下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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座布団に座って、後ろの幌を少し開けて見ると、ただの山の中。

自分たちが通っている以外誰もいないが、その割にはよく木の枝が揺れる。

「しーちゃん、しーちゃん」

「はい?」

「見て。何だか木の枝が左右で揺れてない?」

「そう言われてみれば……あ!重次さん、速度上げてください!」

紫狐がいきなり言うので檪も出てきてしまい、覗こうとする金と銀に戻れと頭を抑えている。

「雪も中に。その紐をきつく縛っておかないと……」

「いっちー、屋根に……」

紫狐の言葉で上を見ると、ビリッという音と共に上の布が刃物で切られ、そこから誰かが覗いている目と目が合った。

「あ……重次さん!」

「坊っちゃま、私は前で手一杯です!」

「け、結界───」

どこかに行けと思いながら、強く念じると馬車の荷台と桔花までが半透明の白い幕のようなもので覆われ、外からは「うわぁー」という声と誰かの落ちる音が複数したので、御者台の方へと移動する。

「坊っちゃま、お手柄です。もうしばらくこの結界は持ちますか?」

「う、うん、頑張る」

そう言いながら、短い針を出して重次の前に一本刺してもらい、中にも四隅に刺していき二重結界を張る。

「上手くいくかわからないけど……」

と言いながら、メモ帳を見ながら『発動』と言うと、今度は周りだけが光る五芒星の結界ができた。

「ゆっきー、これは?」

「えっと、二重結界で、誰も入ってこれないの。僕が嫌がる人は入れないようになるんだ。外のは白い膜みたいになってるけど、多分札も使ったからだと思う。悔しいけど、九堂みたいに分身させれたら、御者台にも重次さんの代わりを置いて進むことが出来るんだろうけど、僕にはまだできないみたい」

「その、これはこちらからの攻撃はできるんでしたよね?」

「うん。でも外側は札のおかげだから、いつまで持つのか僕にもわかんない。さっきの何?」

「野党の小者です。このあたりにはあまり出ないと思ってましたが。もう少し先だと思って油断しました」

「びっくりした。今の内にあの屋根縫っておこう」

「でも届きませんよ?」

「金、銀。お願い」

任せろと言わんばかりに張り切って出てきたと思ったら、人型の紙を渡され「雪が使え」と言われてしまった。

「僕、まだ本読んだだけで使えないよ?」

「あれに書いてあるとおりで出来る。後は雪の思いが強いほど本物に近くなるし、思い描いた形になって動くから」

「そうなのかな?」

言われた通りに息を吹きかけると、ただの紙人形が人の形になり、自分そっくりとなって浮かび、針と糸で幌を直していく。

全体的にほころびを直し、そのあと目を瞑り、意識を一度閉じると蜃気楼のように消えていなくなった。

「出来た!」

「雪はやらないだけなんだよ。あの本のとおりにすれば出来るのに」

「兄ちゃんも最近できるようになったんじゃん」

「馬鹿!秘密だって言ったろ?」

「銀はできないの?」

「僕は動物を作る方が得意なんだよ。特に狼!」

「どうして?」

「カッコいいから」

理由はそれだけだというので、今度見せてねと言って座布団に座り、「疲れた……」と横になるものの、結界を解いてもいいとまだ重次に言われていない。

「どうやら、まだ幾人かおるようだ」

「え?」

「追いかけてくる気配がする。この結界は強い。だからと言って、俺の力が半減することはないが、距離があるのかはっきりと人数まではわからん」
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