下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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夏休み~狐一族温泉観光ツアー後編~

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朝起きるとまだみんな寝ており、仕方ないと一人で風呂場へと向かう。

何とか色んなところに掴まって露天風呂まで行くと、朝日がまだ登りきっていなかったので、急いでかけ湯をして湯船に入り、のんびりと太陽が登っていくのを見る。

「綺麗ですね」

「誰!?」

「私を覚えていませんか?」

「あ、バス停の……なんで服着てここにいるの?それもここ外だよ?」

「ちょっと術を使った迄です」

「術……?僕に何か用ですか!?」

「私もあなたと同じ陰陽師です。そんなに警戒しないでください。ただ、話がしたくてきただけなので」

「ぼ、僕はなんにも話すことない!」

そう言って風呂を出ようとするも、何かされたのか体が動かない。

「ちょっとだけ話を聞いてくれたら解きますよ。君、まだ式たちを使いこなせていないでしょう?私が教えて差し上げると言ったらどうします?」

「僕は今のままでいい」

「おや?そうですか?ほかの狐の皆さんのことも守れるようになりますよ?今みたいに助けてもらってばかりではなくね?」

「それは……」

図星だった。

何も出来ていない。
いつも周りに助けられ、大切にされている事は言われなくとも自分でよくわかっている。

「バスの事故。あなたがしたの?」

「あれは本当に偶然なんですよ?私も巻き込まれましたし」

「冬弥さん見たってあなた?」

「そうです。嘘はいけませんからね」

「僕に用があるんでしょ?だったら冬弥さん達を巻き込まないで欲しい」

「おやおや、思っていたよりもはっきり物を言う子だ。余計に気に入りました。いつか君は私を頼ってくると思いますよ?それも自然な形でまた会うと思います。では……」

「ちょっと!」

下は崖になっているのに、ふわりと落ちるというよりは降りていってしまった。

「あ、動く……」

ガラガラっと音がして、坊ちゃん!と三郎と四郎が入ってくる。

「お怪我は?」

「無い……体が動かなくなる術をかけられたけど、今は動ける……」

周りを全部見て四郎が居ないと言ったが、あれは本人なのだろうか?という疑問が残った。
降りたところは見たが、消えるように居なくなった。
本で読んだ式神が本人に化けていたなら、術を消せばいいだけだ。

「坊ちゃん?」

「大丈夫。せっかくだけどもう出るよ……」

「何か言われたのですか?」

「うん……でも少し考えさせて。みんなには言わないで欲しいんだ。考えがまとまったらちゃんと僕から話すから」

「分かりました。ですが今日のお出かけは……」

「平気だと思う。なんとなくだけど、そんな気がするんだ。もうご飯だよね?戻ろうか」

風呂から出て廊下を車椅子で進んでいると、栞が既に着替えて呼びに来るところだった。

「お風呂って聞いて来たの。ひとりで平気だった?」

「三郎さんたちが来てくれたから平気。翡翠たちは?」

「翡翠ちゃんはいい子にしてるわよ?昴様が愚図ったら朝ごはんのデザートあげないって言ったら泣き止んで、紫狐ちゃんは航平君にベッタリね。好きになっちゃったのかしら?」

「えー!僕の航平ちゃんなのにっ!」

「二人共二人で一人って感じよね?早く行きましょう、ご飯なくなっちゃうわよ?」

「ご飯何かな?」

「まだ見てないの。やっぱり冬弥様も腕が動かしにくいみたいで、手伝わないといけないし」

「僕もできることは手伝うからね?」

「ありがと!」
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