下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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非日常

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紫狐が中に入り、あらかた治療が終わったのか、ほかの狐たちも影に戻っていく。

「ひーたんも、おににぎ!」

「おにぎり欲しいの?」

うんうんと首を振り、女中が一つ小さなおむすびを渡すと、両手で上手に持ってパクパクと食べ、大根のお漬物までポリポリと食べている。

「雪ー、おににぎっ!」

「え?僕?」

そう言いながらも小さいのをひとつ作って渡すと、またパクパクっとすぐに食べ終えてしまった。

「ひーちゃん、お水飲む?」

「のむ!いちごもー」

「今?買いに行かないと無いかも……」

「むむぅー!おやつ、いちごっ!」

「分かったよ。それよりもさ、臭いって何?」

「くちゃいの!とやさんクッチャーイの!」

「多分、妖の臭いだと思います。かなり集まっていたので」

「何があったの?服もボロボロだし、那智さんもそうだったけど……」

「ちゃんと話しますから、お風呂行ってきていいですか?私の着物でいいので、玲にも一つお願いします」

祖母が用意すると出ていき、冬弥たちが出ていった入れ替わりに那智が起きてきた。

「俺も飯……なんだ?」

「那智さんが着物着てるから……」

「仕方ないだろう?借りるしかなかったから。ちょっと丈が短いけどな」

「那智が大きすぎるんですよ。私の着物でさえ短いとか文句言わないでください。この家で体格が似てるのは私しかいないんですから」

「はいはい、でも地味だよな?」

朱色の着物に黒に近いグレーの帯をしながら、地味と言える那智に、京弥も呆れたのか、それだけ文句が言えるなら体も平気だろうと背中を叩く。

ガタンと襖が勢いよく開けられ、入ってきたのは航平。

「見に行ったら居なかったんで、探したんですよ?何ほっつき歩いてんですか?」

「航平、仮でも今俺はお前の親父だぞ?」

「わ、分かってますけどっ!心配したんですから……」

「俺のことは人前では名前でいいが、それ以外なんて呼ぶんだったかな?」

「だ……」

「だ?」

「ダディ……」

その場にいたみんなが一瞬固まったあと、大笑いしたのは言うまでもないが、顔を赤らめて正座をして下を向いてる薄いブロンドのハーフが言うには結構似合っている。

「航平ちゃん、言いにくかったのわかったよ。僕なんてパパってまだ呼んでないもん。那智さんに言われて言ったことはあるけど……ダディって……あー、お腹痛い」

「だからいいたくなかったのに……辞めましょうよ人前ではっていったじゃないですか」

「ん?ここは親戚の家。お前にとっても親戚の家になり家族と一緒だ。分家ということは忘れちゃダメだが、普段はダディでいいぞ?」

「勘弁してください……」

「で?『だでー』とは何じゃ?」

「叔父上、外国ではそう呼ぶ国があるそうです。航平の母国でも子供はそう呼ぶと聞いたことがあるので、そう呼ばせようとしてるんですが……反抗期……ですかね?」

「違いますっ!ダディなんて小さい子しか言いませんよ……どこで覚えたんですか?」

「テレビ」

「那智さんでいいじゃないですか」

「嫌だ」

「那智よ、航平が困っておるぞ?まぁ、親子になるんならお前達で好きに呼び名は決めればいいが、那智が親とはのう」

「結婚する気は無いんですけど、航平ならって思ったんです。勘みたいなものですが」

「そうか。まぁ、儂等は孫が増えるのは歓迎じゃ。雪翔のいい兄であってほしいと願うだけじゃがな」

「それは勿論です」

航平の言葉に安心したのか、祖父も頷くと航平の食事も用意させて、しっかり食べろと二人に言っている。

早く何があったか聞きたいのに、なかなか話が進まないので、仕方なく冬弥たちがお風呂から戻ってくるまで足を伸ばし、壁にもたれかかる。
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