下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは

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南中心街から秋へ

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人間の世界でもサーカスはテレビでしか見たことがなかったが、人ではなく動物達が次々と笛や太鼓の音に合わせて踊ったり、空中ブランコや綱渡り、虎は火の輪くぐりをして、大詰めのライオンが登場して周りは拍手で凄かった。

「それでは最後になりますが、ライオンの曲芸となります」

その言葉のあと、ライオンが台上に上がり大きなバランスボールくらいのボールの上に乗って舞台を1周したかと思ったその時、勢いよくジャンプして客席に舞い降りた。

ガルルルル__

ゆっくり歩く姿は流石に優美だと言いたいところだったが、来ている方向は自分の方。
逃げようにも周りが逃げ始めていて車椅子で逃げるには時間が無い。

結界を張ろうにも、車椅子に仕掛けてあるだけなので、重次が守れない。

「うそ……」

目の前に来たライオンに飛びかかられると思ってどうしようか迷っていたら、目の前で犬でいうところのお座りをし、こちらをじっと見てくるが、大きさが大きさなので、目の前にいることがとても怖い。

車椅子を少し動かし後ろに下がると、ジリジリと近づいてくるので、しばらく様子を伺う。

「坊っちゃま今の内に……」

「待って。このライオン、大きいから怖いって思ってたけど、全然怖くない……?」

「何かあってからでは遅いです!」

重次に言われたが、そっと手を前に出すと、観客たちはキャー!と言って騒ぎ、サーカスの団長さんも弓矢を持ってライオンに向かって構えている。

「キミ、僕に用なの?」

出した手をぺろっと舐め、頬などを擦り付けてくるので、中にいる紫狐に話しかけると、『おわり、しょー、きてくれ。と言ってますー』

と、わかる範囲で通訳してくれたので、ライオンの前でうなづき、重次にも大丈夫だと言う。

団長のはなった弓が背中の部分に刺さり、よこにたおれたので、眠薬かなにかだと思い、ライオンが連れられていくのを見てから終りとなったので、出口で重次に先程のことを話す。

「坊ちゃん方、お待ちください!」

「あ、さっきの……」

「お怪我は御座いませんでしょうか?」

「はい」

「良かった。あの、ここでは何ですので、テントの方に宜しいですか?」

丁寧に言われたので断ることはせずについて行くと、事務所のように使われているテントに通され改めて謝罪をされる。

「それで、ここは穏便に済ませていただけるとありがたいんですが……」

「ああ、役人のことですか?」

「役人?」

「あのような場合、役人に通報して処分してもらうのが一般的なんです」

「いいよ。僕、怪我もしてないし、殺すなんて可愛そうだよ」

「ありがとうございます。普段はいうことを聞くおとなしい子なんです」

そのあと、お礼をと言われたが断り、宿には帰らずにこっそりと動物のいるテントへと向かう。

「しーちゃん、本当にこっちなの?」

「匂いがしますー。違う動物の匂いなのでわかります」

動物のテントの前に付き、辺りを見回して誰もいないのを確認してから入ると、ライオンが鎖に繋がれて横になっていた。
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