下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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非日常

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「バーに行きながらって無理じゃないですか?他のことはいいとしてもですが」

「週二日と、忙しい時だけでいいそうだし、こいつ空手できるだろ?そのへんの妖怪共には負けることは無いさ」

「私の許可ねぇ。ちゃんと色々調べはつけたんですよね?」

「裏もとった。報告させようか?」

「良いです。書面にして提出してくださいね?でもどこからそんな話になったんです?」

「俺がたまたま聞いたのが切っ掛けで。雪翔が子になれたのなら、俺もなれるのかって話をしてて。いくつか質問されて答えてたら、旅行中にどんどん話が進んでいったんです。雪翔は優しいから、多分人を攻撃するとかできないと思うんです。俺と二人なら俺が攻撃で雪翔が守りで丁度いいのにって話もしたんですけど……」

「なるほど。分かりました。私が後見になりましょう」

「冬弥さん!」

止めるまもなく、冬弥の指先が航平の額に当てられ、すぐに終わりましたと言われる。

「な、何したの?」

「私と彼の絆を作ったんです。雪翔にもありますよ?今から那智の狐は航平君を守ります。それと……契約したんですね?」

「はい」

「契約って何?」

「俺、歳をとるのを遅くしてもらったんだ」

「え?」

「簡単に言っちゃうと、みんなよりも長生きするって事で、雪翔がこのまま50になっても俺の見た目はこのまま……かな?」

「人じゃなくなるの?」

そう言って冬弥と那智を見ると、そうではないと首を横に振っている。

「人のままです。滅多にそんな許可下ろしませんが、これは昴さんの気ですね。那智が天狐になれば、那智の気で出来ますが、今は昴さんが代わりにと言ったところでしょうか。雪翔にも話そうと思ってたんです。ですが、強要はしません。よく考えて答えを出してください。そのまま寿命を全うするのか、少し私たち側へ来るのか……」

そう言われ、よく考えたらよく生きて70年くらい。その間どんどん自分は老いていくのに、冬弥たちはまだまだ生きる。その為になにかの契約をして航平のように寿命を延ばすのもありなのだろう。

「雪翔、お前はゆっくり考えればいい。航平は自分で決めたんだ」

「うん……でも、人のまま年取らないって……見た目とかどうするの?」

「それは狐に代わりをさせるしかないな」

「那智さんは航平ちゃんを幸せにできるの?本当に子供が欲しかったの?」
責め寄っていると、冬弥に「雪翔!」と大きな声で言われ、その時に自分が泣いていることに気づく。

「ぼ、僕……部屋行ってくる!」

逃げる様に部屋に行き扉を閉め、布団をかぶって何も聞こえない、聞かないと目を瞑る。

途中、紫狐や航平、那智の声がしたが返事をせずに布団の中にうずくまり、声を殺して泣いた。

次の日は起きていかないとまた怒られてしまうと思って、おはようとダイニングへ行く。

「お、おはよう。喉乾いたでしょ?お茶飲む?」

「麦茶……ある?」

「作ってあるわよ。ちょっと待っててね」

栞が氷を入れたグラスに麦茶を入れてくれたのでありがとうと顔をみると、目の下にクマが出来ていた。

「栞さん?寝てないの?」

「眠れなくて。冬弥様は朝の見回りに社に行ったの。お盆前後は妖も沢山出るから、私の社の方にも行ってもらってるんだけど、気にしてたわよ?」

「僕、何も聞いてなかったし、いきなりあんな話されても付いていけなくて……ごめんなさい」

「誰も怒ってないわ。それに、那智様も雪翔君がそう言う反応するってわかってたみたい」

「だったら何で?」

「いつ言っても、雪翔君は同じ反応すると思ったと思うのよ。それに、まだ手続きは完全に終わってないから、すべてが終わってから聞くより良かったと思うの。私も驚いちゃって何も言えなかったもの」

「航平ちゃんの親は術で何とかするの?」

「最終的にはそうなるけど、どうしてなのかは冬弥様に聞く?」

「待ってたら航平ちゃんは話してくれないだろうし、帰ってきたら聞こうかな……」

「今日から下宿も朝から始めるから、私は支度に行くけど……無理しなくていいのよ?」

「僕も行く。逃げてちゃダメなんだよね?」

「そうね。行きましょうか!ほら、笑って笑って!」
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