下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
51 / 68
秋の国

.

しおりを挟む
山菜汁を堪能したあと、お風呂にのんびりと浸かり、明日冬弥が帰ってしまうのでと寝るまえに手紙を書いて渡す。

「栞さんに。いつも困らせてるから、手紙ぐらいいいかなって」

「喜ぶと思います。私にはないんですか?」

「え?今会ってるし……」

あからさまに肩を落としているので、今度までに光の玉を作れるようになっておくと約束し、布団に潜ってから翡翠のことを思い出す。

「忘れてた!外かな?」

「漆もいますから、影に入れてると思いますよ?」

「影の狐の影の中?入れるの?」

「漆と琥珀は出来ます。神気もかなり渡してありますし、元々彼らは強いので」

「だったら安心かな」

そう言って眠りについてどのくらい経ったのか、真夜中に漆が飛び込んできて、翡翠を「隠せ」と言って投げてくる。

「え?え?何?」

「早う隠さんか!」

「は、はい!」

翡翠も何が何だかわかっていないのか、きょとんとした顔でこちらを見てくるが、とにかく言われた通りにしようと言って影に入ってもらう。

「ゆっきー!結界です。結界をバーンとして下さい」

尻尾の毛が逆だった紫狐が結界と言ったので、部屋に仕込んでおいた結界を発動し、部屋を守ることに専念する。

「白、黒、冬弥さんに続いて。金と銀は重次さんを守って」

「雪は?」

「僕はいい。平気だよ」

みんながそれぞれの位置につき、なにが起きているのか説明して欲しいと思いながらも、歩いていくことが出来ないので、そっと車椅子に座り、車椅子の結界も発動しておく。

「雪、人形 ひとがたのやつで外見に行かせれるよ。前みたいに息ふきかけて」

「金、でも僕持ってない……」

「なんの紙でもいいから!」

それでいいのか?と思いながらも言われたとおりに書き、息を吹きかけて式を飛ばして外の様子を見る。

外には誰もおらず、厩と荷台の方を見に行くと、荷台にかなりの数の蛇がまとわりついている。

いつの間に外に出たのか、重次が狐たちと一緒に蛇を踏み潰していき、旅館の天上の蛇の中でも一番大きな蛇と冬弥が戦っている。

式を消し、意識を自分に戻すと「ダメですね、まだ二つ同時には何もできていない」と蛇から人の姿に変わった九堂に顔を近づけられ、ズボッと影の中に手を入れられ、解読した紙の束を取られる。

「最初から僕に解読させようとしてたんだ……」

「その通り。ここまで本体で来るのには苦労しました。人の荷に隠れたり、影に混じったりと。それに前の戦いでの怪我がなかなか治らずにいたので、それにも苦労しました。流石は天狐。容赦無いです」

「どうしてここが分かったの?」

「航平くんでしたっけ?彼の影に隠れて話も聞いてましたから、皆さんが雪翔君の居場所の話をしているのを聞いて、チャンスだと思ったんです」

ジュルリと大きな音を立てて舌舐りしたあとに、「安心してください。航平君には何もしてませんから」

「返してよ。その紙、みんなで暗号といたんだから!」

「助かりましたよ?では、私は君の怖いお父さんが来る前に退散します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。 下宿屋は一体どうなるのか! そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___ ※※※※※ 下宿屋東風荘 第二弾。

下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 そして雪翔を息子に迎えこれからの生活を夢見るも、天狐となった冬弥は修行でなかなか下宿に戻れず。 その間に息子の雪翔は高校生になりはしたが、離れていたために苦労している息子を助けることも出来ず、後悔ばかりしていたが、やっとの事で再会を果たし、新しく下宿屋を建て替えるが___ ※※※※※

下宿屋 東風荘 4

浅井 ことは
キャラ文芸
下宿屋 東風荘4 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 大きくなった下宿に総勢20人の高校生と大学生が入ることになり、それを手伝いながら夜間の学校に通うようになった雪翔。 天狐の義父に社狐の継母、叔父の社狐の那智に祖父母の溺愛を受け、どんどん甘やかされていくがついに反抗期____!? ほのぼの美味しいファンタジー。 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 表紙・挿絵:深月くるみ様 イラストの無断転用は固くお断りさせて頂いております。 ☆マークの話は挿絵入りです。

カフェひなたぼっこ

松田 詩依
キャラ文芸
 関東圏にある小さな町「日和町」  駅を降りると皆、大河川に架かる橋を渡り我が家へと帰ってゆく。そしてそんな彼らが必ず通るのが「ひより商店街」である。   日和町にデパートなくとも、ひより商店街で揃わぬ物はなし。とまで言わしめる程、多種多様な店舗が立ち並び、昼夜問わず人々で賑わっている昔ながらの商店街。  その中に、ひっそりと佇む十坪にも満たない小さな小さなカフェ「ひなたぼっこ」  店内は六つのカウンター席のみ。狭い店内には日中その名を表すように、ぽかぽかとした心地よい陽気が差し込む。  店先に置かれた小さな座布団の近くには「看板猫 虎次郎」と書かれた手作り感溢れる看板が置かれている。だが、その者が仕事を勤めているかはその日の気分次第。  「おまかせランチ」と「おまかせスイーツ」のたった二つのメニューを下げたその店を一人で営むのは--泣く子も黙る、般若のような強面を下げた男、瀬野弘太郎である。 ※2020.4.12 新装開店致しました 不定期更新※

あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい
キャラ文芸
「怖がられるから、秘密にしないと」 会社員の穂乃花は生まれつき、あやかしと呼ばれるだろう変なものを見る体質だった。そのために他人と距離を置いて暮らしていたのに、恋人である雪斗の母親に秘密を知られ、案の定怖がられてしまう。このままだと結婚できないかもと悩んでいると「気分転換に引っ越ししない?」と雪斗の誘いがかかった。引っ越し先は、恋人の祖父母が住んでいた田舎の山中。そこには賑やかご近所さんがたくさんいるようで、だんだんと田舎暮らしが気に入って――……。 これは、どこかにひっそりとあるかもしれない、ちょっとおかしくて優しい日常のお話。 エブリスタに投稿している「穂乃花さんは、おかしな隣人と戯れる。」の改稿版です。 表紙はてんぱる様のフリー素材を使用させていただきました。

妖古書堂のグルメな店主

浅井 ことは
キャラ文芸
裏路地にある小汚い古本屋 店主はいつもテーブルに座って本を読んでいるだけ。 立ち読みにはいいかと寄ったのが運の尽き。突然「うちで働いてみませんか?」と声をかけられたのは良いものの、本の整理をするバイトだと思っていたら____

下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*°☆.。.:*・°☆*:.. 楽しい旅行のあと、陰陽師を名乗る男から奇襲を受けた下宿屋 東風荘。 それぞれの社のお狐達が守ってくれる中、幼馴染航平もお狐様の養子となり、新たに新学期を迎えるが______ 雪翔に平穏な日々はいつ訪れるのか…… ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

処理中です...