神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第2章 ノヴァン

第11話 竜の宴

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 直径200mは、あるのではないかと思われる巨大な錬成陣れんせいじん。これをあえて陽の当らない谷底に作った。

 しかしながら陣を形成けいせい出来る地面が存在しないため、ヴァイロ等が魔法で谷をけずり、場所を確保かくほする処から始まった。

 その陣の中に例の材料、ワイバーンの羽根・きば・心臓5体分。金貨50枚、溶岩に宝石の原石などが積まれている。
 恐らく材料に関してはエディウスのものとほぼ変わらないであろう。

 されど向こうは白く美しき神殿しんでん。こちらは荒れ果てた暗がりの大地である。

「おおっ! こ、これが……」
「我々も歴史の立会人になれるのか?」

 フォルデノ王国より見物に来た出資者しゅっししゃ達は、むしろこの荒野に忽然こつぜんと出現した感のある景色だけで既に興奮していた。

おろかなものでございますわ……。こんなものを再構築さいこうちくした処でドラゴンに似た何かが出来るだけというのに」

「まあそう言ってくれるなミリア。ただの魔法ですらめずらしいと感じる連中だ」

 ミリアはおぞましいものを見る様な目で、彼等と同じものを見て罵倒ばとうする。ヴァイロが後ろから肩を優しく叩いてそっとうながした。

「しかしヴァイ、本当にお前の言う力を加えれば成せるのか?」
「そんなもの多分としか言えない。出来なかったら残念でしたと、笑いながら逃げるだけさ」

 アギドも正直半信半疑はんしんはんぎであり、その目はミリアのそれと大差ない。
 ヴァイロは肩をすくめてやれやれといった態度たいどで応えてから一人笑った。

「とにかく皆、手筈てはず通りにやるだけだ。まあ宜しく頼む……特にリンネ」
「あ、う、うん……」
「よし、じゃあ始めるとしよう。神が出るかが出るか、楽しみだ」

 ヴァイロ、リンネ、アギド、ミリア、アズールが、錬成陣周囲の持ち場にそれぞれつく。
 楽しみだなどと白い歯を見せているのはヴァイロだけで、他の4人は緊張した面持おももちだ。

 ヴァイロは錬成陣の北側、時計でいう12時と言える場所に降り立つ。9時の方向にアギド、3時の方にはミリア。ヴァイロと真逆まぎゃくの6時にアズールだ。

 そしてリンネは宙に浮きながら、錬成陣の中央を眺める位置で静止した。

「神の中でもっとも黒いヴァイロの名において、今ここに我に忠実ちゅうじつかつ神に匹敵ひってきする力を持つ黒きドラゴンを現界げんかいさせるっ!」

 ヴァイロの大袈裟おおげさを混ぜた宣言に観客達のどよめきが上がる。同時にヴァイロ以外の4人の意識が過敏かびんに反応する。

「ではまず黒き者っ! まいられよっ!」

 9時の方向にいるアギドを指名している。

「我、暗黒神ヴァイロにその力を問う。ルーナ・ノーヴァ! いんの究極の闇よ、クラビウスへ堕ち、賢者の海で永遠とこしえにその罪をいるがよい! 『絶望之淵ディス・アビッソオ』ォォ!!」

 アギドの詠唱えいしょう完遂かんすいするとその広げた両手から、真っ黒の炎のかたまりが出現する。

 絶望之淵ディス・アビッソオとは、本来この術の標的にされた者の存在を歴史からほうむる。
 周囲の者達からも存在を忘れらるという途方とほうもなく恐ろしい術だ。アギドがこの半年をかけてようやく会得えとくした。

 これをまず錬成陣の中央にゆっくりと送り込む。ヴァイロの弟子で最も優秀な彼でさえ、冷や汗をかきながらの作業だ。この黒き炎が竜の色を成すらしい。

「次っ! ドラゴンの強靭きょうじんなる皮膚をこれへ!」

 3時の方角ほうがく、ミリアの番らしい。

「ドラゴ・スケーラ、暗黒神ヴァイロの名において、来たれ新月の影。陽の光すら通さぬころもを我に与えよ『新月の守り手ベスタクガナ』!」

 新月の守り手ベスタクガナ。これまでミリアが使っていた防御系魔法フェルメザをしのぐ最強の守備魔法。

 物理も魔法も正に陽光ようこうすら通さぬ日食の如き術だ。これを彼女は魔法陣の中心に置かれた黒き炎を対象とする。

 本来なら術者本人にかけるものを人ならざるものへ。このコントロールは実に難しいらしい。

「さあ、竜の息ブレスを、6時の者よっ!」
「ヘルズ・フィアー、暗黒神ヴァイロの炎よ、神すら恐れる地獄の大焦熱だいしょうねつを『紅の爆炎ロッソ・フィアンマ』!」

 アズールが爆炎系最強の呪文スペルを詠唱する。両手に爆炎の元になる巨大な火の玉を抱え、それらを一つに集約してから、これをやはり中央の黒き炎へ飛ばす。

 しかも吹き飛ばす為ではなく、中央の炎へそそぎ込もうというのだ。破壊ではなく付与エンチャント

 三人共、ヴァイロの指示で既に幾度いくども練習をかさねたとはいえ、やはり本番の緊張プレッシャーは勝手が違い過ぎる。

すごい……三人共良くぞ此処まで……さてと、次は俺の制御だっ!)

「黒き炎よ、対価たいかを喰らい竜の形を成す事を許すっ!」

 ヴァイロが錬成陣の前でひざをついて左手で陣に直接触れる。不浄ふじょうの左手をあえて使う。
 これから錬成するものは、決してせいつかさどる訳ではない。

「おおっ!」
「み、見ろっ! 黒い炎が巨大な何かに変わってゆくぞっ!」

 長い首、巨大な翼、強靭きょうじんな4本の脚。明らかに物語に出てくるドラゴンの形を成してゆく。しかし未だ炎の塊である事には違いない。

(良いぞ……アズが描いた絵を見て、俺が頭の中で思いえがいたドラゴンそのものになりつつある)

 これがヴァイロにしか出来ない力の行使こうし。彼はやがてこの力が『ポータ』と呼ばれる様になる事をこの時点では認知してなかった。

 自ら創造そうぞうするものを具現化ぐげんか出来る能力だ。

「リンネっ! 仕上げを頼んだっ!」

 4人共、自らの力の調整コントロールに、必死の形相ぎょうそうで集中している。後は陣の中央に浮く彼女に全てをたくして。

 リンネはハープをかなでつつ歌をつむぎ始める。普段のハスキーな彼女の声からは想像もつかない美しき調べ。

「暗き~谷間に響け咆哮ほうこう~。幾千いくせん~の人々の伝承でんしょう~。我の声を聞き我がものへと変えよ~………」

 リンネの歌声が谷間に響き渡る。その調べと光景に見る者達は声を失う。

「さあ、黒き竜よっ! 今こそ此方へっ! 竜のうたげを始めよう! そして我が竜音リンネの声をさずけようぞっ!」

 リンネの呼び掛けに応じたかの様に、これまで誰も聞いたことがない雄叫おたじけびがとどろく。初めて聞くのに、これはまさに竜の声だと確信出来る。

「叫べ竜っ! 飛べよ竜っ! 我と共に歌おうぞっ! 『竜の宴フェスタ・デ・ドラゴ』ォォォ!!」

 黒き炎にリンネの声が確実に届いた、全ての者は根拠こんきょがないのに確信に至る。

 揺らぐ炎が脚の辺りから徐々に固定化してゆく。爪、足の指、脚、腹……その全てが黒い。

 人間達が初めて目にするそれは、巨大な翼を広げてリンネの辺りまで飛ぶと旋回飛行せんかいひこうを始めた。

「貴様か? 自らの影を我が身と成したのは?」

 それが黒い竜が最初に告げた言葉であった。その声色こわいろ、この世にいる全てをひれせる程の凄烈せいれつさを感じさせた。
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