八百万の学校 其の弐

浅井 ことは

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夏祭り

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石長さんが家に来てすぐ、祖母が浴衣を着せて居間に来ると、見違えるくらい綺麗になっていた。

「え?どうしたの?」

兄は石長さんがもう着るのなら着ていくと言って、祖父に着せてもらって入ってきたが、そちらもいつもと雰囲気が違い、浴衣は濃紺。

裾だけに柄が入っているが、大人の男といった感じで、カッコイイ。

石長さんはいつもの地味な感じの服とは全く違い、薄いピンクに白のストライプ。そして小さな小花と、アクセントに大きな花があしらわれた浴衣だったが、髪が結ってあるせいか、普段とは違う化粧のせいか、とても若く見える。

「石長さんすっごく綺麗!」

「ほほほほほ、本当か?この浴衣は最近の流行りと聞いて買ったのはいいものの、若い子が着る柄ではと……」

「そんな事ないよ。髪も上げてた方のが似合うよ!」

「うん、いつも下ろしてるから、新鮮だね。よく似合ってるよ」

「じ、純平さんも……よく着物が似合ってます」

「さ、あなた達は先に出るのでしょう?お昼は神社で食べるの?」

「そうなるな」

「ちゃんと石長さんを色々と連れて行ってあげるのよ?」

「分かってるって。翔平じゃあるまいし」

「俺かよ!」

ふたりして仲良く出て行くのを見送り、さっさと決めた分だけの勉強をしなさいと言われ、問題集と格闘し、お昼を食べたあとに祖父に呼ばれて居間に行くと、浴衣が出してあった。

「あ、浴衣」

「婆さんが着せておいてくれと言うから、ほら、早く脱いで羽織ってくれ」

「うん。俺的には暑いイメージがあるんだけどなー」

「そんなことは無いぞ?迦具土君も黒の浴衣を着て行ったし」

「あいつまた黒なの?飽きないなー」

そんな話をしながら着せてもらい、腰のあたりで縛ってもらうと意外と苦しくない。

「意外と動きやすいかも」

「鈴はどこに付けていても良いらしくて、持ってなくても弓は出るそうだ」

「え?そうなの?」

「まず使えるようになるのが必要だからだと思うが、私が若い頃は剣道をやってたからか普通に竹刀を持たされてたし……」

「人によって違うのかな?」

「鈴にも大国様の気が入ってるから、婆さんでも使えるのだろうが、気は抜いてはならんぞ?」

「分かってるって」

祖母も支度ができたと言うので、玄関に鍵を閉めたか確認してから祖父について行くと、神社とは反対の方向にむかう。

地図からするとかなり大回りとなるが、兄達が内回り経由で神社に向かったのだとしたら、俺達は外回り組ってことかと思い、祖父母について行く。

「爺ちゃん、大回りで神社に行くのなら……」

「あ、違う違う。こちら側にも小さいが神社があるんだ。そこに参ってから行こうという話になってな。大国様の神社と関係のあるところだから、お力をお借りできればと……あ、そこだ」

見ると、少し階段を上がったところに小さな祠のようなものがあり、その周りが黒く覆われている。

「これ、気持ち悪いやつ?」

「翔平、弓で真ん中を狙え。そうすれば散るだろう」

「え?壊れたりしない?」

「ものは壊さないんだ。婆さんは、その扇子を仕舞いなさい」

「あら、一振で風が出て便利だったのに」

婆ちゃん、一番武器を持たせたらいけない人だと思うのに……それだけ大国さんの力が大きいということなのか?
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