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第ニ章
ムソク
しおりを挟むアレストが友達としゃべっているあいだ、逃げ出したカナトは廊下でムソクを探していた。
しかし、どこにもいなく立ち悩んでいた。そして何気に後ろを振り向くと、なんと真後ろにムソクが立っていた。
「お前っ、いつからいた!」
「しばらく後ろをついて歩いていました」
「声……というか音出せよ!」
カナトは真後ろに人間1人がついて来ていたことにまったく気づかなかった。
そのせいでますますムソクの正体が気になった。
髪色や名前の頭文字がムカデと同じなので疑わずにはいられなかった。そして足音が極端に小さいことを加えて考えると充分にあり得た。実はムソクがムカデなのではないかと。内容を忘れているだけで使用人として働いていたのではないかと。
カナトは目を細めてムソクを見た。
「お前、何か特別な訓練とかしてるのか?」
「いえ」
「でも身のこなしとかいい気がするんだけどな」
「おほめいただきありがとうございます」
「足音を消す練習してるとか?」
「していません」
あんまりにもスムーズに否定されてカナトは自分の予測が間違ってるいるんじゃないかと思った。
「それならいいけど……まあ、次から声でもかけろよ。毎回振り返ったらお前がいると心臓に悪いだろ」
「気をつけます。今から何をすればいいですか?」
そう聞かれてカナトは考え込んだ。そもそも使用人として仕事した経験自体ほぼない。むしろ大昔と言っていい。専属使用人になってからはもはや仕事など頭の後ろに捨てて自由に屋敷を駆け回っているため、使用人というより飼い猫状態だった。
「何を……すればいいんだ?んー……じゃあ訓練手伝ってくれないか?俺いつも1人だから暇してたんだよな」
「わかりました」
庭はそんなに広くないので2人はカナトの自室へと行った。
部屋に入ってからカナトのほうが首を傾げた。
なんか、自分のもの減ってないか?
部屋の中を見回すと本来あるはずのもがなかったりする。なんとなくベッドの下をのぞくと持って来たはずの医療箱がなかった。
おかしい!絶対場所移動してないぞ!
カナトは立ち上がってムソクを振り返った。
「誰かが部屋に入って俺のもの盗んだかもしれない!」
「……」
一瞬だけムソクが視線をそらす。部屋の中を見渡す風に装ってから、
「もしかしたら移動されたかもしれません」
「移動?」
「はい。例えば親しい人の部屋に、とか」
ヒントがあきらか過ぎて怪しまれたか、とムソクは思ったが、カナトが「おお!」と感心した顔になる。
「かもしれない!親しいというと……アレストの部屋か?」
自分が布団ごとアレストに部屋へ連れて行かれたのを思い出して、ものすごくあり得る気がした。
カナトは急いでアレストの部屋に行くと朝までになかった自分の物品が現れていることに驚いた。
自室のベッドの下に置いた医療箱が今アレストのベッドの上にある。
「なんでここにあるんだ。机の上にあるあの丸鏡も、隣に立てられた木剣も全部俺のじゃねぇか!」
まさかアレストのやつ、こっちでも一緒の部屋で過ごすつもりか!?
発狂事件のあと、カナトはアレストと同じ部屋で過ごしていた。もちろんカナトが望んだこと
ではない。
それがまさか首都に来てもまたそんな経験をしなければいけないのかと驚く。
今のアレスト少し怖いから距離取りたかったんだけどな……。
「これ、こっそり戻してもバレないか?」
「無理だと思います」
カナトが頭を抱えた。
「なんでこうも、行動が強引というか、無理やりというか……俺の意見はいずこへ?」
「………なぜそこまでアレスト様のことをいやがるのですか」
ん?とカナトが振り返る。
「俺が?」
「待遇も、接し方も、はるかに周りを超えています。どう見てもあなたの扱いは特別です。それなのにアレスト様から離れようとする意味がわかりません」
「いやがっているわけでも離れたいわけでもないんだけどな。というより慣れないだけだ。距離は近いし、変に怒るし……」
カナトはつい首を触った。発狂事件の時に噛まれた場所である。
血は出るし、歯跡は残ると大変だったが、今は跡がだいぶ薄くなった。
「お前は噛まれたことあるか?今まで優しかった人が急に豹変して噛みついてくる経験」
「その人が……相手が恩人なら、私は迷わずに噛ませます」
「マジで?」
「はい。そうすることでその人の気が済むのならいくらでも」
こいつ、考え方ちょっとヤバいな。
献身的なムソクを前に、カナトは少し自分の気持ちをわかってもらえないと気づいた。
やっぱりカツラギと話したほうが気が合うのかもしれない。
◇—————————————————————
少し文字数が少なくなってしまいました…
最近体調を崩してしまい、ストックを使い切った状態です( ;∀;)
病院に行ったところ超健康体らしいですが、やはり気持ち悪さが消えず、文字数が続かなくなってしまいました:;(∩´﹏`∩);:
次は、次は必ず書き足します!
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