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第2章 ノヴァン
第15話 宣戦布告
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(何やら下が騒々しい様だが……)
エディウスはヴァイロと戦闘しつつ、地上への目配せも怠っていない。しかし戦局が変えられる程の事が出来るとは、流石に想像が及ばなかった。
「ロッカ・ムーロ、暗黒神の名の元に、いかなるモノも通さぬ強固な壁をこの者に『白き月の守り』!」
ミリアが詠唱を終える。彼女の両手に光が集中している。両手を広げアギドの背後に回る。
「で、では行きますっ!」
ドカッ!
鈍い音と共に突き飛ばされたアギドが宙に舞う。彼は押されると同時に地面を全力で蹴っていた。
しかしながら2つ合わせた処で、自らの身長の2倍程度の高さに過ぎない。空中戦をしている方には到底及ばない。
「………その身を焦がせっ! 『破』!」
そこへ既に途中まで詠唱を済ませていたアズールの破だ。彼はアギドの足元を狙って小爆発を起こす。
「グッ!」
爆風に顔を歪めつつも耐えるアギド。爆風に乗ってさらに上空へと舞い上がる。しかしそれでもまだ不足だ。
「マー・テロー、暗黒神よ、その至高の力であの者に裁きの鉄槌を『神之蛇之一撃』!」
ここで宙を舞いながら、アギドが神之蛇之一撃を完遂させる。黒い大蛇の影が一つだけ現れる。
なんと彼はその大蛇の上に堂々と立ってみせた。
「あ、アギド!?」
「ほぅ……なるほど。その蛇に我々の所まで運んでもらおうという腹か。子供の癖に良くもまあ知恵が回る」
驚くヴァイロを一時放って、エディウスはアギドの大蛇を斬り裂きに向かい、瞬時にそれをこなした………かに誰の目にも映った。
(いくら速かろうと見えているっ! そして感謝する戦之女神よっ!)
「………全ての物の拘束を具現化せよ『グラビティア』!」
斬られたかに見えたアギドの大蛇は二首に割れた。元々二頭の大蛇を重ねて一つに見せていたのを斬られた瞬間に分けたのだ。
さらに相手へありえない重さを感じさせるグラビティアを、途中まで詠唱しておき、エディウスと相対する時に完遂させた。
右手の剣で竜之牙を受け、左手の剣を下段から振り上げて相手の胴を狙う。
正直本当に斬れるとは思っていない。だがこの動作でエディウスは、本気で踏み込めなくなることをアギドは知覚している。
「ちぃぃっ!」
「どうだっ! 俺の剣は戦の女神にも通用するっ!」
エディウス自身、この少年の思い通りにされていることを自覚して舌打ちする。さらに2匹目の蛇が、ルオラの方にも襲い掛かる。
「ぐわっ!? よ、よくもっ!」
(じ、術が解けた!?)
背中に大蛇の突撃を喰らい悶絶するルオラ。リンネは自分に掛けられた術が解けた事を理解する。
「ラァァァァァァ!!」
「ヴァイッ!!」
リンネが再び高周波の雄叫びを上げる。落下しながらアギドは、師に次の一手を打つよう鼓舞する。
ヴァイロは被ってた帽子をエディウス等の頭上に放り投げる。すると帽子が赤き光を4本射出し、それがピラミッド状に相手を包み込んだ。
「結界かっ?」
「これがないと此処にいる全ての者が対象になってしまうからなっ! さあ果たしてこれも斬れるかエディウスっ!」
「フッ……やってみるがいい」
「暗黒神の足! 神の足! その一歩で全てを踏み潰せ『神之枷』!」
「あぁぁぁぁっ!?」
「こ、これは重力? 重力を無効化して飛ぶ事も出来るが、その逆も然りかっ!」
光のピラミッドの底の方へエディウス、ルオラ、シグノが押し潰される感覚に苦悶の表情を浮かべる。
ルオラはその重みと苦痛に耐え切れず、いきなり白目を剥いて気絶してしまった。
その点エディウスは流石にその力を語る程の健在ぶりを示すが、決して余裕ではない。大剣を持って立っているのがやっとである。
「どうだ、流石に動けまい。俺がこの帽子を下げるとさらに重力が増す。このままでは本当に押し潰されるぞ」
「そ、それは……どうかな」
遂にドラゴンのシグノですらも、完全に伸びた様になってしまった。エディウスだけは、片膝と大剣を杖代わりに未だ強がっている。
「そうかよっ!」
「うぐっ!」
さらに帽子を押し付けると、エディウスから苦しみ悶える声が上がる。
(し、死ぬのか……これで? これであの夢は回避出来るのか?)
エディウスと相対する時、ヴァイロの脳裏にはいつもこれがある。勿論このまま終わって欲しい。
その直後、エディウスの目が白く輝いた。
「竜之牙・『混沌を斬る刃』!」
エディウスが体制を変えずに、光のピラミッドの底に竜之牙を突き刺した。白い輝きが結界を貫通し、光のピラミッドは、一気に風化した様に崩れ去った。
「な、なんだとっ!?」
「フ、フフッ……」
ヴァイロは焦りつつも取り合えず、帽子を取って被り直す。エディウスの目の輝きが消えない。先程までの余裕を残した感じではない。
まるで意識此処に在らず、なれど威圧感は寧ろ増大したように思える。
「ヴァ、ヴァイ……な、なんかアレやばい……」
リンネは身体も声も震え上がっている。ノヴァンは羽根についた爪を、エディウス目掛けて勝手に振り下ろす。
ノヴァンもリンネと同様にたった一人の矮小な人間に脅威を感じ、後先考えず物理攻撃に転じたのだ。
「ハァァァァァッ!!」
それに対してエディウスは、気合と共にシグノの背中を蹴って、ノヴァンの翼目掛けて突きを繰り出す。鋼より硬い皮膚にカウンターとなった剣先が刺さり、なんとそのまま突き破った。
「グワッ!? ば、馬鹿な。に、人間如きに!?」
ノヴァンの傷口から黒い血が一斉に吹き出す。純白であった筈の女神が、暗黒に染まってゆく。最早、どちらが暗黒神か判別出来ない様相だ。
「え、エディー! もう止めてっ!」
いつの間にか気絶から立ち直ったルオラが、そんな彼女を抱き締めた。
女神として、師匠として、そして愛する相手としてのエディウスを知っているルオラ。
彼女から見ても今のエディウスは、異様に満ち溢れていた。引き止めずにいられなかったのだ。
「………………ルオラ?」
「え、エディーっ! エディウス・ディオ・ビアンコっ!」
ルオラの温かみが届いたのか、エディウスは我を取り戻した。ルオラは泣いた、抱き締めたまま、泣きながらその名を叫んだ。
ヴァイロ、リンネ、ノヴァンは何故か手を出すのを躊躇い、そのままただ黙って様子を見つめた。
「ヴァイロよ………」
「むっ?」
「そもそも今日は、お前達の創造した竜へ、挨拶をしに来たまでのこと………」
「…………」
エディウスはルオラにしがみつかれたままヴァイロに告げる。その顔は何故か慈愛に満ちていた。
そして次の台詞まで少し間を置いてから、指を差してさらに続けるのだが、またも敵としての厳しい表情に戻る。
「次やる時は互いの全力だ。戦争をしようぞ」
「エディウス……承知した」
穏やかだが力強いエディウスの宣戦布告。ヴァイロも厳しい視線を全く外そうとせず、しかも相手に合わせたように穏やかな声でそれを受け入れた。
「ゆくぞ、ルオラ、シグノ」
「はい………」
白い雄大な翼を広げて、シグノが飛び発って往く。それは厳しい戦闘の後とは思えぬ程、大層優雅な光景であった。
エディウスはヴァイロと戦闘しつつ、地上への目配せも怠っていない。しかし戦局が変えられる程の事が出来るとは、流石に想像が及ばなかった。
「ロッカ・ムーロ、暗黒神の名の元に、いかなるモノも通さぬ強固な壁をこの者に『白き月の守り』!」
ミリアが詠唱を終える。彼女の両手に光が集中している。両手を広げアギドの背後に回る。
「で、では行きますっ!」
ドカッ!
鈍い音と共に突き飛ばされたアギドが宙に舞う。彼は押されると同時に地面を全力で蹴っていた。
しかしながら2つ合わせた処で、自らの身長の2倍程度の高さに過ぎない。空中戦をしている方には到底及ばない。
「………その身を焦がせっ! 『破』!」
そこへ既に途中まで詠唱を済ませていたアズールの破だ。彼はアギドの足元を狙って小爆発を起こす。
「グッ!」
爆風に顔を歪めつつも耐えるアギド。爆風に乗ってさらに上空へと舞い上がる。しかしそれでもまだ不足だ。
「マー・テロー、暗黒神よ、その至高の力であの者に裁きの鉄槌を『神之蛇之一撃』!」
ここで宙を舞いながら、アギドが神之蛇之一撃を完遂させる。黒い大蛇の影が一つだけ現れる。
なんと彼はその大蛇の上に堂々と立ってみせた。
「あ、アギド!?」
「ほぅ……なるほど。その蛇に我々の所まで運んでもらおうという腹か。子供の癖に良くもまあ知恵が回る」
驚くヴァイロを一時放って、エディウスはアギドの大蛇を斬り裂きに向かい、瞬時にそれをこなした………かに誰の目にも映った。
(いくら速かろうと見えているっ! そして感謝する戦之女神よっ!)
「………全ての物の拘束を具現化せよ『グラビティア』!」
斬られたかに見えたアギドの大蛇は二首に割れた。元々二頭の大蛇を重ねて一つに見せていたのを斬られた瞬間に分けたのだ。
さらに相手へありえない重さを感じさせるグラビティアを、途中まで詠唱しておき、エディウスと相対する時に完遂させた。
右手の剣で竜之牙を受け、左手の剣を下段から振り上げて相手の胴を狙う。
正直本当に斬れるとは思っていない。だがこの動作でエディウスは、本気で踏み込めなくなることをアギドは知覚している。
「ちぃぃっ!」
「どうだっ! 俺の剣は戦の女神にも通用するっ!」
エディウス自身、この少年の思い通りにされていることを自覚して舌打ちする。さらに2匹目の蛇が、ルオラの方にも襲い掛かる。
「ぐわっ!? よ、よくもっ!」
(じ、術が解けた!?)
背中に大蛇の突撃を喰らい悶絶するルオラ。リンネは自分に掛けられた術が解けた事を理解する。
「ラァァァァァァ!!」
「ヴァイッ!!」
リンネが再び高周波の雄叫びを上げる。落下しながらアギドは、師に次の一手を打つよう鼓舞する。
ヴァイロは被ってた帽子をエディウス等の頭上に放り投げる。すると帽子が赤き光を4本射出し、それがピラミッド状に相手を包み込んだ。
「結界かっ?」
「これがないと此処にいる全ての者が対象になってしまうからなっ! さあ果たしてこれも斬れるかエディウスっ!」
「フッ……やってみるがいい」
「暗黒神の足! 神の足! その一歩で全てを踏み潰せ『神之枷』!」
「あぁぁぁぁっ!?」
「こ、これは重力? 重力を無効化して飛ぶ事も出来るが、その逆も然りかっ!」
光のピラミッドの底の方へエディウス、ルオラ、シグノが押し潰される感覚に苦悶の表情を浮かべる。
ルオラはその重みと苦痛に耐え切れず、いきなり白目を剥いて気絶してしまった。
その点エディウスは流石にその力を語る程の健在ぶりを示すが、決して余裕ではない。大剣を持って立っているのがやっとである。
「どうだ、流石に動けまい。俺がこの帽子を下げるとさらに重力が増す。このままでは本当に押し潰されるぞ」
「そ、それは……どうかな」
遂にドラゴンのシグノですらも、完全に伸びた様になってしまった。エディウスだけは、片膝と大剣を杖代わりに未だ強がっている。
「そうかよっ!」
「うぐっ!」
さらに帽子を押し付けると、エディウスから苦しみ悶える声が上がる。
(し、死ぬのか……これで? これであの夢は回避出来るのか?)
エディウスと相対する時、ヴァイロの脳裏にはいつもこれがある。勿論このまま終わって欲しい。
その直後、エディウスの目が白く輝いた。
「竜之牙・『混沌を斬る刃』!」
エディウスが体制を変えずに、光のピラミッドの底に竜之牙を突き刺した。白い輝きが結界を貫通し、光のピラミッドは、一気に風化した様に崩れ去った。
「な、なんだとっ!?」
「フ、フフッ……」
ヴァイロは焦りつつも取り合えず、帽子を取って被り直す。エディウスの目の輝きが消えない。先程までの余裕を残した感じではない。
まるで意識此処に在らず、なれど威圧感は寧ろ増大したように思える。
「ヴァ、ヴァイ……な、なんかアレやばい……」
リンネは身体も声も震え上がっている。ノヴァンは羽根についた爪を、エディウス目掛けて勝手に振り下ろす。
ノヴァンもリンネと同様にたった一人の矮小な人間に脅威を感じ、後先考えず物理攻撃に転じたのだ。
「ハァァァァァッ!!」
それに対してエディウスは、気合と共にシグノの背中を蹴って、ノヴァンの翼目掛けて突きを繰り出す。鋼より硬い皮膚にカウンターとなった剣先が刺さり、なんとそのまま突き破った。
「グワッ!? ば、馬鹿な。に、人間如きに!?」
ノヴァンの傷口から黒い血が一斉に吹き出す。純白であった筈の女神が、暗黒に染まってゆく。最早、どちらが暗黒神か判別出来ない様相だ。
「え、エディー! もう止めてっ!」
いつの間にか気絶から立ち直ったルオラが、そんな彼女を抱き締めた。
女神として、師匠として、そして愛する相手としてのエディウスを知っているルオラ。
彼女から見ても今のエディウスは、異様に満ち溢れていた。引き止めずにいられなかったのだ。
「………………ルオラ?」
「え、エディーっ! エディウス・ディオ・ビアンコっ!」
ルオラの温かみが届いたのか、エディウスは我を取り戻した。ルオラは泣いた、抱き締めたまま、泣きながらその名を叫んだ。
ヴァイロ、リンネ、ノヴァンは何故か手を出すのを躊躇い、そのままただ黙って様子を見つめた。
「ヴァイロよ………」
「むっ?」
「そもそも今日は、お前達の創造した竜へ、挨拶をしに来たまでのこと………」
「…………」
エディウスはルオラにしがみつかれたままヴァイロに告げる。その顔は何故か慈愛に満ちていた。
そして次の台詞まで少し間を置いてから、指を差してさらに続けるのだが、またも敵としての厳しい表情に戻る。
「次やる時は互いの全力だ。戦争をしようぞ」
「エディウス……承知した」
穏やかだが力強いエディウスの宣戦布告。ヴァイロも厳しい視線を全く外そうとせず、しかも相手に合わせたように穏やかな声でそれを受け入れた。
「ゆくぞ、ルオラ、シグノ」
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