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第三章
鎖
しおりを挟むお城のパーティーから1週間。
カナトは生きていた。
ただし、アレストの部屋で鎖に繋がれている。
足首の枷を揺らしながらため息をついた。殺されないだけマシに思うべきか、それともこの状況を憂うべきか。
「はあ~!そもそもなんで殺してもいいなんて言ったんだよ!時を遡って当時の自分を殴りたい!」
ベッドの上でシーツが乱れるのも気にせず足をばたつかせた。
ちょうどドアがノックされる。
「こんな時に誰だよ!クソが!」
「失礼します」
入ってきたのはムソクである。今アレストの部屋に入れるのは本人とムソクのみだった。
「昼食持ってきました」
「帰れ!!」
「すっかり元気になりましたね」
「どこかだよ!?自由に動き回れることの自慢か?あぁ?」
「違います。パーティー後、しゃべるのも大変だったじゃないですか。それが今こんなに吠えれるなら回復力がすごいとしか言いようがありません」
もっとも、それはアレストにのどを突かれたせいで毒の一部を吐き出せたおかげもある。
「今日のメシはなんだよ」
カナトはベッドの上で背もたれながら足を交差させた。
「お粥です」
「またかよ!?」
「お腹の調子はどうですか?まだ治っていないならしばらくは消化しやすいものがいいです」
「ふざけんな!何日お粥と汁物食べていると思ってんだ!肉くらいいいだろ!」
「ダメです。アレスト様がダメだと言ってます」
「あーーーッ!!あの野郎!!監禁しといてこの仕打ちかよ!」
「………あなたのためじゃないですか」
「知ってる!でもムカつく!」
「そんなにムカつくのか?」
その声にムソクとカナトがドアを見た。アレストがドアを閉めながら振り返る。
「肉なんて重いもの食べたら消化に悪い。ほら、おやつに果物持ってきたから」
「ケーキは?」
「ごめん、それはないかな」
「出ていけ!」
ため息をつきながらアレストは果物の皿をベッド付近のテーブルに置いた。ムソクに目配りすると、察した向こうは食事のトレーをテーブルに置いて軽く礼をすると出て行った。
「まだ怒っているのか?」
ベッドに腰かけながらアレストが手を伸ばそうとする。それをパシッと打ち落とされた。
「人の足に変なものつけといたやつが言うことか?」
「そんなに怒らないでくれ。きみが療養しているあいだに盗み食いや激しい運動で治りかけのお腹を壊さないためだよ」
「本当か?お前、あの夜……」
そこまで言ってカナトは口をつぐんだ。
目覚めたあと、アレストに首を絞めかけられた夜はカナトのトラウマになりかけていた。そのせいで未だにその目を直視できない。
「カナト、あの夜は忠告だ。僕は本気だよ」
顔を背けていたカナトはちらりとアレストをのぞき見した。やはり目を見れない。しかし、わずかに見えた口もとはいつものように微笑んでいる。
目をそらして口をもごもごとさせ、組んだ腕で自分を守るようにぎゅっと縮こめた。
「もういいだろ。メシは食うから早く出ていけよ。仕事終わってないだろ」
「終わった。残りはユシルの分だからな」
「じゃ、じゃあパーティーの件は?もう解決したのか?これで王族と関係が悪化したら……」
「それも心配ない。あのメイドときみで城の警備に問題があることがわかって感謝しているらしい」
「は?」
「あと危うく第二王子が殺人罪に問われるところだったからな。きみが未然に防いでくれたことで、王妃が非常に感謝しているらしい。だからパーティーは後日改めて開くことになった。先日知らせを聞いたばかりだからまだ教えていなかったな。ぜひきみにも参加して欲しいとのことだ」
「そう、なのか?それはよかったな……」
少し気まずい沈黙が降りた。カナトは凝視されているのを感じながら身をよじった。
「いつまで見るつもりだ?後日のパーティーのために早く準備しに行けよ」
「うん、そうだな。……今夜はニワノエのところのパーティーに参加するから、それまでにきみのことをもっと見ようと思って」
「そうか……よ?え?誰のパーティーに参加するって?」
「ニワノエ」
「あいつの!?なんで誘ってくるんだよ!!」
わざわざ聞かなくてもアレストを貶すためたとわかっている。
「なんでだろうな?意外とヴォルテローノ家とウェンワイズ家は関係が密接だったりするからな。他に優先するべきパーティー招待もないし、同日に開催されるパーティーもなくて断れないんだ」
「お、俺も行く!!」
「………」
瞬間アレストから表情が消える。
「すきを見て逃げるためか?」
「そんなわけないだろ!」
そんな手があったか!
「ダメだ。今は食べ物に気をつけなければいけないし、激しい運動も控えないと」
「自分で気をつけるからさ?俺だって歩き回りたいし、ずっとベッドの上だと疲れるし?」
なおもアレストは無言だった。
「……なあ、どうすれば連れて行ってくれるんだ?」
「そんなに行きたいのか?」
「もちろんだ!」
「ユシルも行くことは知っているか?」
「え?」
「ユシルも行くことになっている」
だよな!さすがに1人だけ誘ってもう1人は誘わないことなんてないもんな!しかもあのニワノエがそんなことするわけないもんな!
カナトは頭を抱えてぐぬぬと策を考えた。どうすれば連れて行ってもらえるのか。
「別に、ユシルのためじゃねぇし。言われるまで知らなかったし」
「………それもそうだな。じゃあ、食べ物や激しい運動に気をつけると誓えるならいい」
「本当か?」
「僕の目を見ろ」
「……何言ってんだ」
「僕から目をそらすな」
カナトは迷ったあと、そろそろと視線を上げた。
「そうだ。それでいい。どんな場所でも僕より注目するならそれ以降は連れ出さない。いいな?」
「わかった……」
アレストはフッと満足げに笑った。
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