下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
51 / 76
非日常

.

しおりを挟む
ご飯ですよと冬弥が呼びに来てダイニングに行き、珍しく焼きそばと味噌汁といった簡単なご飯だったのにも驚いだが、その横のお皿に卵で巻いた練り物が置いてある。

「これ何?」

「新作です。食べてみてください」と言われ、いただきますと、一つ口に入れる。

梅としそとチーズの旨みと、巻いてあるのは竹輪。

「竹輪だ!」

「どうです?おつまみにもいいし、お弁当にも良くないですか?」

「これどうやったの?」

「竹輪に縦に切れ目を入れて、しそと梅とチーズをいれて、卵一つを薄くフライパンにひいてクルクルと。三本まで作れたので、6本入の竹輪なら卵二つでできますね。残り半分はきゅうりを入れて卵を巻かなくてもいいかもしれないです」

「僕、きゅうりがあるのも食べたい」

「次のお弁当で入れましょうか」

「うん。おつまみなら、みんな喜ぶね」

「最近は皆さんと飲まないですからねぇ。たまには前のようにおつまみを持って一緒に飲もうかと思いまして」

「お酒が絡むとアイデアが出るんですって。夕餉のおかず考えてほしいのに……」

「家の方は料理の本見てますよね?」

「和食はいいんですけど、洋食も雪翔君の年なら好きだと思って。まだ美味しそうで簡単なもの沢山載ってましたから、お休みごとに挑戦しようと思ってます」

「和食はないんですか?」

「買いましたけど、和食は冬弥様のが上手なので。中華の本もありますよ?」

「酢豚とか良さそうですねぇ。天津飯に、チンゲン菜とイカの餡掛け炒めとか……」

「それは下宿でしてよね?酢豚の時は僕も食べに行きたいけど」

「学校ない日は来てるじゃないですか」

「無い日に作ってね?」

「はいはい。航平君も飲みます?」

「いや、話が済んでからにします」

「だから未成年なの!」

「海外ではもう成人ですよね?」

「国籍がこっちなので、20からになりますけど」

「残念です」

「しっかり飲ませてるのに!」

「雪翔、大抵はみんな乗りで飲んでるぞ?」

「僕、大学怖くなってきた……」

食事を終え、航平と二人で後片付けをし、ちょうど終わったところにインターフォンが成る。
鳴ったと同時にすり抜けてくるので、すぐに那智とわかるのだが、相変わらずスーツを着ている。

「お前病院いってねーだろ!」

「あ!」

「あ!じゃないよ。明日行けよ?」

「そう言えば病院に行ったら連絡しないといけないんでしたねぇ。パパっと治したいんですけど、だめですかねぇ?」

「その糸取れたらいいんじゃないか?」

「それもそうですね。で、どうしたんです?」

リビングの一人用のソファにしっかりと腰を下ろしながら、「航平のことでな」と、ぶっきらぼうに言う。

「今、俺の狐がいくつか回ってるからもう少し待ってくれ」

「はい」

「なんの話なんですか?」

「あー、栞お茶くれお茶」

「那智様も今日は飲まないんですね」とお茶を入れに行き、紫狐たちも大人しく隅っこで遊んでいるので、会話のない空気がとても嫌な感じがした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

下宿屋 東風荘 4

浅井 ことは
キャラ文芸
下宿屋 東風荘4 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 大きくなった下宿に総勢20人の高校生と大学生が入ることになり、それを手伝いながら夜間の学校に通うようになった雪翔。 天狐の義父に社狐の継母、叔父の社狐の那智に祖父母の溺愛を受け、どんどん甘やかされていくがついに反抗期____!? ほのぼの美味しいファンタジー。 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 表紙・挿絵:深月くるみ様 イラストの無断転用は固くお断りさせて頂いております。 ☆マークの話は挿絵入りです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 アルファポリス文庫より、書籍発売中です!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...