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石長比売の決断
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そうだった。
長生きにはなるとは言っても、人は100歳までは生きない。
残された石長さんはきっと寂しい思いをするだろう。
その事を考えると、じゃあ、どうぞ結婚してくださいなんて簡単に言えない。
そのことを兄貴がもし考えてなかったとしたら……
石長さんが怒る気持ちもわからないでもない。
「俺、やっぱり見てくるよ……」
「翔平……」
「俺は弟だから、爺ちゃん達が言うよりいいと思うんだ」
玄関にかけてある上着を羽織って、行ってきますと玄関を出て公園へと向かう。
昔、爺ちゃんと喧嘩した時も、兄は公園に居た事があるから、多分だが……
走って公園へ行くと、ブランコに腰掛けている兄の姿が見えたので、近くの自販機でコーヒーを買って、後ろからピタッとほっぺたに缶を押し当てる。
「つめてっ!」
「ここだと思ったんだ」
「ビックリさせるなよ」
「ごめんごめん」
二人でブランコに座りながらコーヒーを飲んで、自分の考えを兄に言うと、やはり兄もその事が気にはなっていたと言う。
「寿命がやっぱり……そこはなんとも出来ないしってのは考えたんだ。かと言って今までみたいに友達のままでいるってことも出来ないし。でも、あんなに怒るとは思わなくてさ……しかも婆ちゃんまで」
「前に石長さんが言ってたことがあるんだ。咲耶さんとの揉め事の時に、自分なら、神気を返して兄貴と同じように歳をとって寿命を全うする覚悟があるって」
「翔平……」
「でも、今弱ってる石長さんにそんなこと出来ないのはわかってるよね?」
「俺……待つよ」
缶をゴミ捨て場にポイっと投げると、見事に命中して入るが、自分は多分外れるだろうなとちゃんと捨てに行く。
「帰ろっか。腹減ったし……」
「うん」
今夜は何かな?と話題を摩り替えながら歩き、玄関を開けると、石長さんが泣きながらお帰りなさいと兄にしがみついているのを見て、こっそりと横から入って洗面所へと行き、その時に迦具土を呼んで、一体何が起きてるのかと聞く。
「俺がかけた術は、二度目だったから軽いものにしてたんだが、様子を見に行ったら起きててな……お前が出て行ってからのみんなの話してるのを聞いてしまったらしくて、ぼーっとしてたと思ってたら、いきなり前に言っていた神気を返して添い遂げたいとか……言ってることが支離滅裂で俺にも最後はよくわからねーんだけど……あいつの中でなにか変わったんじゃないか?」
「その話、さっき兄貴ともしてたんだよ」
「お騒がせ夫婦って感じだな。祖母殿はまだ話も決まってないのに、味ご飯を炊くと言って台所で張り切ってるんだが……」
「まだお祝いじゃないよ?あれ?お祝いなのかな?」
そんなことを話しながら、まだ玄関で騒いでいる二人は放っておいて台所へと行くと、何故か大国さんが人参片手に小さなナイフで細かく人参と格闘している。
「婆ちゃん、何作るの?」
「あぁ、ちょうど良かった。裏の冷凍庫から、鯛持ってきてちょうだい。取っておいてよかったわぁ。人数分の切り身があるから早く持ってきてちょうだい」
前に買い込んだ時のやつか……と思いながら、裏の電気をつけて鯛と書いてある袋を持って台所に置くと、迦具土は味噌汁、大国さんはやっと人参が終わったと椅子に座りこんでいる。
煮物も作っているので、ぬか漬けを出して、洗って切り、お皿に置いていくと、横からつまみ食いをする大国さんに一言。
「婆ちゃんにバレるとおやつ取られますよ?」
袋をしっかりと鞄にしまい込み、話があると居間までついて行く。
長生きにはなるとは言っても、人は100歳までは生きない。
残された石長さんはきっと寂しい思いをするだろう。
その事を考えると、じゃあ、どうぞ結婚してくださいなんて簡単に言えない。
そのことを兄貴がもし考えてなかったとしたら……
石長さんが怒る気持ちもわからないでもない。
「俺、やっぱり見てくるよ……」
「翔平……」
「俺は弟だから、爺ちゃん達が言うよりいいと思うんだ」
玄関にかけてある上着を羽織って、行ってきますと玄関を出て公園へと向かう。
昔、爺ちゃんと喧嘩した時も、兄は公園に居た事があるから、多分だが……
走って公園へ行くと、ブランコに腰掛けている兄の姿が見えたので、近くの自販機でコーヒーを買って、後ろからピタッとほっぺたに缶を押し当てる。
「つめてっ!」
「ここだと思ったんだ」
「ビックリさせるなよ」
「ごめんごめん」
二人でブランコに座りながらコーヒーを飲んで、自分の考えを兄に言うと、やはり兄もその事が気にはなっていたと言う。
「寿命がやっぱり……そこはなんとも出来ないしってのは考えたんだ。かと言って今までみたいに友達のままでいるってことも出来ないし。でも、あんなに怒るとは思わなくてさ……しかも婆ちゃんまで」
「前に石長さんが言ってたことがあるんだ。咲耶さんとの揉め事の時に、自分なら、神気を返して兄貴と同じように歳をとって寿命を全うする覚悟があるって」
「翔平……」
「でも、今弱ってる石長さんにそんなこと出来ないのはわかってるよね?」
「俺……待つよ」
缶をゴミ捨て場にポイっと投げると、見事に命中して入るが、自分は多分外れるだろうなとちゃんと捨てに行く。
「帰ろっか。腹減ったし……」
「うん」
今夜は何かな?と話題を摩り替えながら歩き、玄関を開けると、石長さんが泣きながらお帰りなさいと兄にしがみついているのを見て、こっそりと横から入って洗面所へと行き、その時に迦具土を呼んで、一体何が起きてるのかと聞く。
「俺がかけた術は、二度目だったから軽いものにしてたんだが、様子を見に行ったら起きててな……お前が出て行ってからのみんなの話してるのを聞いてしまったらしくて、ぼーっとしてたと思ってたら、いきなり前に言っていた神気を返して添い遂げたいとか……言ってることが支離滅裂で俺にも最後はよくわからねーんだけど……あいつの中でなにか変わったんじゃないか?」
「その話、さっき兄貴ともしてたんだよ」
「お騒がせ夫婦って感じだな。祖母殿はまだ話も決まってないのに、味ご飯を炊くと言って台所で張り切ってるんだが……」
「まだお祝いじゃないよ?あれ?お祝いなのかな?」
そんなことを話しながら、まだ玄関で騒いでいる二人は放っておいて台所へと行くと、何故か大国さんが人参片手に小さなナイフで細かく人参と格闘している。
「婆ちゃん、何作るの?」
「あぁ、ちょうど良かった。裏の冷凍庫から、鯛持ってきてちょうだい。取っておいてよかったわぁ。人数分の切り身があるから早く持ってきてちょうだい」
前に買い込んだ時のやつか……と思いながら、裏の電気をつけて鯛と書いてある袋を持って台所に置くと、迦具土は味噌汁、大国さんはやっと人参が終わったと椅子に座りこんでいる。
煮物も作っているので、ぬか漬けを出して、洗って切り、お皿に置いていくと、横からつまみ食いをする大国さんに一言。
「婆ちゃんにバレるとおやつ取られますよ?」
袋をしっかりと鞄にしまい込み、話があると居間までついて行く。
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