神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語

🗡🐺狼駄(ろうだ)

文字の大きさ
上 下
23 / 27
第3章 傭兵と二人のハイエルフ

第20話 緑の瞳とオレンジの瞳

しおりを挟む
 シアンの後方にある3階建ての民家。向かいの家の影とつながっているので、このまま下がっては影からのがれるすべがない。

(もっとこの騎士の能力を引き出してから……といきたい処だが、潮時しおどきだな)

「───ニイナッ!」

 これまで実に冷静な声しか出さなかったシアンが突如とつじょ己の声をはげまし命ずる。

「光の精霊達、ざってはじけろっ!」

 既に逃げたと思われていたニイナが後方の民家の屋根の上から跳び出して叫ぶ。
 シアンの頭上に光の玉が数多く集まると、言われるがまま弾けて散る。

「うっ!? め、目がぁぁ! あの連れはエルフなの!?」

 シアン側に発生した光のせいで伸びていた筈のレイシャの影が、自らの後方に伸びる。

「ハァァァァァッ!!」
「くっ!」

 乾坤一擲けんこんいってきといえるシアンの突きがり出される。
 腕を突き出すのではなく、両手で槍をにぎり身体ごと鉾先ほこさきたたき込む感じだ。

 レイシャは防御の為に左手の剣を引き寄せたが、刃でなく握った左手でそれをまともに受けてしまった。鮮血せんけつが飛び散る。

「風の精霊達、あの者に自由の翼をっ!」

 間髪入れずにニイナは次の精霊術を行使こうしする。風の精霊によって空を飛ぶための術だ。
 シアンの身体があっという間に空を舞う。

「ハァッ!」
「ど、どこを狙って?」

 駄目押しとばかりに此方も屋根にひそんでいたレイチが4本のナイフを投げ込む。しかしレイシャの方ではなかったので、ミスをしたかに思われた。

 カシャンッという音と共にシアンが先程地面に落したナイフに当たり、それが引き金となって弾かれた地面側のナイフの方がレイシャに向かって飛ぶではないか。まるでビリヤードの球だ。

「な、何ぃ!?」

 レイシャの両肩に深々ふかぶかと突き刺さったナイフ。この負傷では流石に剣を振るうことは出来なくなった。

 ただ真っ直ぐに飛んでくるだけなら対処の仕方もあったのだが、まさか落としたナイフの使い道があろうとは…………。手練てだれのレイシャにとっても奇想天外きそうてんがいなる攻撃。

修道騎士しゅうどうきしレイシャとやら。その名、この胸にしかときざませて貰おう」
「グッ……逃げるかおのれっ! せめてこっちにもその名を聞かせろぉぉ!」

 空を飛びながら相手に取って屈辱くつじょくにあたる笑みを残そうとするシアンとその一行。レイシャに言われて少し態度を改めた。

「そうだな、お前のその強さにめんじて名乗らせて頂こう。我が名はシアン、これより黒い竜ノヴァンの側へくみし、先陣せんじんを切って跳び込んでくる者だ」

「シアンだな、決して忘れないっ! 次会う時は、なますに斬り刻んでくれるっ!」

 シアンはあえて素性すじょうを明かす方に切り替える。今日の争いの種が今後は常に襲ってくることを強調づけた。

 傷口を押さえながらレイシャは、自らのおごりをのろう。すぐに仲間を呼べばこんな醜態しゅうたいさらすことはなかったであろう。

「な、なんとエディウス様にご報告すれば……」

 一瞬だんまりを決め込もうかと頭をよぎる。しかし相手は崇拝すうはいする神だ。神罰が下る様な行いを、実際にするほどレイシャは愚かではない。

 とにかく歯軋はぎしりする思いで飛んで逃げる連中を見送った。

 ◇

 再びカノン、ヴァイロとリンネの家。二人はベッドの上で一息ついている。

「全く……これから人が来るって言ったのに……」

「な、何っ! 私が悪いっていうの!? あんなことされたら……そ、その気になっても仕方しかたないじゃない……」

 リンネは腕枕の中、顔を合わせようとしないヴァイロに対し、真横を向いて文句を言う。

 まあ確かに彼女の言う事も間違いではないし、これに真っ向から言い返すのは大人のやる事じゃないとヴァイロは感じる。

「そ、そうだな……し、しかしお前がこういうのをもっと求めているとは知らなかったな」

 この一言は完全に余計よけいだ。悪いと思うのならだまって耳をかたむけるべきなのだ。これではフォロー処かあおりに等しい。

「ちょ……ちょっとっ! 随分ずいぶんな言い草じゃないかっ!」

 完全にリンネを怒らせてしまった。いよいよ大人のやる事じゃないのだが、恋愛には全く子供同然のヴァイロなのだ。

 リンネが後先考えずに首筋に喰らいつく様な口づけをする。

「よ、よせっ……落ち着けっ! 悪かったっ!」
「フンッ……」

 少し力任せに引きがしたが後の祭り。ただシャツを着ただけでは隠せない赤い跡がくっきり残ってしまった。

「と、とにかく日が暮れたら約束の時間だ。良い加減機嫌きげんを直して準備してくれないか?」

「…………」

 ヴァイロは狼狽うろたえ声で頼み込む。返事はせずにベッドから立ち上がると、衣服をサッサと身につけるリンネ。
 そしてすぐに出て行ってしまった。恐らく沐浴もくよくをして身なりを整えるつもりであろう。

 その様子にヴァイロは取り合えずホッと胸をでおろす。そしてまるで吸血鬼にでもまれたかの様に痛々しい顔で首元をさすった。

「フゥ……。やれやれ、やっぱり俺は神様のうつわじゃないな。それにしてもあの夢の内容は知らなくても、俺の心配の種は同じだと思っていたんだけどな」

 心の内をそのまま声にするヴァイロ。確かにリンネは彼のの中で一番の年長者であり、周囲からも一目置かれている存在ではある。

 なれど他の子供達とヴァイロに対する個人的な愛情───どちらが優先上位になるかといえば……そんなこと彼女はおろか他の子供達ですら充分に判っている感情である。

 子供達の未来を案ずる神としての彼の感情。それを今のリンネに求める───こればかりは無茶が過ぎるというものだ。

 ギシギシ……縄梯子なわばしごを登ってくる音がする。リンネにしてはちょっと早過ぎると思い、彼は慌てて乱れた衣服を整える。

「───申し訳ございませんわ。約束の時間より随分早く………」

 そう言いながら上がってのは何とミリアであった。彼女は瞬時に、ちょっと異様な雰囲気と首筋のに気づいてしまった。

「あ……よ、ようミリア。いや、全然問題ない」
「あ、あの……その首のアザみたいなものは、どうなさったのでございますか?」

 ヴァイロは未だに彼女の気持ちを知らない。ミリアの質問に驚きつつも平静をよそおう。

「あ……こ、これか? 近頃暑いから虫にでも刺されたらしい。よせばいいのに引っいてこのザマさ」

「そ、そうでございますか……」
うそが下手過ぎる……!)

 ヴァイロにしてみれば自分に対して恋愛感情もそうだが、ミリアという子供が判る事ではないと思い込んでいる。当のミリアにしてみれば不快ふかい極まりない。

 けれども最早何も問い詰める気にさえなれないのだ。

 そこへリンネが帰ってくれば当然、所謂いわゆる修羅場と化すのだ。

「あっ……」
「ど、どうもお邪魔しておりますわ……」

 リンネと目が合い、さらに気まずい雰囲気になるミリア。一応会釈えしゃくだけすると後はテーブルの椅子いすに腰掛けだんまりを決め込んだ。

 リンネも押し黙ったまま緑の髪をよく拭いてくしを幾度も通した。そこまでやることはないと思える程の念の入れ様。

 此方もどうやってこの急場をしのぐか、他にやる事が思いつかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...