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第2章 ノヴァン
第9話 竜の音
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こちらはロッギオネ、エディウスの神殿。
この島で一番広大なラファンの山脈をほんの一時間程で飛び返ってきたエディウス。
鎧を脱ぎすて寝所の大きすぎるベッドに潜っている。まだ眠れてはいない。
パキッ、床を踏む音が聞こえてくる。
「ルオラ、入る時は……いや違うな。お前、我が帰ってくるのを勝手に入って待っていたな」
「だってぇ……黙って出ていくエディーが悪いのよぉ」
無遠慮にヅカヅカと広すぎる寝所を歩き、一人には広すぎるベッドに潜り込む。
この女神をエディーなどと気軽に呼んでいいのは、二人きりの時のルオラだけだ。
「私の可愛いすぎるエディーちゃん!」
「おぃ、流石にちゃんはやめろ……」
ふくよかで身長も高いルオラがベッドに潜り込んで添い寝する。
一応文句を言わずにはいられないエディウスだが、こんなルオラに普段の自分の立場がまるで通じないことを理解している。
「アッ、こ、こら…ひ、人の話をっ!」
相変わらず威厳を保とうと抵抗するのだが、頭をひとしきり撫でられた後、指がそのままエディーの身体を辿ってゆく。
「ウフフフッ……嫌がってる割には、今宵も着ていないじゃない。本当は欲しいんでしょ? 黙って行ったから、お・し・お・き」
「アッ、ハァ……」
(ま、全く……わ、我も暗黒神の事をどうこう言えんな…)
お互い神と呼ばれながらも所詮は人の子。身体はただの人間なのだ。
「で、わざわざ向こうまで出向いた甲斐はあったのかしら?」
「アッ、よ、よせ……ま、マトモに喋れ……ンッ」
息を荒くする女神を実に楽し気な顔で弄りたおすルオラ。今だけは女神といえど自分だけの玩具なのだ。
「あ……ああ、あったぞ。し、しかも想像以上だ」
グッタリとルオラに身を任せながら、どうにか返答するエディー。最早目が潤んでいる。
その答えにルオラの手が止まる。急に止められて、それはそれで切なそうな顔をするエディーを心底可愛いと感じる。
「へぇー……じゃあ早いとこ皆で行って、強者になる前に摘んでしまいましょう」
「い、いや……アレにはもっと力をつけて貰わねばならぬのだ」
「………どういう事? シグノというドラゴンすら錬成して、これ以上何を望むの?」
エディーの返答に、流石にふざけていたルオラの顔色が変わった。
相手も神と言われているのだ。これ以上力を増して脅威と成す事に、一体何の意味があるというのだ。
「そ、それは流石のお前にも教えられん。シグノは残念ながらワイバーンを再構築しし、魂を司る金と、炎の代わりにルビーを混ぜただけの紛い物に過ぎぬ」
「私にも教えない……ふーんっ、そんなこと言うんだあ……」
「よ、よせっ! や、やめ………」
解答を拒絶したエディーに、ルオラの楽しい拷問が始まった。
◇
あれから約3カ月の月日が流れた。ヴァイロは結局アギドの申し出を受け入れ、さらなる上位魔法を与える事にした。
アギドだけではない、アズールとミリアにもこれまで伝授していない魔法を授けた。
しかしそうは言っても一朝一夕に使い手になれるものではない。当然ながら厳しい鍛錬の日々を三人は送っていた。
そしてヴァイロ自らは竜の錬成方法について、未だに頭を抱えていた。様々な書籍を引っ張り出しては、唸って時には暴れることすらあった。
例の夢の景色を絶対に阻止するというのが、彼の行動原理なのだから理解は出来る。
なれどそれを知らない周囲にしてみれば一体どうした? という気分であったに違いない。
その中でも特に面白くないのはリンネである。暗黒神の魔法も使えないし、ドラゴンの知識もない。
彼女の振るった力、竜の息に竜の閃光。
如何にも竜の力を引き出しているかの様な名前だが、彼女は世界中のどんな音でも声でも知っていれば出せるのだ。
力に名前を付けただけの事で、竜の力を秘めている訳ではないらしい。
またもあの日の再現の様に読み捨てられた本を片付ける訳だが、ふと読めない字が書かれた本に目が留まる。
「ヴァイ、これ………」
「んっ? ああ、東の果てにある日本の書物だな。輪廻の名前の元になった国だ。ま、もっとも輪廻って言葉は、隣の中国って所が発祥らしいが」
「ふうん……」
読んでも何も判らない本のページを、リンネは取り合えずめくってみる。字は解読出来なくても絵も描かれているので、そこら辺をボーっと見ていた。
暫くパラパラ進めていたが、ちょっと不思議な絵に心を奪われて、めくるのを止めた。
そのページには巨大な蛇の様な生き物が、飛んでいる所が描かれている。
身体はそれこそ蛇らしく長くうねっているが、小さな手足と頭にはたてがみ……というべきなのかちょっと定かではないものが生え、角もあった。
長く赤い舌がまるで火を吹いている様に見えなくもない。
「ヴァイ、何度もゴメン」
「んっ? どうした?」
「この絵……なんかとても気になっちゃって……」
リンネはそのページを大きく開いてヴァイロに見せた。
「それは竜。東洋でいう処のドラゴンだ」
「ドラゴン? この蛇みたいのがっ?」
「だよなぁ…俺達の想像する脚が四本あって、身体の大きいあのドラゴンとは似ても………」
そこまで言ってヴァイロは口を閉じて腕を組んだ後、突如奇行に走る。
「ど、どうしたの?」
リンネの言葉を聞かず、ヴァイロは本棚をひっくり返す様に、本という本を引っ張り出し始めた。その変調ぶりにリンネが驚くのも無理はない。
「あ、あったっ! これだっ!」
何だか分厚くて、いよいよ文字しかない本をヴァイロはめくりはじめる。
リンネが後ろから覗き込むと、字体からどうやら同じ日本のものだという事だけは想像出来た。
「えーと……”竜”。竜(りゅう、りょう、たつ、龍)は、神話・伝説の生物………」
ヴァイロが調べたかったのは東洋の竜らしい。しかし首を傾げながら如何にも違うなあと言いたげな態度だ。
「リュウ ・リョウ・ リン……っ!」
「な、何? 一体何なの?」
急にヴァイロに肩を掴まれ、リンネは緑の瞳を丸くする。
「リンネ……竜の音。見えざる力……そうかっ! 判ったぞっ!」
「もぅっ! だから何だってばっ!」
ヴァイロがそのままリンネの肩を力強く揺すりだす。リンネにはいよいよ訳が判らない。
「声だっ! 音だっ! お前の力が俺のドラゴンに本物の声を与えるんだっ!」
「…………っ!?」
「なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろ? 早速錬成の準備を始めなくてはっ!」
ヴァイロは一人はしゃいで、リンネをギュッと抱きしめるわ、頭をくしゃくしゃにしてやりたい放題。
やれらてる方は訳が判らず、暫く反応に困ってしまう。
しかし大好きなヴァイロがようやく笑顔を取り戻した理由が、どうやら自分にある事を認識すると、彼女の顔も綻ぶのだった。
この島で一番広大なラファンの山脈をほんの一時間程で飛び返ってきたエディウス。
鎧を脱ぎすて寝所の大きすぎるベッドに潜っている。まだ眠れてはいない。
パキッ、床を踏む音が聞こえてくる。
「ルオラ、入る時は……いや違うな。お前、我が帰ってくるのを勝手に入って待っていたな」
「だってぇ……黙って出ていくエディーが悪いのよぉ」
無遠慮にヅカヅカと広すぎる寝所を歩き、一人には広すぎるベッドに潜り込む。
この女神をエディーなどと気軽に呼んでいいのは、二人きりの時のルオラだけだ。
「私の可愛いすぎるエディーちゃん!」
「おぃ、流石にちゃんはやめろ……」
ふくよかで身長も高いルオラがベッドに潜り込んで添い寝する。
一応文句を言わずにはいられないエディウスだが、こんなルオラに普段の自分の立場がまるで通じないことを理解している。
「アッ、こ、こら…ひ、人の話をっ!」
相変わらず威厳を保とうと抵抗するのだが、頭をひとしきり撫でられた後、指がそのままエディーの身体を辿ってゆく。
「ウフフフッ……嫌がってる割には、今宵も着ていないじゃない。本当は欲しいんでしょ? 黙って行ったから、お・し・お・き」
「アッ、ハァ……」
(ま、全く……わ、我も暗黒神の事をどうこう言えんな…)
お互い神と呼ばれながらも所詮は人の子。身体はただの人間なのだ。
「で、わざわざ向こうまで出向いた甲斐はあったのかしら?」
「アッ、よ、よせ……ま、マトモに喋れ……ンッ」
息を荒くする女神を実に楽し気な顔で弄りたおすルオラ。今だけは女神といえど自分だけの玩具なのだ。
「あ……ああ、あったぞ。し、しかも想像以上だ」
グッタリとルオラに身を任せながら、どうにか返答するエディー。最早目が潤んでいる。
その答えにルオラの手が止まる。急に止められて、それはそれで切なそうな顔をするエディーを心底可愛いと感じる。
「へぇー……じゃあ早いとこ皆で行って、強者になる前に摘んでしまいましょう」
「い、いや……アレにはもっと力をつけて貰わねばならぬのだ」
「………どういう事? シグノというドラゴンすら錬成して、これ以上何を望むの?」
エディーの返答に、流石にふざけていたルオラの顔色が変わった。
相手も神と言われているのだ。これ以上力を増して脅威と成す事に、一体何の意味があるというのだ。
「そ、それは流石のお前にも教えられん。シグノは残念ながらワイバーンを再構築しし、魂を司る金と、炎の代わりにルビーを混ぜただけの紛い物に過ぎぬ」
「私にも教えない……ふーんっ、そんなこと言うんだあ……」
「よ、よせっ! や、やめ………」
解答を拒絶したエディーに、ルオラの楽しい拷問が始まった。
◇
あれから約3カ月の月日が流れた。ヴァイロは結局アギドの申し出を受け入れ、さらなる上位魔法を与える事にした。
アギドだけではない、アズールとミリアにもこれまで伝授していない魔法を授けた。
しかしそうは言っても一朝一夕に使い手になれるものではない。当然ながら厳しい鍛錬の日々を三人は送っていた。
そしてヴァイロ自らは竜の錬成方法について、未だに頭を抱えていた。様々な書籍を引っ張り出しては、唸って時には暴れることすらあった。
例の夢の景色を絶対に阻止するというのが、彼の行動原理なのだから理解は出来る。
なれどそれを知らない周囲にしてみれば一体どうした? という気分であったに違いない。
その中でも特に面白くないのはリンネである。暗黒神の魔法も使えないし、ドラゴンの知識もない。
彼女の振るった力、竜の息に竜の閃光。
如何にも竜の力を引き出しているかの様な名前だが、彼女は世界中のどんな音でも声でも知っていれば出せるのだ。
力に名前を付けただけの事で、竜の力を秘めている訳ではないらしい。
またもあの日の再現の様に読み捨てられた本を片付ける訳だが、ふと読めない字が書かれた本に目が留まる。
「ヴァイ、これ………」
「んっ? ああ、東の果てにある日本の書物だな。輪廻の名前の元になった国だ。ま、もっとも輪廻って言葉は、隣の中国って所が発祥らしいが」
「ふうん……」
読んでも何も判らない本のページを、リンネは取り合えずめくってみる。字は解読出来なくても絵も描かれているので、そこら辺をボーっと見ていた。
暫くパラパラ進めていたが、ちょっと不思議な絵に心を奪われて、めくるのを止めた。
そのページには巨大な蛇の様な生き物が、飛んでいる所が描かれている。
身体はそれこそ蛇らしく長くうねっているが、小さな手足と頭にはたてがみ……というべきなのかちょっと定かではないものが生え、角もあった。
長く赤い舌がまるで火を吹いている様に見えなくもない。
「ヴァイ、何度もゴメン」
「んっ? どうした?」
「この絵……なんかとても気になっちゃって……」
リンネはそのページを大きく開いてヴァイロに見せた。
「それは竜。東洋でいう処のドラゴンだ」
「ドラゴン? この蛇みたいのがっ?」
「だよなぁ…俺達の想像する脚が四本あって、身体の大きいあのドラゴンとは似ても………」
そこまで言ってヴァイロは口を閉じて腕を組んだ後、突如奇行に走る。
「ど、どうしたの?」
リンネの言葉を聞かず、ヴァイロは本棚をひっくり返す様に、本という本を引っ張り出し始めた。その変調ぶりにリンネが驚くのも無理はない。
「あ、あったっ! これだっ!」
何だか分厚くて、いよいよ文字しかない本をヴァイロはめくりはじめる。
リンネが後ろから覗き込むと、字体からどうやら同じ日本のものだという事だけは想像出来た。
「えーと……”竜”。竜(りゅう、りょう、たつ、龍)は、神話・伝説の生物………」
ヴァイロが調べたかったのは東洋の竜らしい。しかし首を傾げながら如何にも違うなあと言いたげな態度だ。
「リュウ ・リョウ・ リン……っ!」
「な、何? 一体何なの?」
急にヴァイロに肩を掴まれ、リンネは緑の瞳を丸くする。
「リンネ……竜の音。見えざる力……そうかっ! 判ったぞっ!」
「もぅっ! だから何だってばっ!」
ヴァイロがそのままリンネの肩を力強く揺すりだす。リンネにはいよいよ訳が判らない。
「声だっ! 音だっ! お前の力が俺のドラゴンに本物の声を与えるんだっ!」
「…………っ!?」
「なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろ? 早速錬成の準備を始めなくてはっ!」
ヴァイロは一人はしゃいで、リンネをギュッと抱きしめるわ、頭をくしゃくしゃにしてやりたい放題。
やれらてる方は訳が判らず、暫く反応に困ってしまう。
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