下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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江戸屋敷

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だんだん壁のある家が増えてきて、通りには武士のような人や、いい着物を着た人が多くなってきた。

「栞さんの家は?」

「家は商家なの。だからもう少し先」

「だんだん壁ばかりになってきたよ?」

「もうすぐ着くからの」

壁沿いに進んでいくと、時代劇で見るような門に大きな木札が掛けられ『役場』と書いてあるのは読めた。

数分行くと、栞は反対方向なのでと分かれ道を進み、自分たちは真っ直ぐに進む。

真っ白な壁に沿って行くだけで、すべて同じ家に見えてしまうが、よく見ると瓦の一部に家紋らしきものが彫ってあるのがわかる。

「ここじゃよ」

目の前には役場よりも大きいのではないかという門があり、その門を開けて早くせんか!と入っていく祖父。

「帰ったぞ!」

そう言うと使用人が出てきて、奥様!奥様ー!と騒いでいる。

「あら、雪翔じゃない。いらっしゃい」

「えっと、今日は。突然来てごめんなさい」

「何言ってるの、大歓迎よ」

そう言ってさらに使用人を呼び、荷物を運ばせる。

中に入るとちゃんとスロープが用意してあり、横には手摺も付いている。

「これって……」

「いつ来てもいいように作らせたんじゃ。段差のところには全てついておるからそのまま上がればいい」

「お邪魔します……」

こちらへどうぞと案内されるままついて行くと、昔で言う中国の寝台のようなものが付いており、そこに布団が敷いてある。

それに机に本棚まであり、車椅子のままでいいように板の間になっていた。

「気に入ったか?」

「作ってくれたの?」

「人間界と同じには出来んかったが、ちゃんと大工に頼んでしてもらったんじゃ。ここが雪翔の部屋じゃよ」

窓からは庭も見え、小さいが縁側もついていて日当たりもいい。

「ありがとう」

「気に入ったか?」

「うん!」

その後は荷物を置いて家の中を案内してもらうが、かなり広く、トイレと食事の場所を覚えるだけで精一杯だった。

「全部お客さんの部屋?」

「そうでもないが、たまに友人が来るでの。宿屋のように使われておるよ」

「それじゃぁ家が宿屋みたいじゃありませんか!」

「そうじゃが、前も旅の途中で昔馴染みが寄って滞在したじゃろう?」

「構いませんけどね。あ、そうだわ。お狐ちゃん達だして」

言われるまま紫狐と金銀を出すと、空気が違うのか喜んでいる。

「家の中では出しておいてもいいのよ?狐の街だから、外でも連れて歩いて構わないし。悪い事さえしなければ影のままじゃなくてもいいの」

「良かったね」

「うん!」と二匹がはしゃぎ、しーちゃんはウキウキと車椅子を押してくる。

「さてと、儂は役場に行ってくるから、自由にしていていいぞ?書庫の本も好きなのを読んだらいい」

そう言って出ていったので「役場?」と聞くと、「雪翔の滞在のことを言いに行ったのよ。人間界からのお客さんとなると手続きもいるの。雪翔は冬弥の子だから本当は要らないんだけど、多分長男の京弥に知らせに行ったのねぇ」

その後書庫の場所を教えてもらい庭に出ると、尻尾の出てる人が薪割りをしていた。

「耳とか尻尾もいいの?」

「もちろんよ。みんな自由にしてるわ。家はちょっと広いでしょう?だから使用人も多くてねぇ。ほら、そこから薪を入れてお風呂を沸かすの。その横は土間になっていて、食事を作るところ。後は小さい入口から野菜や魚なんか持ってきてくれるわねぇ。後うちのお嫁さんなんだけど、今出掛けてて居ないのよ。夕餉で会えるわ」

「うん」

どこにでも自由に出入りしてもいいと言われ、時間の流れも誤差が人間の世界とほとんど変わらないと聞いて安心する。

こちらも暑いから季節もよく似たものなのだろう。
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