下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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夏休み~狐一族温泉観光ツアー前編~

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待っていたらすぐに祖父母と昴に航平が来て、他のみんなは旅館で待っているとのことだった。

「栞さんは大丈夫?」

「大丈夫ですよ。あちらの御両親がいらしてよかったわ。雪翔は怪我はないわね?」

「うん、白たちが守ってくれたんだ。でも……」

「何、雪翔のせいじゃないわい。冬弥も人助けの負傷じゃろう?なら気にせんでもいい」

「お爺ちゃん……」

「あの、これどうぞ」

航平が那智にコーヒーを渡し、お茶やコーヒーを配ってからみんなで飲んで待ち、呼ばれて中へ行くと、上半身裸にジーンズ姿の冬弥が、腕を包帯で巻かれて座っていた。

「いやぁ、傷は深かったんですが、止血がよかったのと運も良かったです。大きな血管は切れてませんでしたし、縫合のみで済みました。但し、10日は動かさないでくださいね。一週間後の抜糸が済むまではダメです。お薬出しておきますので後は地元の病院で大丈夫ですよ」

ありがとうございましたとお礼を言って、航平の連絡で持ってきたのか、祖母がシャツを冬弥に渡して着せている。

「車は借りてきた。大型だからみんな乗れるだろ」

「昴さんが運転してきたんですか?」

「俺に出来るわけないだろう?この坊主だ!」

「航平ちゃん?」

「免許は持ってるから。それにこれ、八人乗りの乗用車だから俺でも運転できるよ」

「良かったです。昴さんの運転では絶対に事故しますから」

「おいおい、信用ないなぁ。あ、嫁さんだいぶ堪えたみたいだ。早く帰ってやらないとな」

「あ!これ貰ってたんだ」

そう言って冬弥にサファリパークの人からもらった名刺と連絡先の紙を渡す。

「那智、電話しておいてください。あの麻酔というので眠くて仕方ありません」

「腕だけなのに?」

「私は効きがいいんですよ」

冬弥が目を瞑っている間に、那智が電話して病院名と怪我の診断書のことなどを話、旅館名を言っていた。

旅館について部屋に行くとみんな揃っていて、夕飯はまだだと呑気に京弥が言っている横で、栞がしくしくと泣いていた。

「冬弥様!大丈夫なのですか!?」

「大丈夫です。心配をかけました。しばらく動かしてはいけないそうなんですが、縫われてしまった以上は医者にかからないといけません。傷跡は薄くなるそうです」

「一体何があったのですか?那智、夏樹、重次!あなた方がついていながら何をしていたのです!」

「バァバ、怒らないで……乗ってたバスが故障したんだ。冬弥さんは車に残された運転手さんを助けて……那智さん達は僕達のこと守ってくれたの」

「雪翔、だからと言って……」

「まぁまぁまぁ、これだけで済んだんだ。奥さんもそんなに怒らないでください。栞さんは落ち着いて。俺も一緒に行かなかったのにも責任があるんで……ね?」

「天狐様にそう言われたら何も言えないじゃないですか!」

祖母がまくし立てている隣で、珍しく祖父がぼーっとしており、「ジイジ?」と声をかける。

「あ?あぁ。さ、みんな料理が来るよ、座ろうか」

「そうですよ。周太郎たちもほら!」

祖母が言うとみんなが従うので、素直に座ったが、みんなくらい顔をしている。
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