悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

文字の大きさ
上 下
51 / 92
第二章

きょうだい

しおりを挟む





帝都グレジフォルーー囚人地下牢。

フレングはエシウスとともに特別室の牢を出たばかりである。

「やあ~、やっぱりモレスの薬製造に手を貸しているのは公爵様で間違いなかったね!」

「ええ。グルバシュナは大きな教会があるスウェジスタと隣国ですし、七彩蝶を神の使いと崇めていますしね。黒曜草の輸入に混じって自分たちが使う分も取り寄せているのもわかります。これで証言も取れましたところで」

エシウスはスッと足を止めた。うん?と振り返ったフレングを見つめて、

「お一つ答えてもらってもいいですか?」

穏やかな声にフレングは「うん!いいよ」と答える。

「モレスをわざと逃した理由は問いません。でも、どうしてモレスの仕業と見せかけてあの屋敷に爆弾を投げたのですか?」

「……あらら」

「あの屋敷の地下にはギルちゃんとウィルトくんがいたはずですよ」

「あ、うん。ウィオルなんだけどね?まあ、広場のことアルバートにも怒られたんだよね。走ってきたと思ったらグーで殴られたし」

殴られたと思われる右を押さえてフレングは頭を揺らす。

「そのようですね。事前に危険はないと約束した上でギルちゃんたちに秘密したわけですからね。まさか爆発するとは思わなかったでしょう。おまけに参加した騎士の大半はモレスのせいで重軽傷を負わされています。うまく処理しないと困ることになりますね」

「本当だね!」

「それで、私の質問の答えはなんですか?」

「………」

エシウスはゆっくりと剣を抜いだ。剣先をフレングののど仏に当てる。

「エシウス、きみの剣は皇帝のために抜くものでしょ?」

「同時に家族のためでもあります。あなたが私たちを助けたことには感謝しています。だからと言って何をしてもいい理由にはなりません。私は自分の不甲斐なさであの子たちを酷い目に遭わせていますからね。次同じようなことをしたらおそらくギルちゃんに殺されるでしょう」

「やりそうな性格してるもんねー」

「そうですね。答えは?」

「うーん、そうだね。どうしても言わなきゃダメ?」

「いいよって言ってくれたじゃないですか」

「そうだねー、とりあえず、悪意はないんだよ?信じる?あれくらいの爆発であの地下は崩れないからね。なんせ公爵様が蒐集品の展示をしてるんだよ?頑丈だよ?」

「………そうですか」

エシウスは剣を収めた。そして安心したような声で言う。

「よかったです。あなたが敵なんじゃないかと思ってびっくりしました」

「僕はいつだってきみたちの味方さ!」

「てっきり誰かを犠牲にしてでも、モレスの背後に隠れている勢力をすべて引きずり出すつもりなのかと思いました」

「まさか!」

あはは!とフレングは笑った。

「南の各国は宝石箱のことをいまだにあきらめてないですからね。心配だったんです。特にグルバシュナは危険ですから」

「うん。その通り。だから早くすべてを解決しなきゃだね」

「……はい」












少女はあくびをしていた。

ツインテールにした黒髪は長く、顔の上半分を白い仮面で隠していた。しかし仮面の細い目からのぞく、金色と見紛うほどに深い輝きをしている瞳は目の前の貴族を釘付けにした。

「どうだ?お前がこの条件を飲んで屋敷にいてくれるならーー」

「んー、断る」

少女は足を組んで肘かけで頬杖をした。

「大金出してくれるからこうしてあたしが対面であんたと話してるけど、正直な話、相手が南の貴族とかの時点で断りたかったんだよね」

「俺は参加してないぞ!」

「宝石狩りに参加してなくても、他の人たちから買い取ったでしょう?」

「うっ……そ、そうだが!しかし俺は宝石箱の人々を屋敷に雇っていた!傷つけずにいたんだぞ!」

「今は?」

「い、今は別荘のほうで……」

「飼い殺し?」

「違う!」

「宝石箱がなくなってから雇いづらくなったよね?1人や2人っていう人数じゃないし、あんな目をした人々がたーくさんいたらさ、知っている人はみんな知っちゃうもんね」

「………っ」

少女は出されたお菓子をつまんで、はい、と貴族の口に入れた。

「んじゃあたしはこれで失礼するね」

「待て!こ、このままただで出ていけると思うな!」

少女はピタッと足を止めた。振り返ってあごに指を当てて首を傾げた。

「あたしに何かできるの?できたとして、これだけ大きい“情報屋”のことを敵に回すつもり?」

貴族は言葉につまって黙ってしまった。

フッと笑って少女は髪を揺らして部屋を出て行った。

外では馬車が控えていた。その前に顔全体を覆う白い仮面をつけた男がぐるぐるとその場を回っている。

「レイ!」

男の名前を叫んで少女は走り寄った。

「行くよ!」

少女の身を心配していたレイは突如言われた言葉に目を細めた。

「どこに?」

「シャスナ村よ!」

腰に手を当てて少女はニヤッと笑った。

「最近あたしの仕事は終わったばかりだし、少し休暇してもいいよね?」

「休暇したいならもっといい場所に」

「ダメ!シャスナ村にはあたしの王子様がいるんだよ!」

「王子様……」

「そう!あの日路地裏で助けてくれた素敵な男性よ!」

「俺も助けた」

「もともとあんたが助けに来る計画じゃん。あの素敵な男性は違うの!あのバカ兄貴が熱を入れてるみたいだし?気になるでしょう?」

「別に」

「よし!じゃあ決定!待っててあたしの王子様~!」

「ルナ……」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

開発される少年たち・家庭教師の淫らな性生活

ありさわ優那
BL
派遣家庭教師として働く三枝は、行く先々で少年の精通をさせてやったり、性的に開発することを趣味としていた。三枝は、勉強を教えながらも次々に派遣先で少年を毒牙にかける。勉強よりも、エッチなことを求めるようになってしまった少年たちの行方は……。 R-18作品です。少し無理矢理(あまり嫌がりません)。 乳首開発描写多めです。 射精管理やアナル開発の描写もありますが、既に開発されちゃってる子も多く出ます。 ※少年ごとにお話を書いていきます。初作品です。よろしくお願いします。

堕天使は性的な調教が大好き

あおい夜
BL
それは天使のように美しい人 それは天使のように優しい人 それは天使のように綺麗な人 それは天使のように、、、、。 超金持ち男子学園の教師であるライトはそれはそれは天使のように、、、と噂されている。 確かに生徒には優しい天使のよう 確かにその美貌は天使のよう だが、その本性は性的な調教が大好きな堕ちた天使だった。 裏では堕天使とアダ名が付けられてるドSで鬼畜なライトは今日も気に入った男の生徒や出会った男の人を手段を選ばず調教する。 調教した男は全て自分の奴隷(恋人)にして手元に置いておく。 そんな堕ちた天使を成敗する者はいまだに現れない。 r18には※印を付けます。

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...