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初仕事
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「今日の夕飯はまだだから、早速上でもらって来てくれるか?」
「…食堂で?」
「そう」
お父様に言われて、今度は正面から地下を出る事になった。
彼を見ると、なるべく早く持って行かないとな。
階段を上り、来た時と似たような鉄の扉を開いた。
似ていても、繋がる場所は違う。
エントランスの階段下の扉から地上に出た。
目の前にお母様や使用人達がいると思っていなくて固まった。
特別授業の部屋の閉ざされた錠前を外したんだ、いつもの血を抜くだけでは済まされない気がした。
何を言われるのか、今度は部屋に閉じ込められるのか分からなくて、後ろを振り返り地下に戻ろうと思っていたらお母様の声が聞こえた。
「貴方のお父様にはあったの?」
「は、はい…食事を運ぶように言われて」
「なら早く行きなさい」
お母様は深く聞く事なく、使用人達と一緒に行ってしまった。
地下に行きたいと行った時は無視をしていたのに、まるでこうなるのが分かっているかのようだ。
俺は急いで食堂に向かった。
食事をするんじゃなくて、運ぶから厨房を覗いた。
捕まっている人達の食事の時間だから、大勢の人達の分を作っていて忙しそうだ。
どれが彼のごはんか分からない、メニューも量も全て同じだ。
お腹いっぱいになるような量じゃない、これじゃあすぐにお腹が空いてしまう。
いつも運んでいるのか、メイドさんが数を確認していた。
「あの、お父様に言われて食事を運ぼうと思って」
「えっ、アル様!?な、何故ここに!?」
「お父様に言われて…」
驚かせてしまったようで、メイドさんは慌てていた。
お父様の事を言うと納得してくれた。
もう少し、食事の量を増やせないのか…健康な血がいいんじゃないのか?
皆助けるつもりだが、空腹のままだと逃げれるものは逃げられない。
せめてパンでも付ければいいのにと、棚の中に置いてあるバスケットを見つめる。
メイドさんは小さなワゴンに一人分の食事を乗せた。
食事を運ぶには、専用のエレベーターがあると教えてくれた。
俺はバスケットに手を伸ばすと、メイドさんは慌てた様子で肩を掴んできた。
「なっ、なな何をしているんですか!?アル様はお腹が空いているのですか!?」
「こんな少量じゃ、お腹が空いてしまうからせめてパンも…」
「だ、だめです!これは万全な品質を保つために必要な量なのです、多すぎてもいけません!」
「………」
物凄い形相で俺を見るメイドに恐怖を感じて、口を閉ざした。
そして、ワゴンの上に料理とは別のものが置かれた。
真っ白で丸い、なにかの錠剤のようだ。
メイドさんは効果を出すために、地下に入ってすぐにスープに混ぜてほしいと言っていた。
この錠剤も血に関する事か、ワゴンを引いて食堂を離れた。
すぐに錠剤をズボンのポケットに入れて、エントランスの階段下にある扉の前で足を止めた。
その横には四角いエレベーターらしきものが見えた。
大人だと、背中を丸めないと入れないほど低い。
俺ならギリ入れるけど、窮屈なのは変わらない。
ボタンを押すとすぐに扉が開き、ワゴンを押して中に入った。
階数のボタンはなく、地下に一直線で下りた。
扉が開き、ワゴンを押しながら捕まっている人達のところに向かった。
人が通る度に怯えた声が耳に響く。
俺に出来る事は、一刻も早く連れ出す事だけだ。
少年の前で足を止めたら、下を向いたまま俺の方をチラリとも見ない。
寝ているのかと思って、ワゴンから離れて鉄格子に触れる。
すると、少年がやっと俺の方を見ていた。
その顔は俺に向けてくれた優しい顔ではなく、疑いと疑問が混ざった顔だった。
「食事、出来る?」
「…君は、この家の人間だったんだな」
「黙っていてごめん…」
「不思議なものだな、この家の人間なら何故襲われていたんだ?狙っている相手を油断させるためか?」
「違う!」
地下に響く大きな声を出して否定した。
そんな事考えた事なんてない、知らなかったんだから。
どう証明すれば信じてくれるか分からないけど、俺は服の中に隠し持っていたパンの袋を取り出した。
さっきバスケットから取ってとっさに隠していた。
食事の薬は抜いたけど、もし不安ならこのパンを食べればいい。
いつも俺達やお母様だって食べるパンだ、薬が入っている筈はない。
でも、少年からしたら俺もお父様と似たような人間に見えるよな。
信用してもらうには、目の前で見せる必要がある。
「このパンでも食べて、じゃないと病気になる」
「…構わない、覚悟してる」
俺は丸いパンを半分にちぎった。
そして、少年にどちらを食べるか選ばせた。
選らばなかったパンを俺が食べる、そうして証明するしかない。
少年は驚いた顔をして、俺とパンを交互に見ていた。
どちらか選ばないと無理矢理口に入れるからなと脅すと顔を引きつった顔をしつつも選んでくれた。
元気な彼にパンを口に入れる事は難しいが、今ならいける!
ごめん、でもこうしないと彼は本当に死んでしまう。
料理のスープも怪しいから、水筒を持ってきた。
当然俺が先に飲んで毒味をした。
少年は選んだパンをジッと見つめていて、俺はそのまま鉄格子の横に座りパンを食べた。
料理も残すのはもったいないから食べよう。
もしなにか薬が入っていても、死ぬものではなさそうだから食べても大丈夫だ。
「もし、君の方のパンに変なものが入っていてもいいのか?」
「入ってないから大丈夫だよ、俺は研究室の人達と仲間じゃないから」
「…でも君はこの家の人間では?」
「ここで生まれただけで、こんなやり方納得してないよ…俺はここにいる人達を助けるためにここにいるんだから」
「……助ける?」
「それこそさっき君が言っていた油断をさせて牢屋の鍵を手に入れようと思っているんだ、油断させるのは身内だけど」
いつお父様達が聞いているか分からないから、小声で少年に話した。
信じてもらえなくても、俺がやる事は変わらない。
それまでに、彼には生きていてほしいと思っている。
少年は一口だけ、パンを食べてくれた。
「…食堂で?」
「そう」
お父様に言われて、今度は正面から地下を出る事になった。
彼を見ると、なるべく早く持って行かないとな。
階段を上り、来た時と似たような鉄の扉を開いた。
似ていても、繋がる場所は違う。
エントランスの階段下の扉から地上に出た。
目の前にお母様や使用人達がいると思っていなくて固まった。
特別授業の部屋の閉ざされた錠前を外したんだ、いつもの血を抜くだけでは済まされない気がした。
何を言われるのか、今度は部屋に閉じ込められるのか分からなくて、後ろを振り返り地下に戻ろうと思っていたらお母様の声が聞こえた。
「貴方のお父様にはあったの?」
「は、はい…食事を運ぶように言われて」
「なら早く行きなさい」
お母様は深く聞く事なく、使用人達と一緒に行ってしまった。
地下に行きたいと行った時は無視をしていたのに、まるでこうなるのが分かっているかのようだ。
俺は急いで食堂に向かった。
食事をするんじゃなくて、運ぶから厨房を覗いた。
捕まっている人達の食事の時間だから、大勢の人達の分を作っていて忙しそうだ。
どれが彼のごはんか分からない、メニューも量も全て同じだ。
お腹いっぱいになるような量じゃない、これじゃあすぐにお腹が空いてしまう。
いつも運んでいるのか、メイドさんが数を確認していた。
「あの、お父様に言われて食事を運ぼうと思って」
「えっ、アル様!?な、何故ここに!?」
「お父様に言われて…」
驚かせてしまったようで、メイドさんは慌てていた。
お父様の事を言うと納得してくれた。
もう少し、食事の量を増やせないのか…健康な血がいいんじゃないのか?
皆助けるつもりだが、空腹のままだと逃げれるものは逃げられない。
せめてパンでも付ければいいのにと、棚の中に置いてあるバスケットを見つめる。
メイドさんは小さなワゴンに一人分の食事を乗せた。
食事を運ぶには、専用のエレベーターがあると教えてくれた。
俺はバスケットに手を伸ばすと、メイドさんは慌てた様子で肩を掴んできた。
「なっ、なな何をしているんですか!?アル様はお腹が空いているのですか!?」
「こんな少量じゃ、お腹が空いてしまうからせめてパンも…」
「だ、だめです!これは万全な品質を保つために必要な量なのです、多すぎてもいけません!」
「………」
物凄い形相で俺を見るメイドに恐怖を感じて、口を閉ざした。
そして、ワゴンの上に料理とは別のものが置かれた。
真っ白で丸い、なにかの錠剤のようだ。
メイドさんは効果を出すために、地下に入ってすぐにスープに混ぜてほしいと言っていた。
この錠剤も血に関する事か、ワゴンを引いて食堂を離れた。
すぐに錠剤をズボンのポケットに入れて、エントランスの階段下にある扉の前で足を止めた。
その横には四角いエレベーターらしきものが見えた。
大人だと、背中を丸めないと入れないほど低い。
俺ならギリ入れるけど、窮屈なのは変わらない。
ボタンを押すとすぐに扉が開き、ワゴンを押して中に入った。
階数のボタンはなく、地下に一直線で下りた。
扉が開き、ワゴンを押しながら捕まっている人達のところに向かった。
人が通る度に怯えた声が耳に響く。
俺に出来る事は、一刻も早く連れ出す事だけだ。
少年の前で足を止めたら、下を向いたまま俺の方をチラリとも見ない。
寝ているのかと思って、ワゴンから離れて鉄格子に触れる。
すると、少年がやっと俺の方を見ていた。
その顔は俺に向けてくれた優しい顔ではなく、疑いと疑問が混ざった顔だった。
「食事、出来る?」
「…君は、この家の人間だったんだな」
「黙っていてごめん…」
「不思議なものだな、この家の人間なら何故襲われていたんだ?狙っている相手を油断させるためか?」
「違う!」
地下に響く大きな声を出して否定した。
そんな事考えた事なんてない、知らなかったんだから。
どう証明すれば信じてくれるか分からないけど、俺は服の中に隠し持っていたパンの袋を取り出した。
さっきバスケットから取ってとっさに隠していた。
食事の薬は抜いたけど、もし不安ならこのパンを食べればいい。
いつも俺達やお母様だって食べるパンだ、薬が入っている筈はない。
でも、少年からしたら俺もお父様と似たような人間に見えるよな。
信用してもらうには、目の前で見せる必要がある。
「このパンでも食べて、じゃないと病気になる」
「…構わない、覚悟してる」
俺は丸いパンを半分にちぎった。
そして、少年にどちらを食べるか選ばせた。
選らばなかったパンを俺が食べる、そうして証明するしかない。
少年は驚いた顔をして、俺とパンを交互に見ていた。
どちらか選ばないと無理矢理口に入れるからなと脅すと顔を引きつった顔をしつつも選んでくれた。
元気な彼にパンを口に入れる事は難しいが、今ならいける!
ごめん、でもこうしないと彼は本当に死んでしまう。
料理のスープも怪しいから、水筒を持ってきた。
当然俺が先に飲んで毒味をした。
少年は選んだパンをジッと見つめていて、俺はそのまま鉄格子の横に座りパンを食べた。
料理も残すのはもったいないから食べよう。
もしなにか薬が入っていても、死ぬものではなさそうだから食べても大丈夫だ。
「もし、君の方のパンに変なものが入っていてもいいのか?」
「入ってないから大丈夫だよ、俺は研究室の人達と仲間じゃないから」
「…でも君はこの家の人間では?」
「ここで生まれただけで、こんなやり方納得してないよ…俺はここにいる人達を助けるためにここにいるんだから」
「……助ける?」
「それこそさっき君が言っていた油断をさせて牢屋の鍵を手に入れようと思っているんだ、油断させるのは身内だけど」
いつお父様達が聞いているか分からないから、小声で少年に話した。
信じてもらえなくても、俺がやる事は変わらない。
それまでに、彼には生きていてほしいと思っている。
少年は一口だけ、パンを食べてくれた。
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