下宿屋 東風荘

浅井 ことは

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居候

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お願いしますと部屋を後にし、下宿まで一気に駆ける。

夜ももう遅い。明日の朝餉に間に合うように少しは仮眠がしたいものだ。

この一月が終われば卒業でまた一人下宿を出ていく。後一人確保したいものだが、今年はいい子供が少ない。

家に着いて仮眠を取ってから、いつもの様に鶏小屋から玉子を貰い、温室から必要な分の野菜をもぐ。

木のボウルにサラダを作り、カニカマを混ぜ、オリーブオイルにレモンを搾り、塩コショウして混ぜたものをかけておく。

玉子焼きが面倒だったのでハムエッグを作り、皿にウインナーと一緒に乗せ、パンを机に置く。

全ての準備が出来たところで、いつもの様にみんなが起き出し食事を始める。

「皆さんちゃんとボードに書いてから出かけてくださいよ?」

それだけ言い、お茶を飲む。

「食事が終わったら、宮司さんのお宅に挨拶に行きますよ?」と雪翔に言い、支度ができたらここに来てくれと言って、みんなを学校に送り出す。

「支度できました」

「では行きましょうか」

「でも、ご挨拶に何もなくて……」

「気にしなくていいですよ?たまに、色々と頂くのですが、こちらの温室の野菜も分けていますので問題ありません」

「そうなんですか」

「では行きましょう。この土間から出ると近いんです」

土間の入口から出て道なりに行くと、宮司の家に着く。
その前に社や社務所があるのだが、玄関から出ると鳥居から階段を登り、裏に回ることになるので遠回りになってしまう。

ピンポン

チャイムを鳴らすと、はーいと小さな子の声が聞こえてくる。

「あ、とーやお兄ちゃんだ!おかーさーん」

パタパタと奥に走っていき、宮司の奥さんが出てくる。

「おはようございます。宮司はまだこちらですか?」

「ええ、ちょっと待ってくださいね」

宮司を呼びに行っている間も、雪翔は緊張しているのか、後ろから出てこない。

「おや、冬弥さん。どうかされましたか?」

「おはようございます。実は、昨日越してきた子がいましてねぇ、卒業式までこちらで暮らすんですが、遊ばせていても行けないと思いまして……ほら、ご挨拶して」

「は、初めまして。早乙女雪翔です!」

「初めまして。高校は坂の上の?」

「はい。春から1年生です」

「じゃあ、合格したんだね。おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

と、カチコチのお辞儀をしている。

「それで、お邪魔にならないようにしますので、この子に掃除などでもいいので、お手伝いなど午前中だけでもさせて上げてもらえませんか?」

「いや、でもまだ働ける歳ではないしね」

「家の手伝い的にでいいんですがねぇ」

「そうだね、千年祭も近いから何かと忙しいし、手伝ってくれるかい?」

「はい、宜しくお願いします」

「では、今からでも使ってあげてください」

「お昼には下宿にお返ししますね」

「ええ。雪翔、色々と教えてもらいなさい」

「はい。お昼からは?」

「雪翔くん、午後からは勉強しなさい」

「は、はい」

「では宜しくお願いします」
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