19 / 68
南中心街から秋へ
.
しおりを挟む
冬弥と栞から少し離れたところに立って、背後からはいつでも支えられるようにと重次が立つ。
「行くよ?」
右足を半歩。左足を半歩とほんの少しずつ足を動かして前に進む。
動きとしてはロボットのようだが、前よりも大分と関節が動いているので、足もちゃんと前に出る。
冬弥と栞までの距離は三人がけソファ一つ分しかなかったが、ゆっくりでも歩けたことをとっても喜んでくれた。
「栞さん、僕リハビリもちゃんとやってるからね?膝が思うようにまだ曲がらなくてへんな歩き方だけど、支えてもらわずに歩けた!僕頑張るね」
「雪翔君……」
「よく頑張りましたね。後は膝ですか……」
「うん、立つとうまく曲がらないというか、まだ踏ん張れないっていうか……」
「今これだけ歩けたんです。大丈夫、必ず良くなります」
薬を飲んだならもう寝なさいと言われて、久しぶりに自分の布団に入ると、放ったらかしにしていて怒っていたのか、翡翠が布団の中に入ってくる。
「もう、真ん中はダメだってば!しーちゃんもだよ!僕の寝る場所が……」
そんなことを言いつつ眠りに落ち、朝は翡翠の鳴き声で起こされる。
「ひーたんの!ひーたんの!ひーたんの!」
「うるさーーーい!何?朝から!翡翠なんで泣いてんの?」
「ひーたんの……いちごぉぉぉ」
「あのですね、ひーちゃんが寒いからお洋服を着ると言って出してきたこのイチゴ柄のモコモコのお洋服が破れてしまったんですー」
「どこかに引っ掛けたの?」
「ほんの少しですが大きくなったようで。その、丸い方に……お袖を通したら、ビリっと」
「翡翠が何でもかんでも食べてるからじゃん。もう小さいってことだよね?」
「はいー。たぶん栞様でももうお直しは無理だとおもいますー」
「ひーちゃん、今日病院の帰りに、お洋服屋さんに連れて行ってあげる。同じお洋服あると思うよ?前に行った時にも沢山かかってたから」
「ひーたんの?」
「え、うん。だから、少し大きいの買って、栞さんに直してもらおう」
「あ、あいっ!」
「だからもう泣いちゃダメ。分かった?」
「あいっ……」
そう言いながらもいちごの洋服を抱きしめているので、栞のところに連れていき、事情を話す。
「そうねぇ。二つくらい大きいの買ってきたら?今は寒いから手足はいつも隠してるし、長めでもいいと思うけど」
「二つだと大きすぎない?」
「だって……これのひと回り上だと多分お腹周りがパンパンよ?」と小声で教えてくれる。
ある程度は直してくれるというので、大きいのを買ってくるといい、古いいちごの洋服は、栞がいちご型の小さなクッションにしてくれると言うので、翡翠もいちご型に喜んで大人しく渡していた。
朝ごはんは下宿で食べると言って、病院の準備をしてから行くと、やっと帰ってきたとみんなからお土産を渡される。
「海都君、旅行いってたの?」
「うん、珍しくみんな揃うからって、父ちゃんのお兄さん一家と、じいちゃん達も一緒に。俺が高校最後だからだって」
お土産を見ると明らかに言ったであろう場所がわかる、マーライオン。
置物だが、真ん中に小さな時計がついている。
「ありがとう。海外行ったんだ」
「飛行機はやっぱり慣れないけど、たくさん食べてきた!」
「俺たちからはこれな」
もらったクッキーの箱には、長野と書いてあったので、二人で温泉に行ったの?と聞くと「スキーだよ」と教えてくれた。
「寒いのにスキー?」
「だからだろ?スノボもしたけど、旅館の飯と温泉は最高だった」
「可愛い子もいたしな」
「二人とも目的が……」
「いいのいいの。それよりさ、航平が那智さんの家からまだ帰ってこないんだよ」
「どこか行ってるのかな?」
「すれ違いでいったから、聞いてないんだ。冬弥さんも那智さんの所って言うだけだから。ラストくらいみんなで飲み会したかったんだけどな」
「行くよ?」
右足を半歩。左足を半歩とほんの少しずつ足を動かして前に進む。
動きとしてはロボットのようだが、前よりも大分と関節が動いているので、足もちゃんと前に出る。
冬弥と栞までの距離は三人がけソファ一つ分しかなかったが、ゆっくりでも歩けたことをとっても喜んでくれた。
「栞さん、僕リハビリもちゃんとやってるからね?膝が思うようにまだ曲がらなくてへんな歩き方だけど、支えてもらわずに歩けた!僕頑張るね」
「雪翔君……」
「よく頑張りましたね。後は膝ですか……」
「うん、立つとうまく曲がらないというか、まだ踏ん張れないっていうか……」
「今これだけ歩けたんです。大丈夫、必ず良くなります」
薬を飲んだならもう寝なさいと言われて、久しぶりに自分の布団に入ると、放ったらかしにしていて怒っていたのか、翡翠が布団の中に入ってくる。
「もう、真ん中はダメだってば!しーちゃんもだよ!僕の寝る場所が……」
そんなことを言いつつ眠りに落ち、朝は翡翠の鳴き声で起こされる。
「ひーたんの!ひーたんの!ひーたんの!」
「うるさーーーい!何?朝から!翡翠なんで泣いてんの?」
「ひーたんの……いちごぉぉぉ」
「あのですね、ひーちゃんが寒いからお洋服を着ると言って出してきたこのイチゴ柄のモコモコのお洋服が破れてしまったんですー」
「どこかに引っ掛けたの?」
「ほんの少しですが大きくなったようで。その、丸い方に……お袖を通したら、ビリっと」
「翡翠が何でもかんでも食べてるからじゃん。もう小さいってことだよね?」
「はいー。たぶん栞様でももうお直しは無理だとおもいますー」
「ひーちゃん、今日病院の帰りに、お洋服屋さんに連れて行ってあげる。同じお洋服あると思うよ?前に行った時にも沢山かかってたから」
「ひーたんの?」
「え、うん。だから、少し大きいの買って、栞さんに直してもらおう」
「あ、あいっ!」
「だからもう泣いちゃダメ。分かった?」
「あいっ……」
そう言いながらもいちごの洋服を抱きしめているので、栞のところに連れていき、事情を話す。
「そうねぇ。二つくらい大きいの買ってきたら?今は寒いから手足はいつも隠してるし、長めでもいいと思うけど」
「二つだと大きすぎない?」
「だって……これのひと回り上だと多分お腹周りがパンパンよ?」と小声で教えてくれる。
ある程度は直してくれるというので、大きいのを買ってくるといい、古いいちごの洋服は、栞がいちご型の小さなクッションにしてくれると言うので、翡翠もいちご型に喜んで大人しく渡していた。
朝ごはんは下宿で食べると言って、病院の準備をしてから行くと、やっと帰ってきたとみんなからお土産を渡される。
「海都君、旅行いってたの?」
「うん、珍しくみんな揃うからって、父ちゃんのお兄さん一家と、じいちゃん達も一緒に。俺が高校最後だからだって」
お土産を見ると明らかに言ったであろう場所がわかる、マーライオン。
置物だが、真ん中に小さな時計がついている。
「ありがとう。海外行ったんだ」
「飛行機はやっぱり慣れないけど、たくさん食べてきた!」
「俺たちからはこれな」
もらったクッキーの箱には、長野と書いてあったので、二人で温泉に行ったの?と聞くと「スキーだよ」と教えてくれた。
「寒いのにスキー?」
「だからだろ?スノボもしたけど、旅館の飯と温泉は最高だった」
「可愛い子もいたしな」
「二人とも目的が……」
「いいのいいの。それよりさ、航平が那智さんの家からまだ帰ってこないんだよ」
「どこか行ってるのかな?」
「すれ違いでいったから、聞いてないんだ。冬弥さんも那智さんの所って言うだけだから。ラストくらいみんなで飲み会したかったんだけどな」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる