下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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東の浮遊城

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夕方まで、筋肉痛だと言いながら周太郎を手伝い、何とか完成した針を車椅子や鞄などに分けて入れ、影の中にも残りを入れておいてもらう。

「結構な量がありますが……」

「影の中に入れたから使い回せたら良いんだけど。この材料あっちにはないのかな?」

「探せばそれなりのものはあるでしょうが、強度は落ちるかと。それと、手入れにこれを」

渡されたのはヤスリのように見えるが、研ぐ事と艶を出すことが一緒にできる両面の便利なものだったので、それも影の中に入れて残骸を片付けるのを手伝う。

「ねえ、周太郎さん。前に僕が練習で石に札を巻き付けて投げたの話したよね?」

「はい」

「あの時、僕、当たると思ってなかったんだ。でも当たれって思いながら投げると遠くまで飛ぶんだ……これもその力なのかな?」

「そうだと思いますが。坊ちゃん、また御札をたくさん書いてらしたでしょう?ご自分を守ることに使ってくださいね?」

「うん。わかってる。でも札もある意味媒介するためのものって書いてあったんだ。そのうち無くてもできるようになるのかな?」

「これだけ練習してるんですから出来ますとも」

夕餉に合わせて胡蝶が蘭と一緒に来たので、一緒にカレーを食べ、サラダも沢山食べるが、朝のリハビリと称した訓練に体がやはりついていけてなかったのか、筋肉痛でスプーンを持つ手が震える。

「どうかしたのかえ?」

「立つ練習とかしてたから、筋肉痛のピーク見たいです。腕もプルプルしちゃって」

「そればかりは治せぬことは無いが、体のためと思うて耐えねばのぅ。にしても、このカレーというのはまた美味じゃ」

「幸さんが作ってくれたんですけど、辛くないですか?」

「蘭から聞いておったのは、もっと辛くて緑色のもので、パンのようなものにつけるとか」

「それ、外国のカレーのことかな?辛いのを食べる国があるから」

「なんと。もっと種類があるとは……一度食してみたいものよのぅ」

外国のカレーの話や、他にも珍しい食べ物の話で盛り上がり、食後はコーヒーを飲んで今後のことについて話があると言われる。

「みんな揃っておるかの?儂と冬弥、胡蝶と昴で話し合いをしたのじゃが、冬の間雪翔は妖街の儂の家で預かることとする。勿論、学校や病院の日はあちらに返すが、その際も一泊のみ、付き添いは冬弥を抜いて天狐が一人、四社の狐、風の一族が持ち回りで警護することとする」

「お爺ちゃん!僕そんなこと聞いてない!」

「決定じゃよ雪翔。胡蝶と昴が動け無い時には蘭が来てくれるそうじゃ」

「お爺ちゃん!」

「あの、俺は?」

「航平は行ったりきたりで良いぞ?大学にも行かねばならんし、お主には病院の予約と学校の日がおなじになるように手配してもらいたいんじゃ」

「分かりました」

「雪翔、そんなにしょんぼりするでない。病院と学校が終ったら、家に帰って一日のんびりできるし、冬弥も行き来してくれる。なんなら、南の家に遊びに行ってそこから通っても構わん」

「僕だけ残るの?」

「週末は栞さんや侑弥も遊びに来るし、しばらくの辛抱じゃ」

「いつまで?九堂って人から巻物奪うまで?僕が鍵って言ってたから、その場所に行くまで?僕、ここの国が好きだけど、向こうにも居たいよ」
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