神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第3章 傭兵と二人のハイエルフ

第24話 人ならざる者

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 ヴァイロの家。既にシアン一行は、隠れ家とやらに帰っていった。ただアギドとアズールの方は、何だかに落ちないといった感覚で、未だに帰らずダラダラしている。

 リンネがもう何杯目か分からない茶をれてやる。

「あ……」
「す、すまない……リンネ」
「全く……二人共一体どうしたって言うのさ?」

 カップを渡してから二人の前で腰に手を当てふんぞり返るリンネ。

「そんなにミリアの事が気になるのか?」

「うっ!? ゲホゲホッ!」

「そ、それはあんな行動を取られたら、気にならん方がどうかしている。大体リンネっ、お前は何故それほど落ち着いていられるのだ」

 二人共痛い処を突かれて、アズールはお茶をのどに詰まらせる。

 加えてアギドの質問は、リンネとミリアのそれぞれの恋愛感情がありながら、ヴァイロにミリアを追いかけさせたことだ。

「…………そ、それは……特に難しいことじゃない。ただあのまま今夜別れたら遺恨いこんが残ると思っただけだ」

 一瞬言葉を選んだリンネだが、開き直ってハッキリ応じる。そしてフンッと鼻息をあらげる。

「だってお前はヴァイロの事が好きで───ミリアもそうなんだろっ?」
「えっ、えっ!? そ、そうなのっ!?」

 もう歯に衣着せぬはにきぬきせぬ物言いのアギド。それを聞いたアズールは、全く知覚してなかった驚きを見せて、アギドとリンネの二人の顔を何度も往復させながら見る。

「そ……それはそれだっ! これからもっと力を合わせて戦わないといけないだろっ! そこに私達の恋愛沙汰ざたを当てはめるのは良くないっ!」

 少し顔を赤らめている割にそう言い切るリンネであった。

(そ、それに……あ、は少々やり過ぎたからな……にしてもまさか隠さず堂々としているとは思わなかったよ……あの馬鹿)

 まあ此方が彼女の本音と言った処か。元はと言えば自分が軽率けいそつだったのだ。だからと言って自分がミリアにあやまる理由はないと思っている。

 確かにタイミングは最悪だったが、悪い事をしたつもりは毛頭もうとうない。それに自分が頭を下げようものなら、余計に話がこじれるだけだ。

「み、み、ミリアの奴がヴァイを好きに………!?」

 アズールは一人だけ別のベクトルで頭を抱えている。これはこれで少々気の毒だ。

「………は、ハハッ……ハハハハッ!」

「な、何が可笑おかしいことがあるんだっ!」
「いや……スマンッ。流石俺達のリーダーだよ……全く、その通りだ」

 腹を抱えて笑うアギドを追及するリンネであったが、謝られたので鉾先ほこさきを引っ込めた。

「それにミリアは、まだ14なのにしっかりしている。きっと今頃は落とし処を見つけたことだろう……」
「フゥ……だと良いけど……」

「そういう事なら俺達は、もう自分の家に帰るべきだ。ほら、行くぞアズ」
「み、ミリア………」

 リンネの溜息ためいきを見たら落ち着いたのか、アギドは茫然ぼうぜんとしているアズールを、引きずるように退散たいさんした。

 ◇

 熱も冷めぬ翌日から皆、それぞれの行動を開始した。シアンとアギドは、カノン中を回って志願兵しがんへいを集め始めた。

 女子供の言う事……と馬鹿にするやからには自分達の力を存分に見せつけてやった。

 ミリア、アズールは新呪文の扱いにもっと慣れる様に、さらなる研鑽けんさんを続けた。

 リンネはとにかくもっとノヴァンと慣れ親しむことをヴァイロから言われた。

 別に特別な事をしろという訳ではなく、競走馬と騎手の間を近づける様に、出来るだけ多くの時間、共にいれば良いという話だった。

 ただ肝心のヴァイロが野暮用やぼようだと言って数日家を留守にした。
 彼は協力者の貴族の中でももっとも権力がありながら、胡散うさん臭い者と密会みっかいしていたのだ。

 バンデという男の館である。

 当主自ら建物の中を案内するのだが、ヴァイロは途中で人間の使用人よりも多いコボルトやホブゴブリンといった、いわゆる亜人種デミヒューマンとすれ違う。

 それも特に拘束こうそくされている様子もなく、人間達と同等に扱われているという状況を目の当たりにして驚愕きょうがくする。

 バンデ本人の部屋に辿り着くと、部屋の中で待っていたのは身長2m位ありそうなコボルトと鳥人間ハーピーであった。

 何れも軍服ぐんぷくの様な服装であり、それも位の高そうな装飾そうしょくすらほどこしてある。

 性別は……何とも判別しづらいのだが、恐らくコボルトの方は男。
 ハーピーの方は、身体のラインから察して女に相当すると思われた。

「貴方がヴァイロ様ですね……」
「どうぞそちらに……」

 二人共流暢りゅうちょう人語じんごを話してヴァイロを出迎えたのである。
 つい最近人語を使うドラゴンを現界げんかいさせた彼なのだが、これには完全に声を失った。

「ああ、驚かせて申し訳ございません。しかし良く考えてみて頂きたい。いわゆる亜人種と言えば人間よりも美しく知能も高いエルフか、鍛冶かじ能力が高いドワーフ辺りばかりが評価を受けます」

「…………」

「なれどこのコボルトでありながら人間よりも高い身長と身体能力を持つ『カネラン』。そして立派な翼を持ち、人と同じ手足も持っている『ルチエノ』………」

 バンデに紹介され、いずれも律儀りちぎに頭を下げるカネランとルチエノ。

「人間は見た目だけで相手を闇と断定する悪癖あくへきを持っていますが、実に勿体もったいない。私は彼等の能力に目を付けて、まず人語を学ばせてから人間の兵士と同様の教練きょうれんを受けさせました」

「ふむ………」

「結果この二人のみならず、ほとんどの者達が人間以上の大変優秀な兵となりました。当然です、元々人よりも優れているのですから」

 バンデの言葉に熱がこもっている。恐らく他の人間にこれほど興味を持って貰えることは、ほとん皆無かいむだったのであろう。

 次にヴァイロは、この部屋の中を見渡してみる。

「この部屋……いや、この館に入ってからもそうだが、実に清掃が行き届いている。家具や装飾品のセンスもいい。これも……」

「察しが宜しくて非常に助かります。そうです、我が館の使用人は今や人が二割、あとは全て亜人達です。人間はすぐに怠慢たいまんの仕方を覚えますが、彼等は何をやらせてもしっかりこなします」

 バンデが手を叩いて喜びをあらわにする。まるで自分の成果物せいかぶつの如く自慢気じまんげに話すのだが、同席しているカネランとルチエノも満足気だ。

 ヴァイロは腕を組んで少し考える間を置いた。シアンに訓練された兵士のアテがあると告げたのは他の誰でもない彼等である。

 しかしあのシアンが良い顔をする未来は、およそ想像出来ない。

「バンデさん、確か貴方は亜人の兵、およそ600は用意出来る。それも無償でと言っていたな?」

「はい、左様さようでございます。足りなければ魔力で動く石のゴーレム100体に、あの黒い竜の材料にもなったワイバーン……10体ほど御用意出来ます」

「ハッキリ言おう、話が美味過ぎるんだ。真の目的を聞かせて頂きたい」

 ヴァイロの刺す様な視線。それを真っ向からほくそ笑んで受けるバンデ。

至極しごく簡単なことでございます。私はこの戦争で、エルフやドワーフ以外……闇の住人と言われる彼等に人権を与えたいのです」

 椅子から立ち上がり、館の庭の手入れをしている使用人を見ながらバンデは告げた。
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