八百万の学校 其の弐

浅井 ことは

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神気と力

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「はぁ、気持ちいい」

つい、ゴロンと寝転んでしまったが、そんなに大きくない家なのに、無言で拭き掃除をして何だか今まで悩んでいたことが馬鹿みたいに思えてきた。

こんなに無心になったのはいつ以来だろう?


「気持ち良いと感じたのならば良かった」

「え?」

「今の時代、このように家を掃除しなくなったと聞いておる。何でも機械でやるのだと」

掃除機のことかな?

「そう、ですね。学校も掃き掃除だけで今は床ぶきとかしませんし」

「家でこのようにした事は?」

「家は道場やってるんでしょっちゅう雑巾がけしてました。今は祖父のお弟子さん達の生徒さんがしてくれてますけど」

「道場とな。昔は沢山あったものだが……」

「今は野球とかサッカーとか習う子が多いので少ないと思います」

サッカーと野球の説明をすると、その様なものを飛ばしては危ないなどと言っていたが、気になっているのは、八咫烏が居ないこと。

「あの、八咫烏は?」

「今は裏の木の方で休んでおるよ」

「怪我をしたって聞いたんですけど」

「なに、傷はもういいのじゃが、羽が上手く動かせんようでな。暫くはそっとしておいてやって欲しい」

「はい」

丁度お昼に迦具土が弁当を届けに来てくれたので、いつもの様に味噌汁とおにぎり、重箱に入ったおかずでお昼を済ませるが、やはり気になるのが食事情。

「天狗さんの食事って、精進料理じゃないんですか?昨日唐揚げとか食べてたし……」

「なんでも食べる。山伏……修行者のようなもの達や一部の者は食べん者もいるが、今は寺でも肉や魚を食べるし、髪の毛だって坊主だけではないぞ?それに、婚姻して子もおるし」

「殺生は……ってのを書いてあるのを読んだんで」

「んー。翔平よ、昔は修行中など手に鉢を持って家を回り、少しの食べ物などを分けてもらっていたというような本を読んだのか?」

「ネットですけど」

「『ねっと?』網か何かか?」

「これです」とスマホを見せると、こんな小さな箱で……と言っていたが、「確かに昔はそうじゃったが、今は違う」

そう言いながらも天狗さんのお箸は止まることはない。

どんだけ大食いなんだこの人は!

ご馳走様と箸を置いたのでお茶を入れ、冷たいお茶でよかったかな?と少し悩むが、天狗さんの見た目が暑苦しい。

「なんと言えばわかりやすいかの……」

「翔平、肉や魚、米とか野菜とか、お前達はスーパーで買うだろ?」

「うん。迦具土も何か知ってんの?」

「俺は天狗の代わりにに話してるだけだ。どうも上手く言えなさそうなんでな」

「そりゃすまぬ。何しろ久方ぶりに山からこちらに来たのでな。そしたら街は変わっておるし、空気も悪いし……」

「だろーな。山は空気がいい。しかも信仰心の厚い山から来たのなら、こっちは邪念だらけに思えても仕方ねー」

「この結界の中でなら自由にと八意殿から聞いておるし、街と違い、空気も澄んでおる。大国殿のお陰でもあるな」

「ちょ、まってまって。ひとつずつ話してくれないと俺がわかんないから!」

「あ、そうそう。飯の話だろ?」

「うん」

「簡単に言えばお前はもう答えを知ってるはずだ」

「俺?まさかー」

「祖母殿になんと教わってきた?俺も最初に言われたからわかるが、お前は小さい頃から聞いて育ってきてるはずだ」

何だろう?

こうやって質問されると以外に思い出せないかも知れない。
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