八百万の学校 其の弐

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
60 / 103
石長比売の決断

.

しおりを挟む
「大国様、話して頂かないと、ここで預かるにしても何をして良いのか……」

「源三郎……。いや、そうだな……」

大国さんは手に持っていたポテチを口に入れて、麦茶を飲んだあとに、今までの療養の話をしてくれた。

流石に色んな神が居る事と、八意さんが見張っていたのもあって、しばらくの間は大人しく寝ていたらしい。

でも、やはり食事を少量から摂る様になって、庭だけでもと歩かせていたのだが、先週兄の神気を持って大国さんが行った途端泣き崩れたという。

「なんで泣くの?」

「翔平、お前は女心がわからんのか?」

「へっ!?」

「嬉しかったのもあるだろう。さんざん醜女と言われ人間もそのように認識しているし、あんなに捻くれていた石長をここまでおおらかにさせたのは、佐野家の力だ。それに、神が人間の男に恋をする等あってはならぬし、結ばれることも無い。
その苦しみと、石長の恋心との葛藤と言うやつもある」

それに……と大国さんはみんなを見回し、「石長からしたら、こんなに優しくされたのは神として生まれてから初めてのことだからな」と言う。

そう言われれば、ずっと話や本だけでの知識で、会って話しをするまでは、石長さんは意地悪な神様だと思い込んでいた所がなかったとはいえない。

「あいつは、純平から自分の神気が抜けると、純平が弱ってしまうのではないかと恐れている。数日とはいえ、魂が離れていたこともあって、見た目と違ってまだ回復してないのではないかと。
なのに、少しずつではあるが、神気を純平から抜くことを嫌がっているんだ。
で、石長が出した答えは、純平。お前の元を去るという選択肢ただ一つ」

「え?」

「あ、兄貴止めなきゃ。俺達、石長さんにはとっても世話になったんだ。爺ちゃんが倒れた時も心配してくれて……」

「そうだな……。でも、それは石長さんの口からちゃんと聞かないと、俺には何も言えない」

「兄貴!」

「大国さん、石長さんが俺から離れたとして、何かが変わるのか?」

「そうだな……自身の社に篭れば、今まで溜まっていた気で回復も早くなるとは思うんだが、お前の元を去る事まではしなくていいと思うんだ。
だが、これはあいつなりのケジメなのかもしれんな」

「ケジメ?」

「あいつは、お前達家族に優しくされて変わった。
それはとてもいい事だと思うし、神としての格も上がるってもんなんだが、お前に恋をしているその心を閉ざしたいのかもな」

「なんで?」

「翔平、お前さっきから単語ばっかで意味わかってんのか?」

「恋心とかは全然?迦具土はわかるのかよ」

「分かるわけねーだろ?」

兄の方を見ると、腕を組んで難しい顔をしているが、それとは別に、祖父母は呑気に買い物でも行こうかなどと話をしている。

「石長さんを寝かせたのは迦具土だろ?どのくらいで起きる?」

「後、三時間くらいは起きてこねーと思うけど」

「大国さん、買い物行きましょ。買い物!きっと爺ちゃんがおやつかってくれますから」

「私か?」

「いいから!兄貴は石長さん見ててよね」

こっそりと、迦具土に石長さんの目が覚めるようにとお願いしてから、祖父母と共にみんなを外に連れ出すことには成功した。

おやつを買うという約束付きだが……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元魔法少女の後日談は珈琲が飲めるようになってから。

キリ
キャラ文芸
雨谷しぐれが魔法少女の頃はどんなところにでも手が届いた。手の届く範囲内にだけは手を差し伸べたがるしぐれにとって魔法少女は居心地の良いものだった。しかし永遠に魔法が使えなくなる総魔力切れを起こしてしまい、魔法少女を引退する。いきなり手の届く範囲が激減し自分の力のなさを痛感する。 そんなしぐれは同級生の伏名みとまに染髪に連れ出したり、少しずつ普通の生活に慣れようとする。そんな時に一人の怪しげなドレスの女に出会い…… 魔法少女を引退してもなお大きくなる正義感にしぐれは振り回されてばかり……。そんな自分にしぐれは納得出来なかった。だから、魔法少女を引退した彼女が選んだのは魔女になることだった。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...