神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第3章 傭兵と二人のハイエルフ

第22話 二人のハイエルフ

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 一方、その話題の渦中かちゅうの人。レイシャ・グエディエルは観念かんねんして、エディウスがディオルにおける仮宿かりやどとして接収せっしゅうした町長の家に出頭しゅっとうしていた。

 彼女は修道騎士しゅうどうきしでこそあるが、あくまで一兵士いっぺいそつなので引率いんそつである総長が付きまとう。

「こ、このたびはレイシャがまことに勝手な真似まねを致しまして……」
「も、申し訳ございません……」

 総長は頭が高いとばかりにレイシャの頭を、もっと下げろと押さえつける。

 正直レイシャにしてみれば個人的な実力は、総長より上であるという自負じふがある為、これは実に屈辱くつじょくなのだ。

「フフフッ……まあ良い。決して遅れを取ったという話ではあるまいし。それにこちらの戦力を奴等めに見せつけたという意味では、むしろアリとも言えなくもない」

「え、エディウス様っ!」

「恐らく今頃さぞかしあわを喰っていることだろうよ……しかし黒い刃の正体が知られてしまったのは痛かったな」
「…………」

 一回フォローされてからの駄目だめ出しで大いに沈むレイシャ。しかし実の処エディウスはニヤニヤと楽しんでいる。

 エディウスとレイシャは、役職を超えた処での友情がある。なれど今はペコペコ頭を下げるしかないレイシャを見て、少し意地いじ悪くせっするのも一興いっきょうなのだ。

「しかしお前ほどの使い手が苦労するとは……シアンか。確か辺境へんきょうのエドルにその様な名前の者を聞いた事がある」

「お言葉ですがエディウス様。あの地域は取るにらぬ辺境の中の辺境。とてもその様な使い手がいようとは考えにくいかと」

「そうだな……もしエドルの使い手であれば、声を出さずとも指示が出来るというあやしい術を使うらしい。が、レイシャの報告を額面がくめん通りに受け取るのであれば、そんな怪しげはなさそうだな」

 エディウスは元町長の椅子に座りながら頬杖ほおづえをつき、少しだけ考えにふける。
 大した椅子いすではないのだが、エディウス自身の身体が小さいので、持て余してる感が強い。

(か…可愛いっ………)

 その光景にレイシャは、心の中で笑いをこらえるのに必死なのだ。

「念のため、下々しもじもに調べさせましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」

(だがもしその者が、あのエドルの出身であることを、隠しているのだとしたらそれはそれで興味深いな……)

 エディウスは誰にもさとられない様、顔に出さずそう勘ぐる。
 修道騎士総長とエディウスとのやり取りにて、この話はおとがめなしで終了した。

 ◇

「影が伸びた分、攻撃範囲も広がる剣か……。しかしそれならいっそ此方が影の中に入ってしまうか、そもそも新月の夜にでも仕掛ければ、勝ち確定ではないのですか?」

「私もそう考えたが、ならば影に沈んだ路地ろじに追い込む様な真似まねをするだろうか?」
「確かに………」

 アギドとシアンがレイシャの黒い刃の謎について話をしている。アギドは同じ二刀を振るう者として、その強さもあやうさも熟知じゅくちしているつもりだ。

 さらにヴァイロが連れてきた彼女の実力を最早もはやうたがってなどいない。

「ただ一人で行動していた……。たまたま一人だったのでしょうか」

「それは流石に勘働かんばたらきだが、恐らく兵を率いる立場ではないと踏んだ。アレはそういう手合いではないだろう」

 実に真剣な面持ちで敵の戦力を分析し合う二人。そして互いにだまり込んでしまう。

「まあとにかく1対1にならないことだ。そうすればシアンだろうが、アギドだろうが、遅れを取る事はあるまい」

 そんな二人の背中をポンっとたたきながら緊張をほぐす様、笑いかけるヴァイロ。

((そ、それは確かにそうなのだが………))

 それに対する二人の思いが結局の処、自信家であるのは少し微笑ましい。

「しかしいくら此方には黒い竜ノヴァンがいるとは言え、圧倒的戦力差は歴然れきぜんだな」

「なんだよっ? 俺達『黒き竜牙りゅうが』が雑魚ざこ相手に負けるって言うのかよっ?」
「その呼び名なんですけどアズ以外に使っている人いなくてよ」

 アギドがめずしく頭をかかえている処にアズールが立ち上がって反論する。

 それを冷たい視線で見下すミリア。黒き竜牙とはノヴァンが生れ落ちて以来、自分達の事を指す俗称ぞくしょうとして、アズールが勝手に決めたのである。

「そもそもそのノヴァンがアテになりそうにないから、俺達がやるんだって話なんだろうがっ!」
「そ、それは……」

 アズールがアギドの胸倉むなぐらつかみ吐き捨てる。彼とて決して楽観視らっかんしなどしてはいない。思わず目をそらし言葉を失うアギドである。

「待て……言ってなかったのは悪かったが、ノヴァンはこれから成長するんだ」

「なっ?」
「えっ?」
「そ、そうなんですか?」

 慌てて二人を引きがしにかかるヴァイロ。そして心配の種であるノヴァンのこれからについて語る。

「まだ不確定要素があるから詳細しょうさいは語れないが確実に強くなる。あの白いのが20頭総がかりでも決してかなわない位にはな」

「成程……しかし戦いは数だ。それも練度れんどの高い連中をそろえるのは急務きゅうむだ」

「………アテなら……ある……」

 次はこの中で恐らく一番戦い慣れているであろうシアンがもっともな指摘してきをする。それに対してヴァイロは苦しそうに絞《しぼ》り出す様な声で告げた。

(例の貴族の話か……。それにしたって一朝一夕いっちょういっせきでただの若者達を有能な兵士には出来まい)

 ヴァイロの言うアテというのは、この間の話ではないのかとシアンは思っている。

「なれどシアン様一人で一騎当千いっきとうせん
「そういう事、それに150歳の私達ハイエルフの兄妹二人も力を貸すよーっ」

「ひゃ、ひゃくごじゅうぅぅぅ!?」
「えっ? ええっ!?」
「なるほど、ただの耳長族エルフではないということか」

 ずっと黙っていたレイチとシアンが堂々と語りだす。その年齢を聞いて驚愕きょうがくの声を上げるアズールとは正反対にに落ちるアギド。

 彼はこの三人の盗賊とうぞくとしての手際てぎわの良さと、今回の偵察ていさつ任務の結果に驚いていたが、これはもう納得なっとくせざるを得ない。

 ハイエルフ……エルフでさえ絶対数の少ない種族なのだが、その中においてさらに超稀少ちょうきしょうなる存在。

 精霊を手足の様に使役しえきし、人間など足元にも及ばない知識を持つ種族。そして悠久ゆうきゅうを生きるのではないかと思える程に長寿である。

「ハイエルフだとは俺すら聞いていなかった。しかしいくらエルフと言えど50歳にもなれば大人の姿に成長を遂げるのではないのか?」

「人間はすぐそうやって見た現実だけで判断をします。目に映らないものに真実が隠蔽いんぺいされているのではないですか?」

 26歳になった立派な大人の男であるヴァイロが狼狽うろたえるを見て、10歳位にしか見えないレイチが落ち着き払った声で話す。

「な、成程……。まあ、とにかくこれで今夜の話は終わりだ。本来なら泊まっていくのをすすめる処だが……」

気遣きづかい無用だ。私達には、ありとあらゆる場所に隠れ家が在る」
「───わ、私もはしたくありませんので帰らせて頂きます」

 シアン等はそう言って落ち着いた態度を見せる。一方ミリアは逃げる様に扉を開いて出て行ってしまった。

「み、ミリア?」
「ヴァイっ! 今はミリアを追ってっ!」

「え……リンネ? し、しかし……」
「良いから早くっ!」

 ヴァイロにはリンネの真意しんいもミリアの行動理由も理解出来ないのだが、とにかく言われるがまま、後を追うことにした。
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