神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第1章 悪夢

第1話 音を操りし少女

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 全てが暗黒の竜『ノヴァン』に騎乗し、自分達の故郷カノンを守る戦いの先陣をきっている暗黒魔法の使い手でありながら、剣術にも長けている魔法剣士『ヴァイロ・カノン・アルベェリア』

 全身を黒い服で被い、テンガロンハットも黒。その手に握る刀身から柄までが全て赤い両手剣『紅色の蜃気楼レッド・ミラージュ』。

 左右非対称で竜の牙の骨をそのまま剣にした様な、とても効率的とは思えない形をしていた。

 その巨大な刀身は魔術師が扱う物には手に余る様に思えるが、使い手であるヴァイロ自身が細身の身体とはいえ、180cm近い身長があるので意外と様になっている。

 短い銀髪、そして美形の優男。戦いよりも研究者の方が似合いそうだ。当の本人が実は戦いを嫌っているのだが、このカノンで一番の能力者。

 よってこのカノンを守る戦争に駆り出されたのだ。

 対するは色も完全に正反対の白い軍勢。それを指揮する『エディウス・ディオ・ビアンコ』も白い長髪に白い両手剣。白き鎧という全てを白に染めた女剣士。

 彼女も自らが召喚した白き竜に騎乗している。女剣士と言うが見た目は小さくまるで少女のごとき出で立ち。その身体でよく振えると思える両手剣を主兵装にしている。

 ヴァイロと決定的に違うのはその表情。カノンを打ち破らんとする攻め手の勢いに満ちあふれている。

「な、何故だエディウスっ! 俺達は何故戦わなければならない? この不毛の地カノンに一体何用があるというのだっ!」

 ヴァイロは戦いを望んではいない。それを必死で訴えかける。

「知れた事。この世に竜使い二人は無用っ! そして何よりも太陽すら当たらぬ黒の象徴とも言える存在だっ! 我はロッギオネでどこまでも清廉潔白せいれんけっぱくな神の国をきずくっ!」

「じゃ、邪魔だというのか……」

 エディウスの声は良く通り、威厳いげんに満ち溢れている。対するヴァイロは決して悪ではないというのに、神に追い詰めれた咎人とがびとの最期の足掻あがきにすら見える。

「な、ならば戦ってこのカノンを守るまでだ。俺の弟子達は強いぞっ!」

 自らをはげましながら徹底抗戦を宣言するヴァイロ。それを見たエディウスの顔がゆがみ、あごまで裂けたのではないかと思える程に笑う。

 自ら神を名乗る者が地獄の鬼の如き表情だ。

「な、何がそれ程に可笑おかしい!?」

「気でもふれたかヴァイロとやら。貴様の言う弟子達とは、みにくしかばねさらしているあれか?」

 目だけでヴァイロをうながすエディウス。白い竜は黒き竜よりも高く飛んでいるので、見下した格好になる。

 ヴァイロが地面に目を向けると、愛弟子まなでし達の無残な成れの果てが転がっていた。

「あ、アズ!?」

 最年少の男子、赤い衣をまとったアズールの死骸しがいは、無数の鳥達の食事にされていた。

「み、ミリアは!?」

 アズールの一つ上、あまり目立たないグレーの装束のミリアは、まるでモズの早贄はやにえの様に枯れ果てた木にその身体を突き刺されていた。

「アギド、アギドはどうした!?」

 アギドのむくろは地面ではなかった。エディウスの白い竜の口にはらわたを噛まれて、首と脚だけをさらしていた。

 一体いつ殺られたのか!? ヴァイロの思考がまるで追いつかない。

(そ、そうだ!)
「り、リンネっ! 吟遊詩人ぎんゆうしじんの彼女はどうした!?」

 ヴァイロが慌ただしく周囲を見渡す。その慌てるさま最早もはや痛々しさすら感じさせる。
 エディウスが首を振りながら、さもあわれんだ表情を彼に送る。

「嗚呼……遂にそれすら……。貴様の身代わりで肉体をちりも残さず消え失せる女の事を忘れたと?」

「ヴァ……イ……」

 ヴァイロの目前で今にも消えてなくなりそうな、緑髪の女の声が聞こえてきた。

 ◇

「り、リンネェェェッ!」
「う、うわぁ、びっくりしたぁ!」

 ヴァイロはガバッと身体を起こした。隣で寝ていたリンネも起こされて声を上げる。
 彼等の住むツリーハウスを支える樹々で寝ていた鳥達が、驚き羽ばたいていく音が聞こえてきた。

「ハァハァ……、ゆ、夢っ!?」
「ヴァイロ、アンタ凄い顔してるよーっ。身体まで震えて。一体、何を見たの?」

 息を切らすヴァイロはリンネの健在ぶりを見つけると、大きく安堵あんどの息を吐いた。

「な、なんでも……ないさ。も、もう忘れた」

 顔の蒼白そうはくぶりが、どうにも尋常じんじょうではない事を雄弁ゆうべんに物語る。ヴァイロ自身、流石に忘れてはいない。

 なれど夢の内容を決して語りたくはない。叶うのなら本当に忘れてしまいたい。

 16歳のリンネには彼の夢の内容こそ不明だが、嘘をついている事くらい流石に見抜いた。12の頃に拾われてこの家に移り住み、彼の事はつぶさに見てきた。

 髪の毛と同じ緑色の瞳に誤魔化しは通用しない。だからこそ、この嘘を追及しようとも思わないのだが。

「ハーブティーでも入れるかい?」

 歳が9つも上のヴァイロに気さくな声をかけるリンネ。もっとも彼女の場合、誰に対してもこうなのだ。

「いや、それより……」

 ヴァイロがベッドに寝転がってポンポンっと叩く。此方へ来いと言っているのだ。

「え……またあ」
「そ、例のを頼むよ。あれが一番落ち着くんだ」

「もうっ……耳あかなんて残ってないだろう?」
「わざとらしいな。そんな事を望んでないの判ってんだろ?」

 諦め顔でリンネはベッドの縁に座ると、ヴァイロが幼児の様に、その膝の上に頭を載せて、片耳を向ける。

 此処までは普通の耳かきをせがむ男の姿だ。

「じゃあ……いくよ」

 リンネはヴァイロの左耳に右手を添える。傍目はためには何をしているのかちょっと良く分からない。

 しかしヴァイロはあからさまに恍惚こうこつな顔をしている。彼の左耳の中では、耳かきの音だけが響いているのだ。

? ?」

 リンネが面倒そうにたずねているそれは、耳かきのソレなのだがあくまで

「問題ない……あ、そこそこ……」

 応える方も耳かきをされているていだ。しかしやっぱり音だけなのだ。ヴァイロはこの音だけの耳かきを永遠にされるのが大好きだ。

 いくらかかれても痛くはならない。それどころか耳かきの気持ち良さだけが残る。

 滑稽こっけいなのは、25歳で180cmの男が、16で160cmにも満たない女子に、完全に甘えている事である。

 音だけでは満足出来ない。一見無駄な声の掛け合いも、とても重要なのだ。

 この醜態しゅうたいとも言えるヴァイロの姿を知っているのは、同居人のリンネだけだ。呆れつつも自分だけに見せるこの態度。

 次第に足が痛くなるが、自分だけが独占出来ている事に、悪い気はしないリンネであった。
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