13 / 17
第2部『意識の魔道士』
第13話 大事な友達
しおりを挟む
「ただいまぁ。あ、ママ。お弁当箱は、後で必ず私が後片付けするから、そのままにしといて……」
私はダイニングキッチンに大きな包みを置くと、ロクに顔すら洗わず部屋のベッドへ飛び込んだ。
―――あれじゃまるで私、嫌な女の子みたいじゃない………。
だって仕方ないよ、風祭君と逢沢さんがそんなに深い仲だったなんて、知らなかったんだから。
今日のお昼。
やたらと長いトイレから風祭君が帰ってきた後、コートに出てきた逢沢さんの様子が一変した。
午前中、3つも試合に勝っているのに笑顔の一つどころか、どんどん暗い表情に変わっていったはずなのに、とても晴れやかな顔だった。
―――あれじゃまるで『女心と秋の空』だよ、全く………。
それからは決勝戦が終わるまで、ずっと笑顔でテニスを楽しみ、やり切る彼女がやたらと眩しく見えた。
試合に勝って全国大会行きの切符を手に入れた結果こそ同じだけれど、周りに与える印象が180度変わってしまった。
決勝戦こそ1セットだけ取られたけど、全然危なげなかったし、何よりもその眩しい誇らしさを風祭君一人に注ぎ続けているよう………少なくとも私にはそう見えた。
それを受け止める風祭君の方も、普段のお寝坊さんじゃなくて、あからさまに受け止める側の顔をしていた。
―――だから今日の私は余計なお世話。あの長い長いトイレで風祭君は、一体どんな魔法をかけたのやら………。
クラスメイトの勝利と、喜びを分かち合う友達を祝って上げられない………とても心の狭い自分に腐りそうな気分だよ……。
―――…NELNの通知? 疾斗君? 手の平返しが酷いと思うけど、ガバッと起き上がりスマホを手に取る。
『@HAYATO1013 今日はゴメン。ちょっと今から話せるかな? 出来れば通話で』
「えっ! あ、あ、えと……いや、何を慌てているの私。通話よ、通話。別にくしゃくしゃの髪を見られる訳じゃないんだから………『うん、大丈夫だよ』………と」
すぐに既読が付いた。どうしよう………。『今日はゴメン』? 謝んなきゃいけないのは私の方なのに……。
それにしたってNELNが苦手? 完璧なフォローじゃない!
「わ、わっわっ!」
風祭君から初めて来る通話のサインを聞いた途端、スマホを落としそうになった。
「あっ、か、風祭君っ!?」
「だ、大丈夫? 何か随分慌てているようだけど。無理ならまた掛け直すよ」
我ながら最低な電話の取り方、慌てふためく様子が声に滲み出てしまった。ビデオ通話じゃないのに相手に透けて見えたらしい。
「あ、い、良いの! だ、大丈夫。ちょっと眠くなっちゃって頭回んなくなってただけだから!」
「あ、あの量のお弁当を一人で作ったのだからそりゃあ眠いよね。ご苦労様」
取り合えず真っ赤な嘘で誤魔化してみる。今日の出来事がグルグル頭を巡っているのだから眠たくなってる訳がない。
でも気遣いの彼にたまたま救って貰えた。
―――お弁当………、そうだやっぱりその話題なんだ。
「いや、本当に昼間はゴメン。せっかく豪勢なお昼を……増してや手料理で用意してくれたのにロクに食べられなかった。それを謝ろうと思ってさ」
「い、良いの良いのっ! 本当に気にしないで! 少し作るのも沢山作るのも、大して手間は変わら……ない……か………ら」
これは嘘じゃない。
―――だけど私の聞きたい本音もその中にある………。そんな気持ちがどうにも隠せなくて声が途切れ途切れになってしまった。
「か、風祭君………。こっちこそごめんなさい、わ、私が逢沢さんの応援なんて………出しゃばりすぎたよね」
「え………あ、嗚呼………そうか、そうだね。寧ろそちらの話を先に謝るべきだよな………」
私の落着きがない移り変わり、大事なことを伝えてなかったことに気づいた風祭君のトーンが下がってゆくのがスマホ越しの私にも判る。
それから彼は、逢沢さんと自分の関係を正直に話してくれた。
子供の頃はとても仲が良かった大事な幼馴染。だけど中学、さらに高校へ進学したら、疎遠にならざるを得なかったこと。
そして逢沢さんの本音を実は知っていながら、受け止めようと向かい合わなかったことも………。
「僕は弘美の好意を受ける処か、蔑ろにしてた………」
「………」
「………でも、これからはちゃんと向き合おうって決めた。それをあの時、伝えたに過ぎないんだ」
やっぱり声量が小さい。だけど………何ていうんだろう、普段のはぐらかしてる感じじゃない。何ていうか男らしい潔さが確かにあった。
「そ、そう……だよね。私、知らなかったとはいえ、二人の間を邪魔してしまった………ね」
「いや、それは絶対に違います」
風祭君と逢沢さん………この二人に立ち入る隙間なんてなかった。
もう諦めなきゃ……そう思い込んでいた私を、唐突な敬語で力強く否定する。
―――首を横に振る彼の姿が見える気がした。
「え…………」
「はい、それは絶対に違います。そんなことで自分を責めたりしないでください」
「だ、だけど………」
―――これは一体なに? 彼の姿が見えるどころか、私の手を大きなその手で掴み上げてくれた感触すらある。
「………成り行きとはいえ、弘美の大切な舞台に誘ってくれました。お陰で僕は、再び彼女を大切な友達として受け止める機会を得ました。だからとても感謝しています」
とてもとても丁寧で穏やか口調………いや、だからこその強烈な説得力に押されてしまう。まるで私だけの執事のよう………。
―――んっ? 大切な………と・も・だ・ち?
思い掛けない風祭君の変貌ぶりに、決して聞き逃してはいけない本質を拾い忘れるところだった。
私はダイニングキッチンに大きな包みを置くと、ロクに顔すら洗わず部屋のベッドへ飛び込んだ。
―――あれじゃまるで私、嫌な女の子みたいじゃない………。
だって仕方ないよ、風祭君と逢沢さんがそんなに深い仲だったなんて、知らなかったんだから。
今日のお昼。
やたらと長いトイレから風祭君が帰ってきた後、コートに出てきた逢沢さんの様子が一変した。
午前中、3つも試合に勝っているのに笑顔の一つどころか、どんどん暗い表情に変わっていったはずなのに、とても晴れやかな顔だった。
―――あれじゃまるで『女心と秋の空』だよ、全く………。
それからは決勝戦が終わるまで、ずっと笑顔でテニスを楽しみ、やり切る彼女がやたらと眩しく見えた。
試合に勝って全国大会行きの切符を手に入れた結果こそ同じだけれど、周りに与える印象が180度変わってしまった。
決勝戦こそ1セットだけ取られたけど、全然危なげなかったし、何よりもその眩しい誇らしさを風祭君一人に注ぎ続けているよう………少なくとも私にはそう見えた。
それを受け止める風祭君の方も、普段のお寝坊さんじゃなくて、あからさまに受け止める側の顔をしていた。
―――だから今日の私は余計なお世話。あの長い長いトイレで風祭君は、一体どんな魔法をかけたのやら………。
クラスメイトの勝利と、喜びを分かち合う友達を祝って上げられない………とても心の狭い自分に腐りそうな気分だよ……。
―――…NELNの通知? 疾斗君? 手の平返しが酷いと思うけど、ガバッと起き上がりスマホを手に取る。
『@HAYATO1013 今日はゴメン。ちょっと今から話せるかな? 出来れば通話で』
「えっ! あ、あ、えと……いや、何を慌てているの私。通話よ、通話。別にくしゃくしゃの髪を見られる訳じゃないんだから………『うん、大丈夫だよ』………と」
すぐに既読が付いた。どうしよう………。『今日はゴメン』? 謝んなきゃいけないのは私の方なのに……。
それにしたってNELNが苦手? 完璧なフォローじゃない!
「わ、わっわっ!」
風祭君から初めて来る通話のサインを聞いた途端、スマホを落としそうになった。
「あっ、か、風祭君っ!?」
「だ、大丈夫? 何か随分慌てているようだけど。無理ならまた掛け直すよ」
我ながら最低な電話の取り方、慌てふためく様子が声に滲み出てしまった。ビデオ通話じゃないのに相手に透けて見えたらしい。
「あ、い、良いの! だ、大丈夫。ちょっと眠くなっちゃって頭回んなくなってただけだから!」
「あ、あの量のお弁当を一人で作ったのだからそりゃあ眠いよね。ご苦労様」
取り合えず真っ赤な嘘で誤魔化してみる。今日の出来事がグルグル頭を巡っているのだから眠たくなってる訳がない。
でも気遣いの彼にたまたま救って貰えた。
―――お弁当………、そうだやっぱりその話題なんだ。
「いや、本当に昼間はゴメン。せっかく豪勢なお昼を……増してや手料理で用意してくれたのにロクに食べられなかった。それを謝ろうと思ってさ」
「い、良いの良いのっ! 本当に気にしないで! 少し作るのも沢山作るのも、大して手間は変わら……ない……か………ら」
これは嘘じゃない。
―――だけど私の聞きたい本音もその中にある………。そんな気持ちがどうにも隠せなくて声が途切れ途切れになってしまった。
「か、風祭君………。こっちこそごめんなさい、わ、私が逢沢さんの応援なんて………出しゃばりすぎたよね」
「え………あ、嗚呼………そうか、そうだね。寧ろそちらの話を先に謝るべきだよな………」
私の落着きがない移り変わり、大事なことを伝えてなかったことに気づいた風祭君のトーンが下がってゆくのがスマホ越しの私にも判る。
それから彼は、逢沢さんと自分の関係を正直に話してくれた。
子供の頃はとても仲が良かった大事な幼馴染。だけど中学、さらに高校へ進学したら、疎遠にならざるを得なかったこと。
そして逢沢さんの本音を実は知っていながら、受け止めようと向かい合わなかったことも………。
「僕は弘美の好意を受ける処か、蔑ろにしてた………」
「………」
「………でも、これからはちゃんと向き合おうって決めた。それをあの時、伝えたに過ぎないんだ」
やっぱり声量が小さい。だけど………何ていうんだろう、普段のはぐらかしてる感じじゃない。何ていうか男らしい潔さが確かにあった。
「そ、そう……だよね。私、知らなかったとはいえ、二人の間を邪魔してしまった………ね」
「いや、それは絶対に違います」
風祭君と逢沢さん………この二人に立ち入る隙間なんてなかった。
もう諦めなきゃ……そう思い込んでいた私を、唐突な敬語で力強く否定する。
―――首を横に振る彼の姿が見える気がした。
「え…………」
「はい、それは絶対に違います。そんなことで自分を責めたりしないでください」
「だ、だけど………」
―――これは一体なに? 彼の姿が見えるどころか、私の手を大きなその手で掴み上げてくれた感触すらある。
「………成り行きとはいえ、弘美の大切な舞台に誘ってくれました。お陰で僕は、再び彼女を大切な友達として受け止める機会を得ました。だからとても感謝しています」
とてもとても丁寧で穏やか口調………いや、だからこその強烈な説得力に押されてしまう。まるで私だけの執事のよう………。
―――んっ? 大切な………と・も・だ・ち?
思い掛けない風祭君の変貌ぶりに、決して聞き逃してはいけない本質を拾い忘れるところだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる