下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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非日常

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そう言われ、家を出て裏口から厨房に入ると、丁度冬弥が野菜を持って裏口に来たところだったので、おはようと挨拶する。

「雪翔……」

「栞さん寝てなかったんでしょ?誤魔化すの下手なんだから……僕のせいだよね。ごめんなさい」

突然抱きしめられ、「雪翔はやっぱりいい子です!」と頭をグシャグシャと撫でられる。

「何でそうなるの?」

「だって、今までなら不貞腐れて出てこなかったでしょう?ちゃんと話を聞こうとしたり、謝ったりできるとは大きくなった証拠です!」

「喜ぶところ違う気がするんだけどな……」

「後で話をしましょうか。まずは今いる子たちのご飯が先ですから」

「うん」

朝は決まって焼き魚に卵と納豆が付いてくる定番の朝ごはんだが、栞が疲れているだろうと今日は各自にパンを焼いてもらい、ベーコンオムレツと野菜ジュースといった簡単な朝ごはんとなった。

「栞さんは今日は休んでてください。夕方に帰省する子が殆どなので、夜から忙しいですから」

栞を休ませ、片付けを終わらせてから、ダイニングの奥にある冬弥お気に入りの和室で話すことになった。

「あ、そこの椅子に座ってください。低いんですけど」

「うん」

「航平君の話ですよね?」

「うん。僕、怖くなって逃げたんだ。朝も起きていくの嫌だったけど、またみんなに心配させちゃうし、怒られるのも嫌だし……」

「頑張りましたね」

「そんなことは……」

「いえ、今までの雪翔ならば逃げてたと思いますよ?優しいことと気が小さいことは違いますからねぇ」

そう言われて喜んでいいのか微妙だなと思いつつも、全部聞きたいと冬弥にお願いする。

「今、航平君のお母さんがイギリスから日本に来ているようです。私も那智の話だけ聞くわけにも行かないので、昨夜見に行かせました。男性と赤ちゃんと一緒でした」

「え?」

「聞いていたのはあちらでお母様が再婚されること、父親の数度の再婚に異母兄弟の事。自分だけハーフなのに、日本人よりの顔立ちではないので、虐げられていたこと。これで悩んでいたそうで、大学を機に一人暮らしの場所を探していたそうです。本当に偶然ここを見つけ、下見の時点でのこちらの条件に、親と一緒にとあったので三人で来たのでしょう。この後は雪翔も知ってますよね?」

「うん。再会して、僕本当に嬉しくって……航平ちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だったから引っ越した時僕泣いたの覚えてる」

「その引越しの後に、父親は三度の離婚と三度再婚をしています。今の奥さんは四度目の再婚相手でして、子連れ。しかも、今いるだけで連れ子とあわせて五人子供がいます。航平君だけハーフでした。彼のようにお母さん側に似ると言いますか、あちらの血が濃いのでしょうが、その中で暮らすのはきつかったと思います。今航平君はどうやって生活してると思いますか?」

「え?家賃が親で、食費とかバイト?」

「違います。大学の学費は父親が出していますが、家賃や食費は自分で稼いでるんですよ。カフェでしたっけ?あそことバーとの掛け持ちでしたかね。バーもオープンだけ手伝っていたようですが、それでも18:00~22:00まで。カフェと合わせたら1日中働いてました」

「じゃあ大学は?」

「今は1年なので必要最低限取っていると聞いてますが、私も大学の仕組みは詳しくないので……」
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