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第1章

4.三人寄れば

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 §

「さて、可哀想だけど目を覚ます前に退治しないとな……」
 地面に倒れている蜂のモンスターの群れは気絶しているだけだ。少ししたらまた動き出すだろう。そうなる前に退治しないと。
「飛べ、炎よ! フォイアチェイス!」
 火の塊の直撃を受けた蜂のようなモンスターは、黒い霧のようなものを出して、消滅した。
「消火を頼む。ヴォルフ」
「おう。降り注げ水よ! ヴァッサーフォール!」
 森の樹々に火が燃え移らないように、ヴォルフが水の魔法で消火してくれた。火の始末はしっかりしないとな。
「これは……」
 モンスターが消滅した後、地面には赤、青、緑、黄……、色とりどりの石が大量に落ちていた。キラキラと輝く宝石みたいで、とても綺麗だ。
「魔素結晶だね。大量大量」
 少し休んですっかり元気を取り戻したナハトが、地面に落ちた魔素結晶を拾いあげていく。
「これを使えば、強力な魔法が使えるんだよな」
「上手く使えばね。でも、使い方を間違えたら爆発したりするらしいよ」
「こわっ!」
 この魔素結晶があればオレにも強力な魔法が使えるかもしれないと思ったが、やめておこう。使い方が分からない状態で使用するのは危険そうだ。適当に使って、爆発したら嫌だし。使い方が分からないものを使って自爆するなんてマヌケすぎる。
「魔王様は、魔素結晶を沢山集めたら褒美をやるって言ってたけど、褒美って何だろうね。オシャレな服とかだったらいいなあ」
「オレ様はいつも魔王様が着ている鎧みたいなのが欲しいな」
 ナハトとヴォルフは、目を輝かせて想像を始めた。
 褒美、か。オレは魔王と一緒に暮らしているからよく知っているが、あいつはズレてるところがあるからなあ。まともな物じゃない気がする。
「……なんとなく、オレたちが普通に喜びそうな物はくれない予感がするな。あまり期待しない方がいいと思うぞ」
「勇者くんは夢がないなあ。そこは欲しい物を素直に言うべき場面でしょ」
「そうだ。空気を読みやがれ」
「えっ。なんか、ごめん」
 空気を読めてないヤツ扱いされてしまった。人間関係って難しい。いや、二人は魔族だから人間関係って言葉は当てはまるのだろうか? まあ、そんなことはどうでもいいか。
「話は変わるけど、魔王は期限が正午までって言ってたよな? 今、何時だ?」
「ごめん。私、時計を持ってなくて」
「何だ? てめえら、腕時計も持ってねえのかよ。仕方ねえからオレ様が見せてやる。ありがたく思え」
 上から目線なのが気になるが、今までのヴォルフだったら時計を持っててもオレたちには見せようとしなかっただろうから大きな進歩だ。
「まだ十時半くらいか。正午まで、あと一時間半もあるな」
「そっか。じゃあちょっと休憩してから、私たちでこのゲートを塞ごうか」
「ゲートを塞ぐ? どうすりゃいいんだ?」
 ナハトの提案に、ヴォルフが首を傾げる。
 確かに、モンスターによる被害を出さないためには、モンスターの住処であるゲートを塞ぐのが手っ取り早いだろう。でも、オレもゲートの塞ぎ方は知らない。知ってそうなナハトの説明を聞くしかないようだ。
「ゲートのヌシを倒せばいいんだよ」
「ゲートのヌシ?」
「うん。簡単に言うとモンスターの親玉だね。ゲートの中には必ずヌシがいて、それを倒せばゲートは閉じるようになってるらしいよ。あと、ヌシを倒せば魔素結晶がたくさん手に入るって本に書いてた気がする」
「それじゃ話は早えな。ゲートのヌシを倒して、ついでに魔素結晶もいただく。それで全部解決だ」
 ゲートのヌシを倒せば、ゲートが閉じて、魔素結晶も手に入る。良いことづくめではある。
「でも、ヌシって言うくらいだから強いんだろ? 倒せるのかな」
「魔王様は言ってたでしょ? 私たちが倒せる程度のモンスターしかいないゲートに飛ばすって。つまり、頑張れば私たちでも倒せるはずだよ」
「何だ。びびってんのかよクオン?」
「びびってはいないけど……」
 魔王の話を鵜呑みにして良いのかなという疑問は残るが、二人とも乗り気のようだし水を差す訳にもいかない。それに、危険なモンスターを放置するのはまずいよなあ。
「……分かった。頑張ってヌシを倒そう。オレたち三人でな」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
 乗り気な二人に流されてしまった気もする。本当は、ちょっと不安だなあ。
 けど、三人寄ればもんじゃ焼き……じゃなくて、文殊の知恵だ。ゲートのヌシがどんな強敵であっても、オレたちが力を合わせれば何とかなる。そう信じよう。
「それじゃ、戦いやすい場所でヌシを呼ばなきゃね」
「は? ヌシって呼べるもんなのか?」
 ヴォルフの疑問はもっともだ。呼んで来るようなものなのか? ヌシって。
「モンスターは魔素を食べる。つまり、わざと魔法をたくさん使って魔素を充満させればおびき寄せられるってことだよ。まあ、ヌシ以外のモンスターもおびき寄せられるだろうから注意は必要だけどね」
「なるほど。じゃあ、最初の草原に戻らないか? あそこなら見晴らしが良いし、戦いやすいと思う」
「うん。私もそう思ってた」
 ナハトもオレと同じ考えだったようだ。今オレたちがいる森の中は正直戦いにくい。いつ、どこからモンスターが飛び出してくるか分からないからだ。
 草原なら、見晴らしが良いからモンスターが襲いかかってきてもすぐに対処しやすいはずだ。敵と戦う時には地形を活かすべし。昔読んだマンガに、そんなことが書かれていた気がする。今、それを実践する時だ。
「よーし。そうと決まればいくぞてめーら! 絶対にヌシをぶちのめすぞ!」
「さっきみたいに一人で突っ走るのはダメだからなヴォルフ」
「うっ、うるせーな。反省してるから、それはもう言うなよ」
「ふふっ。三人で、頑張ろうね」
 オレ一人では無理なことも、きっと二人の力が合わさればできるようになる。何となく、そんな気がした。……よし、頑張るぞ!
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