天満堂へようこそ

浅井 ことは

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薬屋

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裏の家まで運ぶと、いつも悪いねぇとお茶とお茶菓子が出される。

もちろん遠慮なく頂く。

しかし、今日はやけに犬の鳴き声がうるさい。

「犬……飼ってましたっけ?」

「庭でねぇ、産んじゃったみたいなのよ。あなた要らない?何て種類かまでは分からないんだけど。後この子だけなの」

ちょっと茶色い斑があり、思ったより可愛い顔をしている。

「私は構いませんけど、おばぁちゃんはいいんですか?」

「私じゃ面倒見れないもの。近所の獣医さんに来てもらって注射とかは済ませたんだけど、お散歩にもいけないしねぇ。若い人に見てもらった方がいいと思うの」

じーっと目を合わせるとすぐに懐いてきたので、可愛がらせてもらいますねと犬を貰う。

こんなに簡単に貰っていいのかとは思ったが、足にくっついてきているので無理に離すことができなかった。
それだけなのだが、犬を飼ったことがなかったため興味もあった。

おばぁさんにお礼を言ってから家を後にし、獣医さんのところへ向かう。

今日来る予定の客は一人だけだから待たせておけばいいだろう。


「こんにちは」

犬をかかえ病院に入る。

ここの医者もかなりの高齢だが、まだまだ元気に動物達を見ている凄腕でもある。

「こんにちは。あれ?この犬っておばぁさんの所の子じゃないかね?」

「さっき譲っていただいて。犬種もわからないし、何ヵ月ぐらいなんだろうと思いまして」

「この子は今4ヶ月だよ。生まれてすぐに婆さんの所に行ったから間違いない。
注射も終わってるし。健康診断だけするかい?」

「お願いします」

診断はすぐに済み、飼い方を教わって種類を聞き帰る。

ジャックラッセルテリア

犬の種類だ。

名前はどうしようと思いながら、近くの雑貨屋で首輪がわりにするためのバンダナを買う。
早速犬の首に巻き頭を撫でると気に入ったのかワンと元気に鳴く。

店につきまだ客は来ていないことを確認し、
張り紙を剥がす。

店に犬の番犬と言うより、看板犬のように置いている店はいくつかある。
この犬はもらってきてからまだ鳴かないし出てもいかないので、店に置いてある犬用シートを自宅におき、名前を考える。
考えながらも喋れないとつまらないなと作りおきの薬から少し調合し直し犬に与える。

「聞こえるか?聞こえたら話してみるといい。
私にしか聞こえんから構わん」

「聞こえます。名前をつけてください」

名前……か。

「ここは薬屋でな。天満堂と言う。
私の名前は、天満 結月 てんま ゆづきと言う。わかったか?」

「はい」

「そうだな、私が人間ではないことはわかるか?」

「はい」

「では、これを舐めろ。そうしたら、私と一緒に何処へでも行けるようになる」

自分の魔力を練り込んだ柔らかい玉を口許に差し出す。

口に含みすべて舐めきったところで名前を思い付いた。

「ムーンと言うのはどうだ?私の月の文字からなのだが」

「はい」
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