下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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江戸屋敷

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夕餉は筑前煮だった。

根菜類はよく食べるそうで、魚料理も多いと言う。
肉料理は食べないこともないが、魚が豊富なのでそれで足りてしまうと聞いた。

「魚は嫌いか?」

「好きだよ?つみれ汁とか特に。煮付けはちょっと食べにくいなって思う時があるから、焼くのが一番好きかな」

「明日の川ではたくさん釣れるといいのぅ」

「うん。行くってわかってたら水着持ってきたんだけどな」

「なに、そんなに深いわけじゃないから、子供たちも着物のままで足をつけておる」

「街にいた子達は着物って言うよりも浴衣みたいなの着てたね」

「雪翔達の世界で言う中学生辺りまでは多いかもしれんな。大きくなると袴を履いて学校に行くんじゃ」

「学校があるの?」

「ありますよ?そうねぇ、読み書きと計算くらいかしら?上の学校に行くともっと難しいことを習うけどねぇ」

「母上、雪翔なら上学校に行けるのでは?頭もいいし、既に読み書きもできる。それに、文学の方が得意なら役人向きだと思いますよ?」

「こちらに住むならそれもいいでしょうけど、役人向きかしら?」

「えっと、警察みたいなの?」

「他にも向こうで言う市役所などのような仕事もあるよ」

「へえ……向こうとあまり変わらないんだね」

翌朝は早くに起こされ、涼しいうちに行こうと河原へ行き、椅子を置いて釣具を出す。

餌の付け方から教えてもらい、周太郎も一緒に釣りを始めるが、待っても待っても魚は来ず、餌だけ食べられると言うことが殆どだった。

「お爺ちゃんも周太郎さんも釣れてるのに!」

「ちゃんと竿の先を見ておるか?こう、ピクッとしたらエイっと持ち上げるんじゃ」

「見てるけど分かりにくいよ……」

「周太郎、あれを用意してくれんか」

「はい」

畳んだ網を持って周太郎が川に入っていき、網を張る。

「何してるの?」

「良いからこれを持って……かごはここに引っ掛けて……」

「何これ?」

「川に入って掬ってこい」

「え……」

「周太郎、支えてやってくれ」と祖父が言うと、あみの近くまで連れていかれて下ろされる。

「この編んだ網ですくえるの?」

「見本としてはこうです」とスコップのような形の網を川の中に入れて魚が来た所で掬い上げるという簡単なものだったが、支えてもらって立っていても、膝が曲がりにくいので中々難しい。

「そっと付けてからは魚が来るまで待ってください」

「う、うん」

待っていると一匹中に入ってきたので、掬い上げる。

「やっと1匹だ!」

「慣れるとこの方法のが量が捕れます」

「網から逃げれないもんね」

「はい。捕りすぎてもいけませんので、30匹もいればいいかと」

「そんなに?」

「皆さん2匹ずつで10匹。使用人が1匹ずつで20と言ったところでしょうか」

「そんなにいるの?」

「はい、裏方の仕事で5・6人は見たと思いますが、他にも庭師や針子などもいますので」

「あれだけ家が大きいとそんなにいるんだ。僕、頑張ってとるね!」

よしっ!と川の下に網をつけて魚が寄ってくるのを待って引き上げ、それを繰り返すと腰につけた魚籃 びくの中はすぐに一杯になった。
魚は鮎に似ているが、自分の知っている鮎とは少し柄も違う。

「お爺ちゃん、沢山捕れたよー!」と手を振ると、戻ってきなさいと言われ、周太郎におぶってもらって岸まで行って足を拭く。

バケツの中に魚を移している間に、網を回収して戻ってきた周太郎に、少し早いけどと握り飯のお弁当を渡す。

「いえ、でも私は……」

「一緒に食べようよ!お婆ちゃんと幸さんに作ってもらったんだ。いいでしょ?お爺ちゃん」

「構わんよ。周太郎、雪翔の言う通りになさい」

「では有難く」

食べながら、他にどんな魚が居るのかと聞くと、ここの川では他にも鮭のように大きい魚も捕れる事があると言う。
海まで行くにはかなり遠いらしく、近い海でも時間がかかるので、運んでくる頃には砂だしが終わっているから調理が楽だとみんなが言っているそうだ。
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