら異世界へ転移していた。
見たこともない光景に圧倒される柚乃。
しかし、よく見ると自分が兎の獣人になっていることに気付く。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる