下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
18 / 102
学校

.

しおりを挟む
面会は夜の十九時までとなってはいるが、会社帰りの人などもいるので、静かにしていれば消灯前の二十一時頃までは中に入れるらしい。

ガラッと戸が開き、那智が入ってくる。黒いスーツに着替えているが、どう見てもホストにしか見えない。

「これか……金は返しに行ってくる。来た時に豪華な車が止まっていたからもうすぐ来るんだろう」

「慌ただしくてすいません」

「今は俺が冬弥の代わりだ。気にすることは無い。それにしても、人間とは本当に愚かな生き物だな……」

「いい人もいますよ?」

「いるにはいる。紫狐から聞いたが、俺も長く生きてきているから、人間の仕組みはわかっている。お前は録音とやらをしっかりとしておけ」

「どうしてお狐様は携帯持たないんですか?」

「必要ないから……と思っていた。繋がりのある者とは連絡はとれるし、影を使えば何も支障がなかったからな。だが、今回の事で持っていないと困ることも分かった。明日にでも買いに行ってくる」

コンコンとノックの音がし、今度は那智が返事をする。

相手方が名前を名乗って、弁護士だと言う人が後は自分が引き継ぐと言って那智と話をする。

「……という訳で、子供の喧嘩ですし将来のことを考えて示談という事に。勿論入院費は支払いますし、その後は示談金でとなるのですが」

那智が黙って聞いていたので弁護士もすぐに話し合いは終わると思っていたのだろう。

「示談はしない」との言葉に「え?」と言う弁護士と親。

「ちょっと貴方、そんな夜のお仕事のような格好したチンピラに何がわかるの?うちの子の将来も掛かってるのよ?聞いてる?と言うか理解してる?お宅が警察に行ったせいでうちの子も精神的に落ち込んでるのよ。こっちが慰謝料欲しいくらいだわ!」

「と言ってますけど弁護士さん。この場合、こちらが取り下げなければ警察からの事情聴取、裁判となるんですよね?うちの子の精神的苦痛?お宅のお子さん壁に持たれて携帯いじってますけど、それ落ち込んでるんですか?将来がかかってると言いましたが、こちらも掛かってるんですよ。それなら雪翔も精神的苦痛で訴えないといけませんねぇ」

「君、脅すつもりかね?」

「そちらが言われたので、なら家も同じですねと言っただけですよ?」

「とにかく、見舞金は受け取ってちょうだい!それで足りるはずよ!」

「受け取るつもりはありません。先程もうひと方が置いていきましたが、私が不在でしたので今から返しに行くところです。明日にでもこちらも代理を立てますのでそちらで話し合って頂けますか?」

「分かりました。これ名刺ですのでいつでも連絡をください」

そう言って相手が帰っていってすぐ、今から金を返しに行ってくると窓から出ていってしまった。

「えっと、保存して……と。しーちゃんも疲れたでしょ?下宿屋に戻ってもいいけど」

「影に戻ります!」

痛み止めを飲んで、二十一時までなんとか起きていたが、もう誰も来ないだろうと電気を消して布団に潜る。

寝返りが打てないのが辛いが、仕方ないと言い聞かせ、うとうととそのまま眠ってしまう。


朝、やはりまだ熱は引かず、食事も吐いてしまったので、水分をこまめに取るようにし、ベッドを起こして本を読んで過ごす。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

下宿屋 東風荘

浅井 ことは
キャラ文芸
神社に憑く妖狐の冬弥は、神社の敷地内にある民家を改装して下宿屋をやっている。 ある日、神社で祈りの声を聞いていた冬弥は、とある子供に目をつけた。 その少年は、どうやら特異な霊媒体質のようで? 妖怪と人間が織り成す、お稲荷人情物語。 ※この作品は、エブリスタにて掲載しており、シリーズ作品として全7作で完結となっております。 ※話数という形での掲載ですが、小見出しの章、全体で一作という形にて書いております。 読みづらい等あるかもしれませんが、楽しんでいただければ何よりです。 エブリスタ様にて。 2017年SKYHIGH文庫最終選考。 2018年ほっこり特集掲載作品

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜

西浦夕緋
キャラ文芸
15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。 彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。 亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。 罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、 そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。 「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」 李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。 「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」 李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*°☆.。.:*・°☆*:.. 楽しい旅行のあと、陰陽師を名乗る男から奇襲を受けた下宿屋 東風荘。 それぞれの社のお狐達が守ってくれる中、幼馴染航平もお狐様の養子となり、新たに新学期を迎えるが______ 雪翔に平穏な日々はいつ訪れるのか…… ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

宵待ちカフェ開店です

真風月花
ライト文芸
寂しさを抱えた者が暮らす宵待荘での日々は、とても穏やか。沙雪は、母親代わりのすみれさんを助けるために、下宿している宵待荘でカフェを開いている。なのに沙雪の大好きな准教授、伊吹先生が帰国するから、心穏やかでなんかいられない。

佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴
キャラ文芸
高校一年生のカズキは、ある日突然現れた“黒い虎のような猫”ハヤキに連れられて 長崎の佐世保にかつて存在した、駅前地下商店街を模倣した異空間 【佐世保地下異界商店街】へと迷い込んでしまった。 ――神・妖怪・人外が交流や買い物を行ない、浮世の肩身の狭さを忘れ楽しむ街。 そんな場所で、カズキは元の世界に戻るために、種族不明の店主が営むジャズ喫茶 (もちろんお客は人外のみ)でバイトをする事になり、様々な騒動に巻き込まれる事に。 かつての時代に囚われた世界で、かつて存在したもの達が生きる。そんな物語。 -------------- 主人公:和祁(カズキ)。高校一年生。なんか人外に好かれる。 相棒 :速来(ハヤキ)。長毛種で白い虎模様の黒猫。人型は浅黒い肌に金髪のイケメン。 店主 :丈牙(ジョウガ)。人外ジャズ喫茶の店主。人当たりが良いが中身は腹黒い。   ※字数少な目で、更新時は一日に数回更新の時もアリ。  1月からは更新のんびりになります。  

遥か

カリフォルニアデスロールの野良兎
キャラ文芸
鶴木援(ツルギタスケ)は、疲労状態で仕事から帰宅する。何も無い日常にトラウマを抱えた過去、何も起きなかったであろう未来を抱えたまま、何故か誤って監獄街に迷い込む。 生きることを問いかける薄暗いロー・ファンタジー。 表紙 @kafui_k_h

処理中です...