下宿屋 東風荘

浅井 ことは

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四社

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「我々の界だけでなく、天界も同じように厳しいんです。魔界はちょっと複雑ですけど、似たようなもので、子はなかなか育たない分大事にするんです。それに、姫も陛下が仮親ですから、余計に許せないのでしょう」

「話には聞いてます。付き合いも長いので……」

「たまに暴走すると手がつけられないんです。なので会わせずに済むのならと思いまして」

「時間がわかっていたらいいんですけど、聞いてすぐ祭りの件を終わらせてそちらに向かいましたので、狐が張り付いてないんですよ」

「あ、そろそろ起きます。そこのソファお借りしてもいいでしょうか?」

「ええ。やはりかなりの力を使うんですか?」

「人前では平気なふりをしてますが、体力がかなり……」

 冷蔵庫に行き水を取り出してユーリに渡し、毛布を用意して横になれるようにしておく。

「はぁー!」と顔を上げた結月は汗だくで、水を一気飲みしている。

「分かったぞ……なんと言うか、ほら、アレだ!」

「アレが好きですねぇ」

「違う、出てこないんだ。頭ではわかってるんだが、変な帽子かぶって着物きてて、ブツブツいうやついるだろう?」

「は?」

「ユーリ!」

「そう言われましても……見てきたのは姫でしょう?」

「だから、はっ!とか言うやつだよ」

「余計わかりません!」

「ちょっと休ませてくれ。えーっと、何だったかなぁ?前にもよく似た感覚の奴がいたんだが……」

「ユーリさん、いつもアレとかコレとか言います?」

「私にはそればかりですよ?アレ取れコレ取れではさすがの私にも限界がありますし、困った癖です」

「ユーリ、コーヒー!」

「買ってきます」

「おい、そこの狐」

 え?と三匹とも自分を指さして、キョトンとしている。

「どれでもいいが、この子供の部屋に多分、お守りがあるはずなんだ。紫色の星のマークの刺繍の入ったヤツ持ってきてくれ」

「誰も知りませんよ……あ!紫狐出てきなさい」

「知ってます。いつも見てます!引き出しにあります」

「紫狐、取ってきてください」

「すぐに持ってきます」

 紫狐がお守りを取りに行っている間も、あれでもないこれでもないとブツブツ言っている。

 お守りを持ってすぐに紫狐が戻って来て、「これです」と渡してくるのでみんなでお守りを見る。

「あぁ、アレですね?」

「そう、アレだ!って分かったのか?」

「私も名前ぐらいはしってますよ?映画とか漫画とか小説とかなってて有名じゃないですか」

「そうですね、見てわかりました。ですが、このお守りは冬弥さんのところのものではないのでしょう?」

「ええ、うちの社のは蔦が描かれてますけどこれは五芒星ですからねぇ。かなり古いものだと思いますよ」

「そう、だから合ってるんだよ!名前が出てこないっ!早く言え!」

「安倍晴明ですよねぇ?」

「それだ!ほら、ブツブツ言うやつで合ってたじゃないか!」

「確かに。ですがこれが何か関係があるのですか?」

「妖怪からしたらこの子供は天敵だぞ?そのお守りが机に入っていたという事は、持ち歩いてなかったんだろう?かなり寄ってきてたはずだが?」

「毎回祓ってましたし、紫狐が居たので最近はめっきりと減りましたけどねぇ」

 御苦労様と紫狐の頭を撫でながら言うと、「お守り以前の問題だ馬鹿者」と言われてしまう。

「どういう事ですか?」

「血はかなり薄まっているが、この子供は安倍家かそう言った術者の末裔だろうな。邪を祓う たちを持ってる。と思う」

「結月さんが断定しないのは珍しいですね」

「お前達狐も普通なら祓われてるくらい力のある子供だぞ?覚醒前でもだ……味方で良かったが、敵なら厄介だったかもな」

「このことは口外しない方が良いのでは?」

「そうします。最近物騒ですし」

「で、祭りでこの子供を使うのか?」

「そのつもりですが、何故知ってるんです?」

「記憶の中にあったからな。階段がどうのと言っているのが見えたが、やらせるのか?」

「ええ」

「なら、どうする?力の暴走はなかなか止められんぞ?」

「陰陽師系の術者だとしても、本人になんて言うんです?血を引いてるから退治しないでと言えと?」

「任せる。祭りには私たちも行こう。私達が祓われることはまず無い。どこまでの力を出すのか見てみたいから、今回は特別に無料だ」

「それはどうも」

「一応、薬は置いていく。これは魔力や妖術ではないから、体が自然になれてくるはずなんだが、様子がおかしかったらすぐに連絡をくれ」

「頼りにしてますが、面白いからと傍観はしないでくださいよ?」

「分かってる。じゃあ、私達は帰るから。明日にでも目が覚めると思うが、暫くはゆっくりさせてやる事だな」

「はい。ありがとうございました」

 二人が帰ってから暫くして、扉の開く音が聞こえ、そちらに顔を向けると、丁度医師の診察の時間で入ってきただけだった。

「熱は相変わらずのようですが、変わったことは?」

「いえ、まだ何も」

「そうですか。検査でも異常はなかったので、目が覚めたらすぐに教えてください」

「はい……あ!先生、目が……」

「おお、早乙女くん、聞こえるかね?」

「う、う?」

「早乙女くん、ここは病院です。見えますか?」

「あ……はい……」

「良かった。どこか痛いところとかないですか?」

「あ、の。なんで僕……」

 その後またウトウトと眠り出したので、また起きたら呼んでくれと言われ、壁にまだ張り付いている狐達に戻るように言い、座ってお茶を飲む。

「冬弥様、母親の気配がします」

「紫狐は雪翔に付いててください」

「はい!」

 ガラッとノックもなしに扉が開き、カーテンをバッと開ける。

「え?」

 腕を組んで立っているのを見て驚いたのだろう。
 いきなり態度が変わり、急いできたのでと言い訳を始める。

「もう三日目です。やっと先程少し目が覚めましたが、また眠ってしまいました。ご家庭でこのようなことは前にもありましたか?」

「いいえ?初めてです。ご迷惑をおかけしまして……下の子がまだ小さいのでどうしても来るのが遅くなってしまいまして……」

「お母様なんですよね?」

「当たり前じゃないですか!」

「普通ならすぐにでも来るものだと思うのですが?」

「うちにも事情があるんです」

「雪翔君が意識がない危ない状況で親が来ないとは、どういうことかと聞いているんですよ私は」

「だからさっきも言いましたけど、事情が……」

「ここでは雪翔君が起きてしまいます。場所を変えましょうか」
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