下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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非日常

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「前から思ってたんだけど、影にはどんな影響が出るの?」

「人や影によって違うけど、弱っていると影は治そうとするから力を使って疲れるとかはあるね。イライラしたりしてると、中の狐達にもわかるんだよ。伝染みたいにイライラしてしまうって言ったらわかりやすいかな?喜怒哀楽も同じだよ?」

「その時は出してた方がいいのかな?」

「人間界では出せないからね。ここなら出してもいいと思うけど、今はやめておいた方がいい。何時動くか分からないから」

「うん」

家の門の方が騒がしくなったので見に行きたいと言って玄関先まで行くと、那智がボロボロの姿で航平を連れてきた。

スーツは破れ、いつもセットしてある髪もボサボサになっていて顔も汚れている。

「那智さん!」

「航平は無傷だ。俺はもう一度戻らないと」

「無理じゃ……周太郎、床の用意をせい。他のものはお湯と着替えを。婆さん、花を出してやってくれんか」

「そうですね。花ちゃん、那智を治してあげてくれるかしら?」

「はい。春?夏?あれ……?」

「両方よ?」

「でも……二つするのは……」

「那智は大丈夫よ。お願いね?」

「はい」

那智が三郎に担がれて連れていかれ、花もそれについて行くので、自分もと思ったが祖父に止められる。

「お爺ちゃん?」

「花が春と夏をすると言っておったろう?春は痛みなどを和らげたり眠らせたりする。夏は傷を塞ぐんじゃ。邪魔になる」

「秋と冬は?」

「冬は相当の大怪我じゃから儂もほとんど見たことは無い。秋はあまり使わんが、冬を使う手前の作業のようなもので、感覚を奪うんじゃ。花は言葉が少し少ないから言い方を春夏秋冬に分けて使っておるだけじゃ」

「那智さんの怪我って……」

「何、那智にとってはかすり傷じゃよ。じゃが、気が乱れておるから、春の術で眠らせておこうということ……じゃよな?」

「そうですよ。お爺さんの説明でわかった?那智はひどい怪我はないのだけど、骨の一本や二本は持っていかれてると思うの。花ちゃんならすぐ直してくれるから平気よ」

「大怪我じゃん!」

「そうねぇ。でも、あれだけ元気なら回復も早いわ。あの子昔から『たふ』とか言うのだったかしら。航平君はどこも怪我はないようだけど、少し休む?」

「いえ、大丈夫です。いきなりちょっと来いって言われて連れ出されて……あ、これ雪翔の鞄に薬詰め込んでたけど……」

「ありがとう」

中をみると、本当に適当に詰めたのだろう。袋のまま入れてあるが、それがまた、どれだけ急いで居たのかがわかる。

「航平ちゃん、那智さんいつ怪我したの?」

「俺がバイトに行く道にいきなり来て、その時にはもうあんな感じだった。道には誰もいなかったけど、多分見えないようにしてたんだとは思う。浮いてたから……」

「空飛んでたの?」

「そんな感じ?」

「相当急いでおったようじゃの。とにかく、部屋に行くとしようか」

みんなで客間へと行き、座ってお茶を飲むが、その間に昴も着き一冊の本を渡される。

「俺も向こうに行ったんだが、冬弥にこれを渡されて雪翔に渡すように言われたんだ」

「え?」

糸で端を縛ってあるかなり古い本のようだが、パラパラと捲ると星のマークとは別に紙の御札のようなものの書き方が載っていた。

「冬弥さんたちは?」

「無事だ。玲がかなり強くてな、逃げながら結界を張って俺たちをこっちにやった後、冬弥達の所に行ってもらった」
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