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第3章 傭兵と二人のハイエルフ
第22話 二人のハイエルフ
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一方、その話題の渦中の人。レイシャ・グエディエルは観念して、エディウスがディオルにおける仮宿として接収した町長の家に出頭していた。
彼女は修道騎士でこそあるが、あくまで一兵士なので引率である総長が付きまとう。
「こ、この度はレイシャが誠に勝手な真似を致しまして……」
「も、申し訳ございません……」
総長は頭が高いとばかりにレイシャの頭を、もっと下げろと押さえつける。
正直レイシャにしてみれば個人的な実力は、総長より上であるという自負がある為、これは実に屈辱なのだ。
「フフフッ……まあ良い。決して遅れを取ったという話ではあるまいし。それにこちらの戦力を奴等めに見せつけたという意味では、むしろアリとも言えなくもない」
「え、エディウス様っ!」
「恐らく今頃さぞかし泡を喰っていることだろうよ……しかし黒い刃の正体が知られてしまったのは痛かったな」
「…………」
一回フォローされてからの駄目出しで大いに沈むレイシャ。しかし実の処エディウスはニヤニヤと楽しんでいる。
エディウスとレイシャは、役職を超えた処での友情がある。なれど今はペコペコ頭を下げるしかないレイシャを見て、少し意地悪く接するのも一興なのだ。
「しかしお前ほどの使い手が苦労するとは……シアンか。確か辺境のエドルにその様な名前の者を聞いた事がある」
「お言葉ですがエディウス様。あの地域は取るに足らぬ辺境の中の辺境。とてもその様な使い手がいようとは考えにくいかと」
「そうだな……もしエドルの使い手であれば、声を出さずとも指示が出来るという怪しい術を使うらしい。が、レイシャの報告を額面通りに受け取るのであれば、そんな怪しげはなさそうだな」
エディウスは元町長の椅子に座りながら頬杖をつき、少しだけ考えにふける。
大した椅子ではないのだが、エディウス自身の身体が小さいので、持て余してる感が強い。
(か…可愛いっ………)
その光景にレイシャは、心の中で笑いを堪えるのに必死なのだ。
「念のため、下々に調べさせましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
(だがもしその者が、あのエドルの出身であることを、隠しているのだとしたらそれはそれで興味深いな……)
エディウスは誰にも悟られない様、顔に出さずそう勘ぐる。
修道騎士総長とエディウスとのやり取りにて、この話はお咎めなしで終了した。
◇
「影が伸びた分、攻撃範囲も広がる剣か……。しかしそれならいっそ此方が影の中に入ってしまうか、そもそも新月の夜にでも仕掛ければ、勝ち確定ではないのですか?」
「私もそう考えたが、ならば影に沈んだ路地に追い込む様な真似をするだろうか?」
「確かに………」
アギドとシアンがレイシャの黒い刃の謎について話をしている。アギドは同じ二刀を振るう者として、その強さも危うさも熟知しているつもりだ。
さらにヴァイロが連れてきた彼女の実力を最早疑ってなどいない。
「ただ一人で行動していた……。たまたま一人だったのでしょうか」
「それは流石に勘働きだが、恐らく兵を率いる立場ではないと踏んだ。アレはそういう手合いではないだろう」
実に真剣な面持ちで敵の戦力を分析し合う二人。そして互いに黙り込んでしまう。
「まあとにかく1対1にならないことだ。そうすればシアンだろうが、アギドだろうが、遅れを取る事はあるまい」
そんな二人の背中をポンっと叩きながら緊張を解す様、笑いかけるヴァイロ。
((そ、それは確かにそうなのだが………))
それに対する二人の思いが結局の処、自信家であるのは少し微笑ましい。
「しかしいくら此方には黒い竜がいるとは言え、圧倒的戦力差は歴然だな」
「なんだよっ? 俺達『黒き竜牙』が雑魚相手に負けるって言うのかよっ?」
「その呼び名なんですけどアズ以外に使っている人いなくてよ」
アギドが珍しく頭を抱えている処にアズールが立ち上がって反論する。
それを冷たい視線で見下すミリア。黒き竜牙とはノヴァンが生れ落ちて以来、自分達の事を指す俗称として、アズールが勝手に決めたのである。
「そもそもそのノヴァンがアテになりそうにないから、俺達がやるんだって話なんだろうがっ!」
「そ、それは……」
アズールがアギドの胸倉を掴み吐き捨てる。彼とて決して楽観視などしてはいない。思わず目をそらし言葉を失うアギドである。
「待て……言ってなかったのは悪かったが、ノヴァンはこれから成長するんだ」
「なっ?」
「えっ?」
「そ、そうなんですか?」
慌てて二人を引き剥がしにかかるヴァイロ。そして心配の種であるノヴァンのこれからについて語る。
「まだ不確定要素があるから詳細は語れないが確実に強くなる。あの白いのが20頭総がかりでも決して敵わない位にはな」
「成程……しかし戦いは数だ。それも練度の高い連中を揃えるのは急務だ」
「………アテなら……ある……」
次はこの中で恐らく一番戦い慣れているであろうシアンがもっともな指摘をする。それに対してヴァイロは苦しそうに絞《しぼ》り出す様な声で告げた。
(例の貴族の話か……。それにしたって一朝一夕でただの若者達を有能な兵士には出来まい)
ヴァイロの言うアテというのは、この間の話ではないのかとシアンは思っている。
「なれどシアン様一人で一騎当千」
「そういう事、それに150歳の私達ハイエルフの兄妹二人も力を貸すよーっ」
「ひゃ、ひゃくごじゅうぅぅぅ!?」
「えっ? ええっ!?」
「なるほど、ただの耳長族ではないということか」
ずっと黙っていたレイチとシアンが堂々と語りだす。その年齢を聞いて驚愕の声を上げるアズールとは正反対に腑に落ちるアギド。
彼はこの三人の盗賊としての手際の良さと、今回の偵察任務の結果に驚いていたが、これはもう納得せざるを得ない。
ハイエルフ……エルフでさえ絶対数の少ない種族なのだが、その中においてさらに超稀少なる存在。
精霊を手足の様に使役し、人間など足元にも及ばない知識を持つ種族。そして悠久を生きるのではないかと思える程に長寿である。
「ハイエルフだとは俺すら聞いていなかった。しかし幾らエルフと言えど50歳にもなれば大人の姿に成長を遂げるのではないのか?」
「人間はすぐそうやって見た現実だけで判断をします。目に映らないものに真実が隠蔽されているのではないですか?」
26歳になった立派な大人の男であるヴァイロが狼狽えるを見て、10歳位にしか見えないレイチが落ち着き払った声で話す。
「な、成程……。まあ、とにかくこれで今夜の話は終わりだ。本来なら泊まっていくのを勧める処だが……」
「気遣い無用だ。私達には、ありとあらゆる場所に隠れ家が在る」
「───わ、私も邪魔はしたくありませんので帰らせて頂きます」
シアン等はそう言って落ち着いた態度を見せる。一方ミリアは逃げる様に扉を開いて出て行ってしまった。
「み、ミリア?」
「ヴァイっ! 今はミリアを追ってっ!」
「え……リンネ? し、しかし……」
「良いから早くっ!」
ヴァイロにはリンネの真意もミリアの行動理由も理解出来ないのだが、とにかく言われるがまま、後を追うことにした。
彼女は修道騎士でこそあるが、あくまで一兵士なので引率である総長が付きまとう。
「こ、この度はレイシャが誠に勝手な真似を致しまして……」
「も、申し訳ございません……」
総長は頭が高いとばかりにレイシャの頭を、もっと下げろと押さえつける。
正直レイシャにしてみれば個人的な実力は、総長より上であるという自負がある為、これは実に屈辱なのだ。
「フフフッ……まあ良い。決して遅れを取ったという話ではあるまいし。それにこちらの戦力を奴等めに見せつけたという意味では、むしろアリとも言えなくもない」
「え、エディウス様っ!」
「恐らく今頃さぞかし泡を喰っていることだろうよ……しかし黒い刃の正体が知られてしまったのは痛かったな」
「…………」
一回フォローされてからの駄目出しで大いに沈むレイシャ。しかし実の処エディウスはニヤニヤと楽しんでいる。
エディウスとレイシャは、役職を超えた処での友情がある。なれど今はペコペコ頭を下げるしかないレイシャを見て、少し意地悪く接するのも一興なのだ。
「しかしお前ほどの使い手が苦労するとは……シアンか。確か辺境のエドルにその様な名前の者を聞いた事がある」
「お言葉ですがエディウス様。あの地域は取るに足らぬ辺境の中の辺境。とてもその様な使い手がいようとは考えにくいかと」
「そうだな……もしエドルの使い手であれば、声を出さずとも指示が出来るという怪しい術を使うらしい。が、レイシャの報告を額面通りに受け取るのであれば、そんな怪しげはなさそうだな」
エディウスは元町長の椅子に座りながら頬杖をつき、少しだけ考えにふける。
大した椅子ではないのだが、エディウス自身の身体が小さいので、持て余してる感が強い。
(か…可愛いっ………)
その光景にレイシャは、心の中で笑いを堪えるのに必死なのだ。
「念のため、下々に調べさせましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
(だがもしその者が、あのエドルの出身であることを、隠しているのだとしたらそれはそれで興味深いな……)
エディウスは誰にも悟られない様、顔に出さずそう勘ぐる。
修道騎士総長とエディウスとのやり取りにて、この話はお咎めなしで終了した。
◇
「影が伸びた分、攻撃範囲も広がる剣か……。しかしそれならいっそ此方が影の中に入ってしまうか、そもそも新月の夜にでも仕掛ければ、勝ち確定ではないのですか?」
「私もそう考えたが、ならば影に沈んだ路地に追い込む様な真似をするだろうか?」
「確かに………」
アギドとシアンがレイシャの黒い刃の謎について話をしている。アギドは同じ二刀を振るう者として、その強さも危うさも熟知しているつもりだ。
さらにヴァイロが連れてきた彼女の実力を最早疑ってなどいない。
「ただ一人で行動していた……。たまたま一人だったのでしょうか」
「それは流石に勘働きだが、恐らく兵を率いる立場ではないと踏んだ。アレはそういう手合いではないだろう」
実に真剣な面持ちで敵の戦力を分析し合う二人。そして互いに黙り込んでしまう。
「まあとにかく1対1にならないことだ。そうすればシアンだろうが、アギドだろうが、遅れを取る事はあるまい」
そんな二人の背中をポンっと叩きながら緊張を解す様、笑いかけるヴァイロ。
((そ、それは確かにそうなのだが………))
それに対する二人の思いが結局の処、自信家であるのは少し微笑ましい。
「しかしいくら此方には黒い竜がいるとは言え、圧倒的戦力差は歴然だな」
「なんだよっ? 俺達『黒き竜牙』が雑魚相手に負けるって言うのかよっ?」
「その呼び名なんですけどアズ以外に使っている人いなくてよ」
アギドが珍しく頭を抱えている処にアズールが立ち上がって反論する。
それを冷たい視線で見下すミリア。黒き竜牙とはノヴァンが生れ落ちて以来、自分達の事を指す俗称として、アズールが勝手に決めたのである。
「そもそもそのノヴァンがアテになりそうにないから、俺達がやるんだって話なんだろうがっ!」
「そ、それは……」
アズールがアギドの胸倉を掴み吐き捨てる。彼とて決して楽観視などしてはいない。思わず目をそらし言葉を失うアギドである。
「待て……言ってなかったのは悪かったが、ノヴァンはこれから成長するんだ」
「なっ?」
「えっ?」
「そ、そうなんですか?」
慌てて二人を引き剥がしにかかるヴァイロ。そして心配の種であるノヴァンのこれからについて語る。
「まだ不確定要素があるから詳細は語れないが確実に強くなる。あの白いのが20頭総がかりでも決して敵わない位にはな」
「成程……しかし戦いは数だ。それも練度の高い連中を揃えるのは急務だ」
「………アテなら……ある……」
次はこの中で恐らく一番戦い慣れているであろうシアンがもっともな指摘をする。それに対してヴァイロは苦しそうに絞《しぼ》り出す様な声で告げた。
(例の貴族の話か……。それにしたって一朝一夕でただの若者達を有能な兵士には出来まい)
ヴァイロの言うアテというのは、この間の話ではないのかとシアンは思っている。
「なれどシアン様一人で一騎当千」
「そういう事、それに150歳の私達ハイエルフの兄妹二人も力を貸すよーっ」
「ひゃ、ひゃくごじゅうぅぅぅ!?」
「えっ? ええっ!?」
「なるほど、ただの耳長族ではないということか」
ずっと黙っていたレイチとシアンが堂々と語りだす。その年齢を聞いて驚愕の声を上げるアズールとは正反対に腑に落ちるアギド。
彼はこの三人の盗賊としての手際の良さと、今回の偵察任務の結果に驚いていたが、これはもう納得せざるを得ない。
ハイエルフ……エルフでさえ絶対数の少ない種族なのだが、その中においてさらに超稀少なる存在。
精霊を手足の様に使役し、人間など足元にも及ばない知識を持つ種族。そして悠久を生きるのではないかと思える程に長寿である。
「ハイエルフだとは俺すら聞いていなかった。しかし幾らエルフと言えど50歳にもなれば大人の姿に成長を遂げるのではないのか?」
「人間はすぐそうやって見た現実だけで判断をします。目に映らないものに真実が隠蔽されているのではないですか?」
26歳になった立派な大人の男であるヴァイロが狼狽えるを見て、10歳位にしか見えないレイチが落ち着き払った声で話す。
「な、成程……。まあ、とにかくこれで今夜の話は終わりだ。本来なら泊まっていくのを勧める処だが……」
「気遣い無用だ。私達には、ありとあらゆる場所に隠れ家が在る」
「───わ、私も邪魔はしたくありませんので帰らせて頂きます」
シアン等はそう言って落ち着いた態度を見せる。一方ミリアは逃げる様に扉を開いて出て行ってしまった。
「み、ミリア?」
「ヴァイっ! 今はミリアを追ってっ!」
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