下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
57 / 73
四社

.

しおりを挟む
 先に食事を終えて、土間で捨てられるパックの容器を探し、冷蔵庫に入れてあった竹輪とチンゲン菜で塩炒めを作り、肉団子を解凍してケチャップソースで和える。
 それを皿に入れてラップをし、冷蔵庫に置いておく。
 それとは別に冷凍の温野菜ミックスを小皿に入れそれも冷蔵庫へ。
 あとは明日の朝魚を焼いて卵焼きを作り、全部チンして詰めれば後はおにぎりを作るだけで済む。

 よし、と席に戻り刺身をいくつか取って酒のあてにし、のんびりと飲むが、おにぎりはでかいの3つと言われ、鮭とおかかと梅でと更にリクエストされ、ため息をつく。

「あー、ついでなんだけど、俺明日からバイトがラストまでになっちゃって12時回ることが多くなりそうなんだけど」

「良いですけど、土間から入ってくださいね?」

「すいません、立て続けに宴会予約入っちゃったもんで」

「アルバイトとはいえお仕事なら仕方ないです。他には居ます?」

「俺はいつも通り。夕飯には間に合わないけど、21:00までには帰れるかな」

「僕は暫くは落ち着いてるので夕方には帰れます」

「皆さんボードに書いてくださいね?夕飯はいる人の分はラップしておきますから、いつもの様に洗っておいてください。後……海都、帰りは夕方になってますけど……」

「バスで行くから、混んでたら遅くなるって先生が言ってたよ」

「そうですか。怪我がないようにしておいてくださいね」

 食後、大人組はまだ酒を飲んでいたのでそれに付き合い、22時を過ぎたところで二人に寝るように促す。

 お休みと先に海都が部屋へ行き、雪翔は栞に何やらお願いをしている。

「どうかしました?」

「うちの狐達すっかり懐いちゃって、今日雪翔君と寝たいんですって」

「栞さんがいいなら構わないんじゃ無いですか?」

「でも……」

 こっそりと部屋の結界のことを話して安心していいと言うと「今日だけ」とお許しが出たので、雪翔もおやすみなさいと部屋へと戻っていく。

「あ、どうです?そのお酒」

「とても飲みやすいですよ?一杯如何ですか?」

「じゃあ……」

 飲むとほんのりと甘さがあり、鼻からはフルーツの良い香りが抜ける。

 それをじーっと見ている三人に、何ですか?と聞くと、「やっぱり夫婦でしょ」とからかわれる。

「そう言えばさ、冬弥さんて幾つなの?」

「え?」

 聞かれると思っていなかったので、年齢など考えてもいなかったとも言えず、見た目で30位だろうと思い、30ですと答えておく。

「前の下宿は親父さんがしてたの?」

 途中で何回か狐と入れ替わって誤魔化してきたので、その通りだと答え、栞の年は23だと適当に言っておく。

「そういうあなた方にも浮いた話はありませんけど?」

「俺と隆弘は今はいない組。堀内さんが今いい感じの人がいるんだよね?」

「そうなんですか?」

「大学で見られてしまって……お付き合いとかしてないんですけどね。何度か食事を……」

「いいじゃないですか。どんな方なんですか?」

「実は教授の娘さんで……」

「な、玉の輿だし、出世街道まっしぐらじゃん」

「そんなにからかわないで下さいって。元々高校の後輩だっただけだし、彼女は事務の手伝いで来てるだけなので、これからのことは分からないです」

「へぇ」と栞と目を合わせると、軽く頷くので少し力を使い良い方へと行くように力を貸す。
 あとは本人の努力次第だが、真面目で優しい堀内にはとてもいい話だと思うし、頑張ってきた分幸せになってもらいたかったのもある。

 みんなお酒が進んでいるようだったので、無くなったものから片付け、洗っていく。

「いつも冬弥様がされてるんですか?」

「自分でさせますよ?今日は特別です」

 その後賢司が空き瓶などを運んできてくれたので、机の上もスッキリと片付き、栞がテーブルを拭いてくれたので早く終わったが、珍しく飲まされた堀内が半分もう寝ている。

「部屋まで連れていってあげてください。なにごとも程々だといつと言ってますでしょう?」

「ごめんてば。堀内さーん、部屋行きますよー」

 なぜか中年オヤジのように、大丈夫っすよ?立てます立てます等と変なことを言いながら立ち、フラフラっと歩いては、おっとっと!と言っているのを見て、今後たくさん飲ませるのはやめようと全員が心に誓っていた。

「さて、明日なんですけど……」

「はい」

「蛍をそのまま雪翔に貸してもらえますか?階段を作りたいですし」

「構いません」

「社への狐はどうします?」

「みなさんが張ってくれた結界がありますから、一日おきに交代させようかと。毎月10日に必ず来るご夫婦がいるので、その時は行きたいですけど」

「分かりました。朝は7時から朝食です。みんなの学校の時間に合わせてますので。学校が近いと言っても親御さんから預かってますので、規則正しくしてますが……大学生も授業がなくても起きてきますから、ボードで判断するしかないんですよねぇ」

「あら?明日は二人いないんですね?」

「夜ですか?」

「はい」

「賢司はバイト、隆弘も家庭教師の日ですね。海都は明日からいませんから、ちょっと食卓が寂しくなります」

「そうですね、今日の食べっぷりには驚きました」

「みなさんそう言いますよ?さ、今夜はもう休みましょうか」

「はい。おやすみなさいませ」

 栞が部屋に行くのを確認してから自宅へと行き、まだまだ寒いが縁側で笹かまをつまみに少し飲む。

 カコンと鹿威しの良い音が鳴り響き、月と酒を堪能してから横になり休む。

 いつもと同じ時間に起き、お弁当の用意をして味噌汁を作っていると、珍しく海都が大きなカバンをぶら下げて板の間に出てきた。

「早いですねぇ」

「うん、遠足とかそういうのだけは早起きなんだよ」

「いつも起きてくださいよ。はい、お弁当です」

「ありがと。あのさ、バスの出発が8時だから早めに行きたいんだけど……」

「そうですね。遅れるよりいいですし。もう食べます?」

「いいの?」

「ええ、下宿屋は学校に合わせますから大丈夫ですよ」

 目玉焼きを二つと、サラダにウインナーを焼いて、ご飯とお味噌汁をよそい、土間ではあるがテーブルで食事をしてもらう。

「おはようございます。海都君は早いんですね」

「うん、食べたらもう行かないと」

「楽しんできてくださいね」

「今から楽しみ!じゃぁ行ってきます」

 行ってらっしゃいと見送ったあとみんなが起き出してきて、社の掃き掃除に行っていた雪翔も戻ってきたので、朝御飯にする。

「冬弥さん、俺講義が昼前だからもう一回寝るから」

「いいですけど、私は少しでかけるのでちゃんと起きてくださいよ?」

「うん。昨日の夜もぐっすり寝たはずなんだけど、まだ眠い」

「大分と日中は暖かくなってきましたしねぇ」

 ササッと食べて食器を洗い終わった隆弘がおやすみと寝に行き、他はのんびりお茶を飲んでから行ってきますと学校に出ていってしまった。

「雪翔、宮司はいつしめ縄をするとか言ってませんでしたか?」

「まだ。運んだしめ縄に紐を通さないといけないとか言って、御輿の入ってるところに入れにいってました」

「なら、そろそろですねぇ。蛍出てきてください。雫もですよ」

「はい」

「雫は一度栞さんに戻ってください。蛍から見て鳥居はどう見えました?」

「あのぉ」と雪翔の後ろにかくれてしまう。

「蛍!ちゃんとお答えしなさい!」

「ほ、蛍から見たらとても高すぎます!」

「鳥居の上の鳥居がですか?」

「そうです。か、階段は作れますけど、高いの作るには、私とゆっきーとでは細いのしか無理、です」

「そんなに緊張しないでください。怒ってませんし、取って食おうなんて思ってませんから」

「冬弥さん、それ返って怖がらせちゃうかも」

「そうですか?」

「すいません。あまり他のお狐様になれていないので」

「構わないですよ。朱狐も昔はこんな感じでして、良く那智にいじめられてましたねぇ」

「あの、昨日の夜に話してたんですけど、色鉛筆でみんなで絵を描いてたんです」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...