下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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なんとかみんなが祖父を説得してくれたと、紫狐からの連絡を受けたのが真夜中。

それまで小屋のような家、本しかないと聞いていたが、明らかにがらくた置き場となっており、家で言っていた一部だとすぐにわかったので、寝る場所をとりあえず確保することから始まった。

「物的に一箇所におけそうだよね?全部隣の部屋に入れちゃう?」

「そうですね。重いものは私が移動しますから、窓を開けてください。ホコリが舞うと思います」

手分けして隣の部屋に荷物を押し込んで、箒で掃き掃除をしてから布団を敷き、竈でお湯を沸かしてお茶を入れて一服する。

「お爺ちゃん来たらどうしよう」

「教えないと思いますよ?気を探れば早いですが、今頃、どんな顔をして会えばいいのかと悩んでおられるかも知れません」

「そうかな?」

「それに……三郎、四郎、降りてきてください。バレバレですよ?」と重次がどこを見ることも無く言うと、音も立てずに二人が屋根裏から降りてきた。

「坊ちゃん……」

「ごめんね。あの、お爺ちゃんは?」

「坊ちゃんのあっかんべーで腰を抜かしておられました」

「え?なんで?」

「孫に嫌われたと……」

「何でそうなるのかなぁ?僕、すっごく悩んだのに!」

「お館様からしたらあのような事は初めてだったのではないかと思うのですが」

「そ、そうなんだ」

詳しい話は重次がしてくれることとなり、お茶しかなかったので、それで薬を飲んでウトウトとしていると、閉めたはずの扉がガタガタと揺れ、雪翔ー!雪翔ー!と呼ぶ声が聞こえる。

「怖っ!お爺ちゃんかな?」

「声からしてそうかと」

こんなことには使いたくなかったがと、五芒星を発動させて扉を開けると、案の定祖父が飛びついてきたものの、五芒星に弾かれてすっ転んでしまう。

「いてて。何じゃそれは……冬弥の言うておったものか?」

「お爺ちゃん絶対飛びかかってくるんだもん。僕の安全策の一つ!と言いたいところだけど、少しは僕を信じてよ」

「よう分かった。じゃが、警護はつける。これだけは譲れん」

それ以外は自由にしていいというので、前から行きたかった場所。旅行ではないが、少ない人数で旅をしたいと祖父に申し出る。

「僕、秋も冬も見てみたいんだ。誰かに守られるんじゃなくて、自分で。もちろん、一人ではできないこともあると思うから、一人だけ誰かをつけて欲しいんだけど」とチラッと重次を見る。

「学校や病院はどうする?」

「この紐に念じたらいいんでしょ?勉強もちゃんとするし、その時はあっちに戻るのに助けてもらわなくちゃいけないけど、二週間に一度だし、社を飛んで見に行くんじゃなくて、自分でしてみたいんだ」

「荷馬車に揺られ、時には歩き、場所によっては泊まる宿もないところもあるぞ?」

「うん。それでも行きたい」

「分かった。その代わり、必ず何かあれば連絡をするのじゃ。それだけは約束しておくれ。でないと、儂の心臓が持たんわい。で、もう決めておるということは、いつ行くのじゃ?この事は冬弥は知っておるのか?」

「話して無い……反対するもん。特に栞さんが。でも、冬弥さんは気づいてると思うんだ。だからね、お正月のお祭りの最中にこそっと出たいの。お爺ちゃん、その位簡単に出来るでしょ?」

「荷物はどうする?路銀は?山に行くにつれ、山賊も出れば、街もなくなる。路銀も盗まれぬようにせねばいかんし……」

「だから重次さんを選んだの。ほんとは、二人でいいんだけど、お爺ちゃん勝手につけるでしょ?」

「わかったわかった!三郎、四郎、雪翔の荷物を纏めてここへ持ってくるのじゃ。ある程度は残しての。薬を忘れるでないぞ?」

「ありがとう、お爺ちゃん!」

「本当は儂とて賛成はできぬ。じゃが、二週後には場所もわかるし、ちゃんと学校と病院に行くこと、何かあれば中止でよいな?あちらでは護衛はつけるぞ?」

「うん。それでいい!」

「でじゃ、せめて儂とは連絡を取ってくれんか。何、大雑把で構わん。今どこにいるとだけでも。これでも呼ばれたからとてすぐに行くのも場所を特定したりして時間がかかるのじゃ」

「邪魔しない?」

「し、したら怒るのじゃろ?」

「うん、みんな嫌いになると思う」

「せんせん!わかったから怖いことを言うでない」

「冬弥さんにもないしょだよ?」

「分かっておる」

「じゃが、重次とはのぅ」

「うん、他のみんなと比べたら慣れてそうだし、リハビリもしてもらえるし。それに、知識が四郎さん、技が三郎さんだとすれば、重次さんは両方出来るって思ったから」
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