下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは

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夏休み~狐一族温泉観光ツアー前編~

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「え、漆さん達も?」

「いかんのか?翡翠は喜んでおるぞ?」

「いえ、珍しいなと思っただけですっ!」

「そうじゃ、あのプラチナブロンドの坊主をここへ呼んでくれぬか?」

「航平ちゃん?どうして?」

「少し興味があるだけだ。何もしない」

わかったと返事をし、航平にリビングに行くように説明すると、普通に漆たちの隣に座り挨拶をしている。

「漆相手に平然としてますねぇ」

「航平ちゃんて、怖いもの知らずというか、なんと言うか……」

「時には良いことと思いますよ?私達も食べてしまいましょうか。水狐、カレーの用意してリビングに持っていってください。金と銀のは小さめの器ですよ」

「冬弥様、我らは……」

「あちらに持っていったらみんなも食べてください。翡翠にいちごだけ触らせないでくださいね?」

「はい。もう籃狐が冷蔵庫の中に隠しました」

そう言ってカレーをよそって配ってくれる。

最近車の運転をしているのを見たことがないが、ちゃんとエプロンに車の絵がついているので、誰かが刺繍したのだろう。

いただきますと手を合わせてご飯を食べながらも、つい、リビングの方が気になりチラチラとそちらを見てしまうが、自分が想像していたのと全く違い、航平は紫狐と一緒に翡翠の世話をしながら、漆や琥珀、他の狐たちとも楽しそうに話ながら食事をしていた。

「雪翔、気になります?」

「うん」

「大丈夫よ。家の雫や茜も懐いてるみたいだし、みんな笑ってるもの」

「そうだけど……」

「ほら、食べてください。こちらでももう少し食べられるようになってもらいたいですし、明日からは大変ですよ?」

「ねえ、温泉てどこの温泉なの?」

「着いてからのお楽しみにしましょう。変なところじゃないですよ?私も料理が楽しみです。これもふたりが頑張ってくれたおかげですからねぇ」

「まさか総合優勝すると思わなかった」

「あの空を飛ぶ術が効いたのではないですか?観客もみんな驚いてましたし、家の父上なんて口をパクパクさせてましたから」

「うちの両親もよ。『あらやだ、どうやって浮いたのかしら?』って母が感心してたもの」

「黒龍と白龍のおかけなんだけどね。全然返事なかったから焦っちゃったけど。それに、冬弥さんと那智さんで目立ってた気がするし。それを考えると、航平ちゃんすごいなぁって思う。僕から見ても王子様って感じだったもん」

「たしかに綺麗な顔立ちですし、人を惹き付ける魅力がありますからねぇ」

「あ、ほら。舞台の真ん前の御簾だけど、何人居たの?」

「三人です。城に誰か残しておかないといけませんし、それにあの方々もずっと城にこもってるので、ああいった行事が楽しみなんですよ」

「城から出られないの?」

「出ますよ?ですが、休憩に浮遊城に戻る程度です。かなり高齢ですからねぇ。とっとと引退してくれないかといつも思いますけど、判断力や指揮力、他にも各々優れたところがある方々なので、早々変われはしないんですけどね」

「昔のお殿様みたいだね」
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