八百万の学校 其の弐

浅井 ことは

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夏祭り

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「前に、婆ちゃんエプロン握りしめてたことあったんだ。さっきも足が震えてたし。本当はいつも心配してるんだと思う……ほら、一度爺ちゃん倒れてるしさ」

「元気とは言っても歳だからな」

「あの話どうなったの?」

「養子のことか?」

「そう」

「少し遅くなるんだが、お前の卒業に合わせようと思ってるんだ。大学からなら気持ち的にも楽だろ?」

「ごめんな、俺がまだ子供だから……」

「いいって。それより……結構並んできたぞ?焼きあがったのそれだけしかないのか?」

「え?あ、ほんとだ!早く焼いて!たれ付けて焼いて!!!」

祖母が戻ってくるまで、ひたすらイカを焼き、何とかストックもできた所でお茶を飲んで一息入れる。

屋台がこんなに大変だなんて思いもしなかった。

「俺、婆ちゃんにはもう心配かけたくないんだ」

「そうだな。神様の力で見えるようになったとしても、俺たちにできることは少ししかない。怪我をせずにいつまでもいられるとも限らないから、心配するなって言う方がおかしな話なんだろうけど、普段はこんな危険なことはしないんだろう?」

「うん。この神社の奥に茅葺き屋根の文化財あるの知ってる?」

「あー、あるな」

「そこで週に二回神様にこちらのこと教えてたんだけど、みんなうちに集まるんだよなー!特に大国さん!学校にまで園児の格好してきたりするからビックリだよ」

「あー、イタズラ好きそうだもんな……っと、いらっしゃい!」

暫くして祖母が変わると行って戻ってきてくれたので、何とか三人で焼いて売り切れたので、火の元の確認をして、片付けられるものだけ片付けていく。

祭りに来たのに屋台でイカ焼き……

これはこれでいい思い出となるのだろうが、ちょっと複雑だ。

「済まない。遅くなってしまった」

「テチさん!全部売れましたよ!これ、お金です」

「あ、ありがとう。後はしておくから、石長比売 いわながひめと大国様の屋敷に……」

「え?でもウズメさんがまだですけど」

「あの踊りは長いから、終われば行く。俺も……」

「分かりました。あ、ゴミだけ捨ててきますね」

ゴミ袋を持って、祖母と兄と捨ててから三人のところに戻ると、石長さんの浴衣の膝あたりが赤くなっているのに気づいた。

「石長さん、膝怪我したの?」

「転んだ時にぶつけた様で……」

「消毒しないと。婆ちゃん……絆創膏とか持ってない?」

「ごめんねぇ、いつもの鞄じゃなくて、巾着を持って来たからないのよ」

「大国さんの屋敷に行くからあるかな?」

「じゃ、石長さん乗って」とおんぶするのにしゃがむ兄。

それをポッカーンと見る迦具土。

まぁ、兄の事だからそうするとは思っていたが、祖父母もニコニコと見ているだけで、オロオロしているのは石長さん一人。

「でも、こんな人中では……」

「おんぶがダメなら……よっと、これでいいよね。さ、行こうか」

兄がしたのはお姫様抱っこ。

見ているこちらが恥ずかしいが、サラリとやって退ける兄貴はやはりタラシだと思う。

「迦具土、大国さんの屋敷に早く連れてってよ」

「あ?あ、あぁ」

社の裏手から、立ち入り禁止であろう木の柵を開けて中に入り、そこからどこをどう通ればこんなにでかい門が出てくるんだと言うような屋敷の前に着いた。
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