5 / 25
第1章
4.三人寄れば
しおりを挟む
§
「さて、可哀想だけど目を覚ます前に退治しないとな……」
地面に倒れている蜂のモンスターの群れは気絶しているだけだ。少ししたらまた動き出すだろう。そうなる前に退治しないと。
「飛べ、炎よ! フォイアチェイス!」
火の塊の直撃を受けた蜂のようなモンスターは、黒い霧のようなものを出して、消滅した。
「消火を頼む。ヴォルフ」
「おう。降り注げ水よ! ヴァッサーフォール!」
森の樹々に火が燃え移らないように、ヴォルフが水の魔法で消火してくれた。火の始末はしっかりしないとな。
「これは……」
モンスターが消滅した後、地面には赤、青、緑、黄……、色とりどりの石が大量に落ちていた。キラキラと輝く宝石みたいで、とても綺麗だ。
「魔素結晶だね。大量大量」
少し休んですっかり元気を取り戻したナハトが、地面に落ちた魔素結晶を拾いあげていく。
「これを使えば、強力な魔法が使えるんだよな」
「上手く使えばね。でも、使い方を間違えたら爆発したりするらしいよ」
「こわっ!」
この魔素結晶があればオレにも強力な魔法が使えるかもしれないと思ったが、やめておこう。使い方が分からない状態で使用するのは危険そうだ。適当に使って、爆発したら嫌だし。使い方が分からないものを使って自爆するなんてマヌケすぎる。
「魔王様は、魔素結晶を沢山集めたら褒美をやるって言ってたけど、褒美って何だろうね。オシャレな服とかだったらいいなあ」
「オレ様はいつも魔王様が着ている鎧みたいなのが欲しいな」
ナハトとヴォルフは、目を輝かせて想像を始めた。
褒美、か。オレは魔王と一緒に暮らしているからよく知っているが、あいつはズレてるところがあるからなあ。まともな物じゃない気がする。
「……なんとなく、オレたちが普通に喜びそうな物はくれない予感がするな。あまり期待しない方がいいと思うぞ」
「勇者くんは夢がないなあ。そこは欲しい物を素直に言うべき場面でしょ」
「そうだ。空気を読みやがれ」
「えっ。なんか、ごめん」
空気を読めてないヤツ扱いされてしまった。人間関係って難しい。いや、二人は魔族だから人間関係って言葉は当てはまるのだろうか? まあ、そんなことはどうでもいいか。
「話は変わるけど、魔王は期限が正午までって言ってたよな? 今、何時だ?」
「ごめん。私、時計を持ってなくて」
「何だ? てめえら、腕時計も持ってねえのかよ。仕方ねえからオレ様が見せてやる。ありがたく思え」
上から目線なのが気になるが、今までのヴォルフだったら時計を持っててもオレたちには見せようとしなかっただろうから大きな進歩だ。
「まだ十時半くらいか。正午まで、あと一時間半もあるな」
「そっか。じゃあちょっと休憩してから、私たちでこのゲートを塞ごうか」
「ゲートを塞ぐ? どうすりゃいいんだ?」
ナハトの提案に、ヴォルフが首を傾げる。
確かに、モンスターによる被害を出さないためには、モンスターの住処であるゲートを塞ぐのが手っ取り早いだろう。でも、オレもゲートの塞ぎ方は知らない。知ってそうなナハトの説明を聞くしかないようだ。
「ゲートのヌシを倒せばいいんだよ」
「ゲートのヌシ?」
「うん。簡単に言うとモンスターの親玉だね。ゲートの中には必ずヌシがいて、それを倒せばゲートは閉じるようになってるらしいよ。あと、ヌシを倒せば魔素結晶がたくさん手に入るって本に書いてた気がする」
「それじゃ話は早えな。ゲートのヌシを倒して、ついでに魔素結晶もいただく。それで全部解決だ」
ゲートのヌシを倒せば、ゲートが閉じて、魔素結晶も手に入る。良いことづくめではある。
「でも、ヌシって言うくらいだから強いんだろ? 倒せるのかな」
「魔王様は言ってたでしょ? 私たちが倒せる程度のモンスターしかいないゲートに飛ばすって。つまり、頑張れば私たちでも倒せるはずだよ」
「何だ。びびってんのかよクオン?」
「びびってはいないけど……」
魔王の話を鵜呑みにして良いのかなという疑問は残るが、二人とも乗り気のようだし水を差す訳にもいかない。それに、危険なモンスターを放置するのはまずいよなあ。
「……分かった。頑張ってヌシを倒そう。オレたち三人でな」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
乗り気な二人に流されてしまった気もする。本当は、ちょっと不安だなあ。
けど、三人寄ればもんじゃ焼き……じゃなくて、文殊の知恵だ。ゲートのヌシがどんな強敵であっても、オレたちが力を合わせれば何とかなる。そう信じよう。
「それじゃ、戦いやすい場所でヌシを呼ばなきゃね」
「は? ヌシって呼べるもんなのか?」
ヴォルフの疑問はもっともだ。呼んで来るようなものなのか? ヌシって。
「モンスターは魔素を食べる。つまり、わざと魔法をたくさん使って魔素を充満させればおびき寄せられるってことだよ。まあ、ヌシ以外のモンスターもおびき寄せられるだろうから注意は必要だけどね」
「なるほど。じゃあ、最初の草原に戻らないか? あそこなら見晴らしが良いし、戦いやすいと思う」
「うん。私もそう思ってた」
ナハトもオレと同じ考えだったようだ。今オレたちがいる森の中は正直戦いにくい。いつ、どこからモンスターが飛び出してくるか分からないからだ。
草原なら、見晴らしが良いからモンスターが襲いかかってきてもすぐに対処しやすいはずだ。敵と戦う時には地形を活かすべし。昔読んだマンガに、そんなことが書かれていた気がする。今、それを実践する時だ。
「よーし。そうと決まればいくぞてめーら! 絶対にヌシをぶちのめすぞ!」
「さっきみたいに一人で突っ走るのはダメだからなヴォルフ」
「うっ、うるせーな。反省してるから、それはもう言うなよ」
「ふふっ。三人で、頑張ろうね」
オレ一人では無理なことも、きっと二人の力が合わさればできるようになる。何となく、そんな気がした。……よし、頑張るぞ!
「さて、可哀想だけど目を覚ます前に退治しないとな……」
地面に倒れている蜂のモンスターの群れは気絶しているだけだ。少ししたらまた動き出すだろう。そうなる前に退治しないと。
「飛べ、炎よ! フォイアチェイス!」
火の塊の直撃を受けた蜂のようなモンスターは、黒い霧のようなものを出して、消滅した。
「消火を頼む。ヴォルフ」
「おう。降り注げ水よ! ヴァッサーフォール!」
森の樹々に火が燃え移らないように、ヴォルフが水の魔法で消火してくれた。火の始末はしっかりしないとな。
「これは……」
モンスターが消滅した後、地面には赤、青、緑、黄……、色とりどりの石が大量に落ちていた。キラキラと輝く宝石みたいで、とても綺麗だ。
「魔素結晶だね。大量大量」
少し休んですっかり元気を取り戻したナハトが、地面に落ちた魔素結晶を拾いあげていく。
「これを使えば、強力な魔法が使えるんだよな」
「上手く使えばね。でも、使い方を間違えたら爆発したりするらしいよ」
「こわっ!」
この魔素結晶があればオレにも強力な魔法が使えるかもしれないと思ったが、やめておこう。使い方が分からない状態で使用するのは危険そうだ。適当に使って、爆発したら嫌だし。使い方が分からないものを使って自爆するなんてマヌケすぎる。
「魔王様は、魔素結晶を沢山集めたら褒美をやるって言ってたけど、褒美って何だろうね。オシャレな服とかだったらいいなあ」
「オレ様はいつも魔王様が着ている鎧みたいなのが欲しいな」
ナハトとヴォルフは、目を輝かせて想像を始めた。
褒美、か。オレは魔王と一緒に暮らしているからよく知っているが、あいつはズレてるところがあるからなあ。まともな物じゃない気がする。
「……なんとなく、オレたちが普通に喜びそうな物はくれない予感がするな。あまり期待しない方がいいと思うぞ」
「勇者くんは夢がないなあ。そこは欲しい物を素直に言うべき場面でしょ」
「そうだ。空気を読みやがれ」
「えっ。なんか、ごめん」
空気を読めてないヤツ扱いされてしまった。人間関係って難しい。いや、二人は魔族だから人間関係って言葉は当てはまるのだろうか? まあ、そんなことはどうでもいいか。
「話は変わるけど、魔王は期限が正午までって言ってたよな? 今、何時だ?」
「ごめん。私、時計を持ってなくて」
「何だ? てめえら、腕時計も持ってねえのかよ。仕方ねえからオレ様が見せてやる。ありがたく思え」
上から目線なのが気になるが、今までのヴォルフだったら時計を持っててもオレたちには見せようとしなかっただろうから大きな進歩だ。
「まだ十時半くらいか。正午まで、あと一時間半もあるな」
「そっか。じゃあちょっと休憩してから、私たちでこのゲートを塞ごうか」
「ゲートを塞ぐ? どうすりゃいいんだ?」
ナハトの提案に、ヴォルフが首を傾げる。
確かに、モンスターによる被害を出さないためには、モンスターの住処であるゲートを塞ぐのが手っ取り早いだろう。でも、オレもゲートの塞ぎ方は知らない。知ってそうなナハトの説明を聞くしかないようだ。
「ゲートのヌシを倒せばいいんだよ」
「ゲートのヌシ?」
「うん。簡単に言うとモンスターの親玉だね。ゲートの中には必ずヌシがいて、それを倒せばゲートは閉じるようになってるらしいよ。あと、ヌシを倒せば魔素結晶がたくさん手に入るって本に書いてた気がする」
「それじゃ話は早えな。ゲートのヌシを倒して、ついでに魔素結晶もいただく。それで全部解決だ」
ゲートのヌシを倒せば、ゲートが閉じて、魔素結晶も手に入る。良いことづくめではある。
「でも、ヌシって言うくらいだから強いんだろ? 倒せるのかな」
「魔王様は言ってたでしょ? 私たちが倒せる程度のモンスターしかいないゲートに飛ばすって。つまり、頑張れば私たちでも倒せるはずだよ」
「何だ。びびってんのかよクオン?」
「びびってはいないけど……」
魔王の話を鵜呑みにして良いのかなという疑問は残るが、二人とも乗り気のようだし水を差す訳にもいかない。それに、危険なモンスターを放置するのはまずいよなあ。
「……分かった。頑張ってヌシを倒そう。オレたち三人でな」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
乗り気な二人に流されてしまった気もする。本当は、ちょっと不安だなあ。
けど、三人寄ればもんじゃ焼き……じゃなくて、文殊の知恵だ。ゲートのヌシがどんな強敵であっても、オレたちが力を合わせれば何とかなる。そう信じよう。
「それじゃ、戦いやすい場所でヌシを呼ばなきゃね」
「は? ヌシって呼べるもんなのか?」
ヴォルフの疑問はもっともだ。呼んで来るようなものなのか? ヌシって。
「モンスターは魔素を食べる。つまり、わざと魔法をたくさん使って魔素を充満させればおびき寄せられるってことだよ。まあ、ヌシ以外のモンスターもおびき寄せられるだろうから注意は必要だけどね」
「なるほど。じゃあ、最初の草原に戻らないか? あそこなら見晴らしが良いし、戦いやすいと思う」
「うん。私もそう思ってた」
ナハトもオレと同じ考えだったようだ。今オレたちがいる森の中は正直戦いにくい。いつ、どこからモンスターが飛び出してくるか分からないからだ。
草原なら、見晴らしが良いからモンスターが襲いかかってきてもすぐに対処しやすいはずだ。敵と戦う時には地形を活かすべし。昔読んだマンガに、そんなことが書かれていた気がする。今、それを実践する時だ。
「よーし。そうと決まればいくぞてめーら! 絶対にヌシをぶちのめすぞ!」
「さっきみたいに一人で突っ走るのはダメだからなヴォルフ」
「うっ、うるせーな。反省してるから、それはもう言うなよ」
「ふふっ。三人で、頑張ろうね」
オレ一人では無理なことも、きっと二人の力が合わさればできるようになる。何となく、そんな気がした。……よし、頑張るぞ!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
フラワーウォーズ ~もふもふなパートナーとともにラビリンスから抜け出せ!~
神所いぶき
児童書・童話
自然が豊かな場所、花守市。そこでは、昔から度々行方不明事件が発生していた。だが、この花守市で行方不明になった人たちは、数日以内に無傷で戻ってくる。――行方不明になっている間の記憶を失った状態で。
花が好きという気持ちを抱えながら、それを隠して生きる少年『一色 カズキ』は、中学生になった日に花守市の行方不明事件に巻き込まれることになる。
見知らぬ場所に迷い込んだ後、突如現れたカイブツに襲われて絶体絶命の状態になった時、同級生である『二宮 ニナ』がカズキの前に現れてこう言った。「好きなものを認めてください」と。直後、カズキの体は炎に包まれる。そして、彼らの前にピンクの柴犬の姿をした花の精――『フラワースピリット』の『シバ』が現れた。
やがて、カズキは知る。いつの間にか迷い込んでしまった見知らぬ場所――『ラビリンス』から脱出するためには、学友、そしてフラワースピリットの力を借り、襲い掛かってくる『バグスピリット』の正体をあばくしかないと。
これは、行方不明事件の謎を追いながら、見失った『自分』を取り戻すために戦う少年たちの物語。
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
ターシャと落ちこぼれのお星さま
黒星★チーコ
児童書・童話
流れ星がなぜ落ちるのか知っていますか?
これはどこか遠くの、寒い国の流れ星のお話です。
※全4話。1話につき1~2枚の挿絵付きです。
※小説家になろうにも投稿しています。
月からの招待状
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。
🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。
●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG
●オチが分かってしまうような画像や説明はNG
●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。
声劇用台本も別にございます。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
キミと踏み出す、最初の一歩。
青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。
そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。
友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。
しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる